【Q&A】難治性細菌性膣症~政井先生

せっかくの妊娠、死産という結果はとても辛いものです。 その原因が分かった場合、どのような対応がいいのでしょうか? 政井先生にお聞きしました。

 

政井 哲兵 先生 鹿児島大学医学部卒業。東京都立府中病院、日本赤十字医 療センター、佐久市立国保浅間総合病院、高崎ARTクリニック 勤務を経て、2014年に佐久平エンゼルクリニックを開院。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
葉っぱさん(37歳)

今年の3月に21週で子宮頸管炎から陣痛→破水して死産しております。 死産後、子宮鏡検査をするため大学の不妊治療外来に通っています。 子宮鏡検査前に細菌性膣症と言われ、膣錠を使用。あまり治っていなかったですが次の生理後に子宮鏡検査を行いました。 慢性子宮内膜症と診断され、抗生物質を服用し、二回目の子宮鏡検査を行いましたが、少し改善した程度で少しポリープは残ってました。 けれど少しだったのでもう一度薬を飲むなどはせず、再度、おりもの検査。細菌性膣症が再発しており、今度は飲み薬の抗生物質を飲んで少し改善(ガードネラ菌+3、ラクトバチルス+2)、その後一回タイミング法を実施しました。 抗生物質を飲んでいた頃から膣が痒くなっており、再度、おりもの検査したところガードネラ菌とマイコプラズマ、それ以外の菌4種出てました。 担当医から難治性細菌性膣症が再発していると言われ、次もまた死産や流産の可能性もあるが抗菌剤をこれ以上使わず(耐性がついてしまうため)、このままタイミング法で妊活するよう言われてます。 また同じこと繰り返してあの絶望を味わうのは怖いです。 前回の妊娠でも8ヶ月かかり中々、妊娠しにくい身体であるかなとも思ってます。

基本的な知識として、難治性細菌性膣症について教えてください。

通常腟の中には多くの細菌が常在しており、そのうち乳酸菌(ラクトバチルス=善玉菌)によって適度な酸性に維持されており、この状態が膣内環境が良好であると考えられており、感染を起こすその他の細菌(悪玉菌)の増殖を阻止しています。
膣内の細菌のバランスが崩れ、悪玉菌優位になった状態が細菌性膣症であり、大量の生臭い帯下など不快な症状が続きます。
通常は数日程度の抗生剤の使用で完治することが多いですが、抗生剤を使用してもなかなか改善しないまたは一度改善したと思ってもすぐにぶり返すなどの状態が続き良くならない状態を難治性と表現しています。

「抗菌剤を使わずにタイミング法で妊活を」とのことです。先生ならどのような検査や治療を提案されますか?

細菌性膣症自体はごくありふれた病気ですが、実ははっきりした原因が分かっていない部分もあります。
何故悪玉菌優位の膣内細菌に置き換わってしまうのか?、様々な理由が指摘されていますが、これと言ったはっきりした原因が特定できる方もいればそうでない方もいます。
一説によると、オーラルセックス(男性の口腔内の細菌が女性の膣内に感染)、膣内射精(精液自体がアルカリ性なのでラクトバチルスの作用と相反する)、ストレス等(ストレスにより免疫系が撹乱され膣内の悪玉菌が一気に増える)など、様々な要因は指摘されていますが、これと言った原因がはっきりしない場合も多いと言われます。 まず、治療の基本的な考え方としては、
1、悪玉菌を減らす(感受性のある抗生物質による治療) 2、善玉菌を増やす(プロバイオティクス) になります。
1、については、従来の細菌培養に加えて、最近特にEMMA検査(子宮内マイクロバイオーム検査)、ALICE検査(慢性子宮内膜炎検査)などの新しい検査手法が出てきていますので、このようなもので、実際子宮内膜炎の有無や原因となっている悪玉菌の特定などを進めてみても良いかもしれません。 また、 2、については、ラクトフローラなど最近生きた乳酸菌を直接膣内に移植する方法や内服によって腸内細菌から徐々に置き換えていく方法などがあります。

今後の治療について、アドバイスなどあればお願いします。

腸活とか菌活という言葉を聞いたことがありますでしょうか? 腸活とは、腸内細菌(腸内フローラ)を整え、全身の健康状態を良好に保つための健康法です。
腸の中に善玉菌を増やすという意味で菌活とかいう場合もあります。 実は、膣内細菌叢(膣内フローラ)は特に女性の場合膣と肛門が近い位置にあることもあり、腸内細菌と連動することが知られています。
腸の中に善玉菌を取り込み、それを育てて腸内環境をよくすることで、結果的に膣内の細菌叢が善玉菌に置き換わっていくと言われています。
膣内だけを善玉菌で満たそうとしても、一時的な効果に止まり、腸内環境が悪玉菌優位だと、肛門からすぐに膣に悪玉がやってきて膣内環境はなかなか良い状態を維持しにくいと考えられています。
(腸内細菌は膣内細菌の巨大な供給源になっているためです)
そこで、腸内環境の改善が必要になりますが具体的な方法としてはプロバイオティクス(納豆、キムチ、ヨーグルトなどいわゆる善玉菌を豊富に含む発酵食品の摂取)、プレバイオティクス(善玉菌のエサとなる食物繊維、オリゴ糖などを豊富に含む食品群)の両方をしっかりとることが考えらえます。
腸内細菌叢が強固な善玉菌集団で維持されれば自ずとそこから供給される膣内細菌叢も良好な環境が維持されるという考え方です。
難治性の細菌性膣症ではやはり膣内だけの局所的な治療ではなかなか改善せず根本的な治療にはなりにくいと思われます。
膣内細菌の供給源である腸内細菌叢からの善玉菌への置き換えが必要と考えられます。 細菌性膣症を繰り返さないという長期的な視点では腸活(菌活)に取り組まれてみてはどうでしょう??

 
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。