妊娠前に知っておきたい、出生前診断のこと

出生前診断というと、血液検査のみでできる「染色体異常を調べる検査」をイメージする人も多いのではないでしょうか。じつは「染色体異常を調べるだけでは、出生前診断としては不十分なんです」と、レディース&A R Tクリニック サンタクルス ザ ウメダの吉田昌弘先生。出生前診断の正しい考え方や、検査を受けるときの注意点について教えていただきました。

レディース&A R Tクリニック サンタクルス ザ ウメダ 吉田昌弘 先生 京都大学医学部附属病院、大阪赤十字病院、大阪府済生会茨木病院、大阪府済生会野江病院、関西電力病院 産婦人科を歴任。その後、「不妊治療から出産、子育てまで」をコンセプトに、「レディース&マタニティクリニック サンタクルス シュクガワ」など兵庫県内に3施設を展開。2019年、同院を開業。「お子さんの誕生は当たり前ではなく、まさに‘奇跡’です。出産までに人によってはさまざまな道のりがありますが、そのなかでもお一人でも多くのカップルの奇跡に寄り添いたいと思っています」

「出生前診断=染色体異常を調べる検査」ではない?

出生前診断とは、生まれる前の赤ちゃんがどのような病気を持っているかを調べる検査です。赤ちゃんの先天性の病気には次のようなものがあり、出生前診断によってその一部を調べることができます。

・多因子遺伝(心奇形、口唇口蓋裂、神経管閉鎖不全など)50%

・染色体の異常(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー、不均衡型転座など)25%

・単一遺伝子の異常(先天性代謝異常、筋ジストロフィー、多指症、骨の疾患など)20%

・環境催奇形因子(薬剤性、ウイルス感染など)

このような病気を調べる出生前診断には、大きく2つの検査があります。

(1)赤ちゃんの臓器などの形態の異常を調べる「形態的な検査」

形態的な検査は、一般の妊婦検診で胎児エコーといわれる超音波検査のことです。じつはこれも出生前診断の一つです。超音波検査によって先天性の形態異常(心奇形、口唇口蓋裂、多指症、骨の疾患など)が3.5〜5%の確率で見つかることがあります。

(2)染色体異常のリスクを評価・診断する「遺伝的な検査」

遺伝的な検査は、カップルのご希望によって任意に行う検査です。当院は国のガイドラインに沿って、妊娠9〜10週目の全例の妊婦さんに、検査に関する情報提供を行っています。しかし、最終的にこの検査を受けられるかどうかは、それぞれのお考えによります。

染色体異常を調べる検査の種類はさまざま

遺伝的な検査は、とくに超音波検査で異常が見つかった方や、流産を経験された方、ダウン症のご家族がおられる方などが希望されることがあります。どこまで検査されるかにもよりますが、一般的には「スクリーニング検査」→「確定検査」のステップで行われます。超音波検査であきらかな異常が認められたときは、スクリーニング検査をとばして確定検査が検討されることもあります。

<スクリーニング検査(非確定検査)を受ける最適な期間と種類>

・OSCAR検査(コンバインド検査)11〜13週

・クアトロ検査(母子血清マーカー検査)15〜17週

・NIPT検査(母子血胎児染色体検査)10週以降

スクリーニング検査(非確定検査)は、母体の血液検査で赤ちゃんの染色体異常のリスクを評価する検査です。たとえば、当院は超音波検査と血液検査を組み合わせたOSCAR検査を採用しています。イギリスなどでは国が推奨・助成しているメジャーな検査で、検査から最短2日で結果がわかります。

いずれの検査も母体への負担が少なく、流産のリスクがありません。一方で、確定診断ができないため、「染色体異常のリスクが高い」と評価された場合は、次の確定検査が検討されることもあります。また、リスクの評価が高くもなく、低くもなく中途半端な結果になってしまったときは、かえってカップルの迷いや悩みの要因になることもあります。

<確定検査を受ける最適な期間と種類>

・絨毛検査 11〜14週

・羊水検査 15〜16週

絨毛検査と羊水検査は、母体の腹部に針を刺して絨毛や羊水を採取し、赤ちゃんの染色体やDNAの異常を調べる検査です。母体への負担が大きく、流産や破水のリスクは絨毛検査が約1%、羊水検査が約0.3%とされています。熟練した技術が求められる絨毛検査を行う施設はまだ限られており、羊水検査が一般的です。そのなかで当院は絨毛検査を中心に行っています。QF-PCRという方法で検査から最短2日で結果がわかり、羊水検査よりも早い妊娠初期の段階で確定診断できるメリットがあります。

各検査のメリットとデメリットを理解して受けることが大切

妊婦検診に来られたお母さんが真っ先に聞きたいのは、「お子さんは元気に育っていますよ」という産婦人科医の一言でしょう。そのなかには超音波検査であきらかな異常はなくても、「心配だから出生前検査を受けたい」という方もおられます。それも一つの親心だと思います。ただ、一般的に健康とされる赤ちゃんでも100%完ぺきな状態ではないため、小さな問題をどこまで異常と考えるかは判断がむずかしいところです。また、出生前診断の検査精度も100%ではありません。

出生前診断の実施については、妊婦さんはもちろん、医師のなかでも意見が分かれます。たとえば、超音波検査で異常が見つかったり、スクリーニング検査で「染色体異常のリスクが高い」という評価が出ても、健康に生活できるお子さまもいます。確定診断を受けるかどうか、さらに出生前診断後の結果をどう受け止めるかは、それぞれのお考えによって大きく異なり、正解はありません。そのため、各検査のメリットとデメリットをしっかり理解して受けていただくことが大事です。

いま出生前診断を受けることを検討されたり、迷われている方は、出生前診断セミナーや遺伝カウンセラーによるカウンセリングを積極的に利用されるのも一つです。そのうえで、当院では出生前診断を受けて赤ちゃんに異常が見つかった場合は、その病気に合わせた妊娠中の治療法をはじめ、分娩法から出産後の育児にわたるフォローまで詳しい説明を行いつつ、それぞれのカップルが納得のいく選択につながるサポートを行っています。

吉田昌弘先生からのメッセージ

赤ちゃんの先天性の病気には染色体異常のほかにもさまざまなものがあり、スクリーニング検査のように血液検査のみで簡単に診断できるものではありません。当院の経験では80〜90%の妊婦さんは元気な赤ちゃんを出産されています。一方、そのなかの数%の赤ちゃんに異常が見つかることがあり、検査を受けることでかえってつらい思いをすることもあります。そのため、出生前診断は産科と小児科が連携し、出産後にわたり心身ともにサポートしてもらえる施設で受けられることをおすすめします。

 

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。