巷にあふれる「◯◯したら妊娠できた」「◯◯はNG !」といった妊娠にまつわる噂や俗説。本当に信じて大丈夫?
なかむらレディースクリニックの中村嘉宏先生に医師の立場から教えていただきました。
なかむらレディースクリニック 中村 嘉宏 先生 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。
成人男性が「おたふくかぜ」にかかると不妊になる?
主人は子どもの頃に「おたふくかぜ」にかかったのに、この間また片耳だけなりました。成人して「おたふくかぜ」にかかると男性不妊になるのですか? いちごさん(35歳)
成人男性はおたふくかぜにかかると精巣炎を起こし、男性不妊になる可能性があります。
おたふくかぜは、正式には流行性耳下腺炎といい、ムンプスウイルスの感染により起こります。
思春期以降の流行性耳下腺炎の約20%に精巣炎が合併します。
耳下腺炎発症の3〜5日後に痛みを伴って精巣が腫れてきた時は精巣炎を疑います。精巣炎も片方だけの場合も両側に起こる場合もあります。通常1週間程度で治まるのですが、炎症が長引いた場合や程度により精子形成障害が起こり、時には無精子症になる場合もあります。
精巣に炎症が認められた時は、早期の精子凍結をおすすめします。
卵管通過性検査で妊娠率がアップしますか?
噂によると、卵管通過性検査をした後は妊娠率がアップする方もいるようです。卵管通過性検査で卵管が開いた状態はどのくらい続くものなのでしょうか? くみさん(33歳)
卵管通過性検査で妊娠率が上がる可能性はありますが、確実に妊娠率を上げる、F T(卵管鏡下卵管形成術)をおすすめします。
卵管通過性検査は、X 線下子宮卵管造影検査、超音波下子宮卵管造影検査、卵管通気検査の3つがあります。これまではX 線下子宮卵管造影検査が中心でしたが、被曝の問題や、造影剤が体内に残る可能性、造影剤に含まれるヨードが甲状腺に悪影響を与える心配があります。
そのため、当院は超音波下子宮卵管造影検査を行っています。これは空気と水を交互に送り、卵管の通りを観察するシンプルな方法です。生理食塩水を使うのですぐに体内に吸収され、痛みも少なくなっています。
昔から経験的に卵管通過性検査の後に卵管の通過性が改善し、妊娠率が上がることが知られていました。体外受精が普及する前は、原因不明不妊の方に通水検査を数回行い妊娠率の向上を期待したりしていました。
ただ、通水検査は確実性に乏しく、感染の危険もあるため、卵管の通過性が悪い場合は「F T(卵管鏡下卵管形成術)」をおすすめします。当院ではダブルスコープ法という子宮鏡を組み合わせたより確実な方法で卵管の通過性を改善させています。FT 後の妊娠率は半年間で約40%です。
この期間を過ぎても結果が得られない場合、卵管の再閉塞の可能性のほかに、卵子のピックアップ障害の可能性も考えられます。その場合は体外受精が有効な治療法になります。
新型コロナワクチンを接種すると不妊になる?
コロナワクチンで不妊になるという噂がありますが、本当ですか? 不妊にならないといわれていますが、実際にワクチン接種後に妊娠された方はいますか? Shiho さん(31歳)
新型コロナワクチンで不妊になることは、女性も男性もありません。逆にコロナ感染が精子形成に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
新型コロナワクチンの普及が早かった国では、妊活中にワクチン接種をした多くの女性が健康な赤ちゃんを産んでいます。ワクチン接種によって流産率が上昇する、あるいは出産後の赤ちゃんにワクチンによる形態異常の頻度が増えるという報告はありません。
また、ワクチン接種後の長期的な影響を心配される方も多いと思いますが、基本的にワクチンに含まれる「m R N A」は短期間で分解され、また遺伝子を包んでいる核膜を通過できないため、遺伝子(D N A)に組み込まれることはないとされています。
一方、男性の場合、新型コロナウイルスに感染後、精液量や精子数が減少する症例も報告されており、コロナ感染が不妊のリスクになる可能性が心配されます。妊活中の方は、家庭内感染も増えていますから、夫婦そろって早めの接種をおすすめします。
インターネット上には新型コロナワクチンに関連したさまざまな情報が多く出回っています。そのなかには、根拠のないものも多く、「新型コロナワクチンで不妊になる」といった情報もその一つです。インターネットを利用する場合は、厚生労働省や日本産科婦人科学会、日本生殖医学会など信頼のおける機関が発表している根拠に基づいた情報を得るようにしましょう。ワクチン接種に不安がある方もこれらのホームページを参考にして検討されるといいと思います。
中村先生より
男性不妊を高める病気や疾患のなかで一番手ごわいのは、精子を減らす「おたふくかぜ」です。その次に注意したいのがクラミジアや淋菌などの性感染症。精子を運ぶ管が細菌感染によって炎症を起こして詰まってしまうと、射出精子の中に精子がいなくなる閉塞性無精子症を起こす可能性があります。さらに、知らないうちにパートナーにうつしてしまうと、女性も不妊のリスクが高くなりますので、カップルともに性感染症には注意しましょう。