春号から募集しているアンケートに、多くの方が「心の声」を送ってくれています。
ジネコはその一つひとつに目を通し、当事者たちの声を社会に届けていきたいと考えています。
今号では、「不妊治療と仕事の両立」「医療格差と日本の生殖医療の現状」について、二人の先生にご意見を伺いました。
「不妊治療と仕事の両立」に関する声
〇仕事をしながらでは休みをとるのが厳しく、ストレス源になってきたので、退職しようと思っている。金銭面での不安もあるので、期間を決めてのチャレンジとなりそう。
〇職場に不妊治療は明かしていない。裁量労働制のため、病院の時間に職場を抜けることはできるが、小さなウソを重ねていくことにストレスを感じる。
〇不妊治療している事実は上司には伝えているが、それ以外の同僚以下には話しておらず、しょっちゅう遅刻早退、休みを取ることに申し訳なさを感じる。
〇今の日本社会だと、不妊治療と正社員は並行できない。そのため仕事を辞めて治療した。派遣やバイトでも、通院予定を組むのが難しいことはあまり理解されなかった。
治療に必要な通院日数は一周期あたりどれくらい?
不妊治療は年齢が高くなるほど妊娠しにくくなり、治療期間も長引く傾向にあります。 通院日数の目安は、人工授精の場合ですと、月経開始後2~3日間。排卵誘発剤を使用する方は3~4日程度必要です。体外受精では、卵巣反応が良好な方は4~5日、卵巣反応が不良で卵胞発育に日数がかかる方は7日以上になることもあります。1回に費やす治療時間は、数時間程度です。
仕事で通院しにくい方には日程調整しやすい方法も
不妊治療でFSH製剤の注射が毎日必要な方に開発されたものに、自分で打つ「ペン型FSH注射」があります。注射器の先端を取り替えるだけで、カートリッジ内のFSH製剤がなくなるまで、毎日自宅で皮下注射でき、痛みもほとんどありません。その間、通院の必要はありません。
また、体外受精の治療で、月経周期に関わらず開始できる「ランダムスタート法」もあります。従来、卵巣刺激は月経開始2~3日目から開始していましたが、この方法はいつからでもスタートできるのがメリットです。ただし、できた胚と子宮内膜との着床環境のズレができるため、全胚凍結が前提となります。仕事の休みが土曜日であれば、土曜に受診してその日からスタートし、次の土曜に再度受診しホルモン検査、超音波による卵胞発育の検査を行います。以降は2~3日に1回程度、採卵まで2~3回程度通院が必要になります。
仕事しながら治療できる社会の環境整備が必要
当院では、何度良好胚を戻しても妊娠しない反復着床不全や流産を繰り返す反復流産に対して力を入れており、胚の染色体数の異常を調べるPGT – A(着床前胚染色体異数性検査)や子宮内膜の着床の窓にズレがないかを調べる子宮内膜着床能検査(ERA)をはじめ、妊娠率を高めるためのさまざまな検査や治療に取り組んでいます。また、仕事と治療の両立に不安をもつ方がどなたでも気軽に相談できる「両立支援外来」も設けています。
仕事をしながら不妊治療をされている患者さんは多く、当院でも84・4%の方が仕事をおもちです。少子化対策には国も力を入れているわけですから、不妊治療においても、育児休暇のように、時短や休暇が取れるよう企業に対して国が指導し、協力企業にはインセンティブを与えるような仕組みづくりをしてほしいですね。「不妊休暇」というと抵抗がある方も多いと思いますから、何かいいネーミングを考えるといいですね。