卵巣刺激の方法は複数ありますが、なかでも多くのクリニックで行われ始めているPPOS について松本玲央奈先生に教えていただきました。
PPOS はプロゲステロンを使い、排卵をコントロールする卵巣刺激法
体外受精で卵巣刺激をする際には、排卵誘発剤で卵胞を複数育て、採卵をします。ただ、せっかく卵胞を育てても自然に排卵してしまうと採卵できなくなってしまいます。そこで重要になるのが、「排卵抑制」です。PPOS(黄体ホルモン併用卵巣刺激法)は、その排卵抑制を黄体ホルモンの力を使って行う方法です。
黄体ホルモンは、排卵後の黄体から分泌されるホルモンで、主に受精卵が着床しやすくなるよう、子宮内膜を整えるような働きをしてくれるものです。さらに、排卵を抑制する作用があるため、その力を卵巣刺激に活かす方法が行われています。当院では、患者さま一人ひとりの状態によって治療を変えていますが、卵巣刺激で高刺激法を選択する場合、今はまずPPOS を行っています。
OHSS や卵巣機能が低下ぎみの方でも複数個採卵できる可能性が
卵巣刺激法は、ロング法、ショート法、アンタゴニスト法、クロミフェンなどが広く行われています。高刺激でより多くの卵を育てて採卵するロング法とショート法は、排卵抑制にアゴニスト製剤の点鼻薬を使用します。ただ、採卵前のトリガーにhCG 製剤を用いるため、若年のPCO の方だと、OHSS を引き起こしやすいという懸念があります。そのため若年のPCO の患者さまの場合、アンタゴニスト法を採用することがありました。アンタゴニスト法は、一定の大きさまで卵胞が発育すると、排卵抑制のためにアンタゴニスト製剤を追加で投与します。採卵前にhCG製剤ではなく、アゴニスト点鼻薬を使用することができます。この方法だとOHSS を起こす可能性は低いのですが、アンタゴニスト製剤を長期間使用することで胚の質が下がるという問題がありました。そこで当院ではそういった若年のPCOの患者さまにはPPOS法で刺激を行っています。採卵前にアゴニスト点鼻薬を使用し、採卵後はアンタゴニスト製剤であるレルミナⓇ錠を服用してもらうことで、一気に卵巣の腫れを抑えてOHSSを予防するようにしています。
また、卵巣機能が低下している方、高年齢で今まで高刺激法を選んでこなかった方でもPPOSなら、刺激の強さを調整できるので良質な胚を得られる可能性があります。
さらに、アンタゴニスト製剤を長期間使うと、上記でも述べたように胚の質が低下する可能性があるため、できるだけ投与期間を短くできるよう、クリニックに頻繁に通ってもらい、開始時期を見極める必要がありました。一方でPPOSの場合は、黄体ホルモンを長期間投与しても胚質の低下につながらないことが多いです。投与時期を厳密に見きわめる必要がないため、個人差はありますが通院回数を減らせる傾向にあります。
ただデメリットもあり、高刺激がまったく向かない人や、PPOSで刺激したものの、何らかの理由で思ったような結果が得られない人もいます。その場合は、別の刺激法を試してみるといいでしょう。さらに、これはPPOSに限らず高刺激法全般にいえることですが、低刺激や自然周期に比べると注射の回数が多くなるため、コストがかかります。ただし高刺激法の中のアンタゴニスト法と比べるとPPOSのほうが使う薬が少ない分、コストは安くなります。
良好な胚盤胞になる確率も高いというデータも得られています
当院においてPPOSで採卵した卵子と、クロミッドⓇを使って採卵した卵子のそれぞれ350個の良好胚盤胞率を調べたところ、PPOSのほうが高いというデータが得られました。また、アンタゴニスト法とPPOSとで5日目胚盤胞で凍結できる確率を調べたところ、PPOSのほうが、確率が高いことがわかっています。ちなみに良好胚盤胞になれば、刺激法にどれを選択していても妊娠が成立する確率は変わりませんでした(当院データより)。
PPOSが普及したことで、今まで高刺激法を選択できなかった方もトライできるようになりました。もちろん患者さん一人ひとりの体の状態は異なるので、PPOSにすれば全員にいい結果が得られるとは限りませんが、まだやったことがない場合は、かかりつけの先生に相談してみるのもいいと思います。
排卵抑制に黄体ホルモンを使ったPPOSの特徴について
予め投与時期がわかるので排卵時期をコントロールしやすい
トリガーにアゴニスト点鼻薬を使うことで、OHSSを起こす確率を減らせる
アンタゴニスト法と比較すると使う薬剤が減るのでコスト減に