【第7回】妊娠と感染症について〈前編〉

青葉レディースクリニック産婦人科医 小松一先生の妊娠前に始める母親教室

小松先生の母親教室では、皆さんが疑問に思っていたことを解説します。

【第7回】妊娠と感染症について〈前編〉

身の周りにはさまざまな感染症がありますが、これらをすべて理解することは容易ではありません。妊娠と深く関係する病原体について、分類すると左ページ表のようになります。今回は、妊娠を希望する女性や妊娠後に調べる検査に関連性が深い感染症について解説します。

小松一先生(青葉レディースクリニック)高知県出身。九州大学医学部卒業。九州大学病院周産母子センターや北九州市立医療センター、九州厚生年金病院などで研鑽を重ね、2007年に「青葉レディースクリニック」を開業。高齢出産を多く手がけており、安心できる分娩をモットーにしている。

風疹・麻疹について

風疹も麻疹もウイルスによる伝染性疾患で、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とします。風疹は感染力が強いものの、症状は自覚しない程度の軽症から、血小板減少性紫斑病、脳炎など重症の場合もあります。全国では2018年2︐946人、2019年2︐306人が感染しました。妊娠20週頃までの女性が風疹ウイルスに感染すると、胎児にも感染して、眼、耳、心臓に障害をもつ先天性風疹症候群を発症する恐れがあります。2004年の大流行では10名の新生児に先天性風疹症候群が報告され、昨年は4名の報告がありました。

一方、麻疹は風疹とは異なり、妊娠中に感染しても胎児に先天奇形を生じる確率は低いのですが、妊婦自身も脳炎などが重症化し、流産や早産が多くなります。

治療・予防接種について

一般的にウイルス感染はいったん発症してしまうと、ウイルスの活動を抑える治療薬はありません。ですからワクチンによる予防接種が最も効果的な対策です。

麻疹については典型的な麻疹を発症した人は、通常は生涯にわたる免疫(終生免疫)が獲得され、再び麻疹を発症することはありません。

一方、風疹は流行を疫学的に分析すると男女とも、患者の9割は成人でした。現在の年齢で、40歳前後の男性の予防接種率が低く、特に、40歳以上の男性は公的な予防接種をまったく受けていないことが感染の原因であると判明しました。

そこで、厚生労働省では、41歳から、58歳までの男性に対して、また自治体によっては妊娠を希望する女性に対しても、風疹の抗体検査を行って、抗体価が低いとわかった場合、予防接種まで公費で受けることができるキャンペーンを実施しています。ぜひ皆さんにご利用していただきたいと思います。

風疹や麻疹の予防接種は高度「弱毒生ワクチン」といって、毒性を弱めたウイルスや細菌を接種して、抗体産生を促すものです。毒性を弱めたとはいえ、胎児へ感染する危険がありますので、妊娠中は予防接種ができません。また、予防接種後は 2カ月間妊娠を避ける必要があることから、女性は妊娠前に2回のワクチン接種を受けること、さらに妊婦の周囲の人もワクチン接種を行うことが重要です。妊娠前に、抗体価を調べて、不十分な場合は予防接種を受けてください。

なお、抗体産生能力には個人差があり、一度、予防接種を受けたからといって、十分な免疫が獲得できない方もいます。また、通常、風疹と麻疹は弱毒生麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)といって、同時に予防接種することがあります。

次号(後編)は、そのほかの感染症について取り上げる予定です。

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