妊娠・出産の近道になると注目PGT-Aのこと詳しく教えて!
現在、臨床研究という形で実施されている着床前診断の一つ「PGT-A」。どのようなメリットがある検査なのか、浅田レディースクリニックの浅田義正先生にお話を伺いました。
PGTーAは染色体の数的異常に着目した検査
受精卵の中には遺伝情報を含む染色体が存在しており、ヒトの染色体は1つの受精卵に23ペア、46本入っています。この数が少ない、もしくは多い場合には、受精卵は途中までしか発育できず、妊娠判定前に発育が止まれば「妊娠しなかった」、判定後に止まれば流産・死産ということになります。このような受精卵の染色体数の異常(異数性)は、年齢とともにその割合が増加していきます。
染色体異常は大きく分けて数の異常と構造の異常に分類されますが、数的異常に着目したのがPGT -A(着床前胚染色体異数性検査)という検査です。
PGT -A が現在の方法になる前から私もこの染色体の数的異常に注目しており、受精卵が8細胞の時に割球を2つ抜いて、染めて顕微鏡で観察するという方法を留学先では見ていました。しかし、そのやり方だと診断能力が低く、また8細胞のうち2細胞を採ってしまうので受精卵の発育も悪くなるなど、メリットがほとんどなかったのです。
その後、培養の技術が進み、受精卵を胚盤胞まで成長させることができるようになりました。胚盤胞になると細胞数は100個くらいになりますが、PGT -A ではそこから赤ちゃんになる部分ではない細胞(胎盤になる細胞)を5個くらい採取します。細胞全体の5%程度ですからダメージは少なく、発育にもほとんど影響しません。そのうえで、NGS(次世代シークエンサー)という最新機器を使って解析すると診断の精度もぐっと上がり、検査を受けることにおいて、デメリットよりメリットのほうが上回るようになったのです。
染色体、つまり受精卵の中身を調べることができなかった時は、受精卵の形状(外側の顔つき)だけを見て「これは良い卵ですよ」といって移植をしてきました。患者さんに期待をもたせて臨んだのに何度も流産したり、なかなか妊娠しなかったり……。それは患者さんに肉体的、精神的に大きな苦痛を与えてしまいます。ですから、私はずっとこの検査をやりたい、いや、やらなければいけないと思っていました。
30~40%だった妊娠率が検査後60%程度まで上昇
PGT -A は現在、新しい治療法が有効かどうか調べる臨床研究という形で行われており、日本産科婦人科学会が認可した施設でのみ実施が可能です。
研究対象となるのは「体外受精・胚移植実施中で、直近の胚移植で2回以上連続して妊娠が成立していない」「流産を2回以上経験している」などの条件に該当する方。今はこれらの条件を満たさないとPGT -Aを受けられませんが、将来的にはもっと幅を広げて一般的な検査にするべきだと思っています。特に年齢が高めの方にとっては貴重な受精卵ですから、その中身がどうなのか、わかるのなら移植する前に調べておいたほうがいいですよね。
当院でも一昨年から対象者を募ってPGT -A の臨床研究を実施しており、現在までたくさんの方が参加しています。
これまでのデータを見る限りでは検査を受けるメリットは高く、通常であれば移植あたりの妊娠率が30~40%だった方が60%を超える結果に。妊娠率が上がってくるのは当然だと思いますが、残念ながら診断の精度は100%完全ではありません。
判定は正倍数性がA胚、モザイクがB胚、移植できない異数性がC胚、判定不能がD胚となります。年齢が高くなるとともにC胚が増えていき、胚の正倍数性(染色体数が正常な率)が下がっていきます。しかし、正倍数性は個人差が大きく、正常な染色体の細胞と染色体異常のある細胞が混在するモザイク胚というものもあります。
ですから、採卵しても1、2個しか卵子が採れない方はPGT -A をするメリットがありません。特にかなり高齢の方の場合はもともと染色体の異常率が90%以上ですので、検査をしてもC胚ばかりということにもなります。
このようなことから考えると、PGT -A はたくさん受精卵がある人において初めてメリットが出てくる検査といえるのではないでしょうか。5~10個、できれば10個くらいあると望ましいでしょう。検査の度に費用はかかってしまいますが、無駄な移植をするよりはコストパフォーマンスも精神的にもいいと思います。
将来的には細胞ではなく、培養液で調べられるかも
PGT -A では現在、胎盤になる部分の細胞を採って解析を行っていますが、たまたま採った部分で良い悪いを調べているため、診断にはどうしても限界があります。良い検査ですが、完全なものではない。
さらに新しい方法として、今、細胞そのものではなく、培養液に漏れ出てきた受精卵のDNAを使ってもわかるのではないか、将来的には非侵襲で染色体の異数性を確認できるのではないかということが論議されています。いろいろな細胞から漏れてきたものなので、どの細胞を採るかによって診断内容が変わるという現行検査の難点を払拭できるかもしれません。
また、将来は染色体異常の有無だけでなく、遺伝子の発現まで見ていく検査も開発されるかもしれません。卵の遺伝子の発現、両親二人の遺伝子の発現を観察し、受精卵の成長をうながすように調整することで、さらに妊娠率向上が期待できる未来が来るかもしれません。