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「医療格差と日本の生殖医療の現状」に関する声

〇施設により治療内容、金額、言ってることがバラバラ。公開している治療成績も、数値の取り方がまちまちなので、公平な比較ができない。

〇地方から東京に転勤し、地方との格差が激しいことを知った。地方では選択肢もなく、それが正しいと思い込んでしまう。1 年半も無駄にしてしまった。

〇クリニックによっての当たり外れが大きすぎる。標準治療がないため、先生や施設によって方針も技術もさまざま。実績開示が義務でないのは意味不明。

〇自分の体質には、どの病院が合うのかわからない。高刺激という病院もあるし、できるだけ自然にという病院もあり、どちらも受診してみたが、自分で比べるのはすごく難しい。

ファティリティクリニック東京●小田原 靖 先生 東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。1987 年、オーストラリア・ロイヤルウイメンズホスピタルに留学し、チーム医療などを学ぶ。東京慈恵会医科大学産婦人科助手、スズキ病院科長を経て、1996 年恵比寿に開院。

要因や背景に個人差のある不妊症に標準治療は難しい

がんなどの病気であれば組織所見や進行期分類という明確な物差しがあって、それに従って治療するという標準的なプロセスができており、患者さんにとっても非常にわかりやすい。たとえばステージⅠに対してステージⅢのような治療をすることはイレギュラーなことなので、自ずとスタンダードが決まっていくという部分があります。

それに比べて生殖医療に標準的治療がないのは、不妊症には複合的な要因や年齢など原因や背景に個人差があり、一般的な物差しを作るのが難しいという部分があるからなのです。20代のAさんにはこういう方法がいいけれど、40代で婦人科疾患ももつBさんにはそれは合わないなど、治療に関してどうしてもバラつきが出るということがあります。

自然周期か刺激周期か、新鮮胚移植か凍結胚移植か、初期胚移植か凍結胚移植か、治療のステップアップの考え方など、患者さんにとって迷うことはたくさんあると思いますが、それは病院の格差ということではなく、その方の状況や背景に従って適切な方法を決めていくという不妊治療の特性がそうさせてしまっているのかもしれません。

医師が体系的に生殖医療を学べないのも格差の原因に

「施設によって治療方針・技術がさまざま」というお声があるようですが、これについて医療側から考えると、現状、生殖医療に関する教育プロセスがきちんと確立されていないという問題も影響していると思います。

産婦人科の治療には腫瘍学、産科、生殖医療、ほかに婦人科などの柱があるのですが、そのなかで生殖医療に特化して指導する先生が大学にあまりいらっしゃらないのです。今、日本では大学や大きな施設で体系的な生殖医療を学ぶ機会が少なくなってきています。

そうなると、生殖医療専門医を目指す人は不妊治療を行っているプライベートクリニックに勤めて学ぶということに。良いことだとは思いますが、そのようなクリニックだとどうしても院長の考え方の差というのが出てきます。たとえば自然周期を中心に行っている施設だと、刺激周期のことを習う機会がない。生殖医療のすべてを網羅する形で学ぶタイミングがないので、どの施設も同じような考え方で同じ治療をするというのが難しいという現状になっているのだと思います。

このようなことは日本だけではなく、どの国でもあり得ること。施設ごとの差をなるべくなくすために、欧米では生殖医療のガイドラインというものを設けています。どのような治療が標準的に行われているかという内容のほか、薬のエビデンスレベルまで記載されているのです。これまで日本にはガイドラインはなかったのですが、不妊治療の保険適用化の問題もあり、現在、精査しながら作成しているところです。

施設選びの参考にもなるオンライン相談・診療

保険制度や卵子提供、非配偶者間の治療などの選肢において、日本はまだまだ他の国に学ぶべきことがたくさんあると思いますが、一つひとつの医療、たとえば胚培養の技術などに関してはとてもクオリティが高い。体外受精を実施する施設の数も多く、全国で約600も存在します。アメリカで500、オーストラリアで100程度ですから、遠い所まで行って治療を受けなくてはいけないという状況は海外のほうがはるかに多いのです。

施設が多い分、逆にどこを選んだらいいのか悩まれると思いますが、選択するうえでのチェックポイントとして重要なのは施設長が生殖医療の専門医であること。それに加え、一定数の胚培養士がいることです。一般的に、症例数150件に対して1人というのが最低ラインになるでしょう。

これらの情報や治療方針などについては施設のホームページに記載されていますが、本当に自分に合う病院かどうか、文章だけではなかなか見極められません。そのような時はオンラインによる相談や診療を利用してみてはいかがでしょうか。最近は新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンラインサービスを展開し始めた施設が多く、当院でも採用しています。チャット程度でも医師と直に話をすることで、施設の考え方や雰囲気が伝わり、有効な判断材料になると思います。

保険適用後、治療の自由度はどうなるのか

現在日本では、不妊治療の保険適用の話が進んでいます。本来保険適用というのは、どの施設へ行っても同じような治療が受けられるということが基本。どこでも不妊症の治療ができるようになれば、今まで以上に治療の格差が出てきてしまう心配もあります。

保険の場合、施設認定をするということはないですよね。たとえば風邪を診られる施設を認定するという考えはありません。その流れの中で不妊治療が保険適用になってしまうと質の悪い施設も出てきてしまうかもしれません。私はそれを非常に危惧しています。

もし保険適用になるのであれば、患者さんが信頼できる治療が受けられるようにきちんとした基準を作ったほうがいいと思います。

また、保険適用は良いという半面、生殖医療にとってはデメリットもあります。不妊治療というのはまだ新しい治療。顕微授精やガラス化法など、いろいろな新しい考え方を取り入れていくことにより進歩してきました。保険枠外のこと、たとえば先進的な医療を保険治療に認めてもらうのは非常にハードルが高い。今後、そこをどうするのか。患者さんの将来のためにも、治療の自由度に関してある程度担保されていくことが望ましいと思いますね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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