Dr. 浅田 不妊治療 ガイド 〜後編〜

Dr. 浅田 不妊治療 ガイド 〜後編〜

不妊治療の基本はステップアッ プ。

そのスピードや期間を調整す る指針が「年齢、AMH、人生設計の3要素」と、前編でお話さ れた浅田レディースクリニックの 浅田先生。

後編ではさらに具体的 な治療ガイドをご紹介します。

 

浅田 義正 先生 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専 門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初 の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。2004 年、浅田レディースクリニック開院。2006年、生殖医 療専門医認定。2010年、浅田レディース名古屋駅前ク リニック開院。「医師へ向けた ART 講座・ドクターアカ デミー浅田塾を開催してきましたが、2016年秋からは エンブリオロジストの教育講座も始めました。日本の生 殖医療の向上に繋がれば嬉しいです」と先生。

ドクターアドバイス

● 30代半ば以降でAMH値が低ければ早めのステップアップを

● 多嚢胞性卵巣症候群は治療次第でむしろ高い妊娠率が望める

AMH値が低い場合 妊娠率に一番差が 出るのは 実は 30 代半

30 代前半まででAMHが通常値であれば、普通にステップアップすればいいと思います。

特に、 20 代から 30 代前半までならAMH値が少々低くても、患者さんがステップアップをゆっくり進めたいと言えば、それでも構わないと思います。

ある程度の卵子があるうちは自然排卵しますし、若い人の場合、結果的に妊娠できないということはあまり想定していません。

しかし、 30 代半ばから後半でAMH値が低い場合、やはり早めのステップアップを考えるべきですし、最終的には体外受精に進むケースも増えます。

日本産科婦人科学会からもデータが出ていますが、20 代と 40 代は、調節卵巣刺激でも低刺激でも妊娠率の成績は実はあまり変わりません。

20 代は少ししか卵子が採れなくても確率がいいから差が少なく、 40 代になるとどちらにしろ低いという意味で差は少なくなります。

ところが 30 代、特に 30 代半ばくらいは一番大きな差があり、それぞれに合った治療法をきちんと選択していく必要があります。

当院の人工授精の目安は 35 歳まででだいたい5回まで、 38 歳で3回、 40 歳以上になると1~2回。

これは、年齢が高くなるに従い、体内で受精卵ができる確率が低くなるゆえのマキシマムな期間ですが、条件が悪ければもっと早く進めることも考えます。

40 代になったら、そこの確率の低さは体 外受精でカバーして、受精卵をとにかくつくり、その受精卵が育つ確率だけにするべきだとも思います。

それでも、染色体異常ほか細胞分裂がうまくいかなくなるなど、卵子の老化による要素もじわじわと増えてきて、受精卵の育つ確率は低くなり、結果的に若い人に比べると妊娠率が下がって流産率が上昇します。

さらに、 40 代の卵子は体外培養のストレスにより弱いので、余計なダメージを与えることを避けるため、胚盤胞培養にもこだわらないというのも当院の方針です。

前編でも述べましたが、当院では受精卵はすべて凍結します。

これは高齢になるほど成熟卵と内膜の時期のずれが大きくなり、それも妊娠率を下げる要因となるためです。

特にクロミフェンを使うと子宮内膜が薄くなるなど着床条件も悪くなることが多く、凍結融解胚移植で内膜調整したほうが常に妊娠率は高いです。

2人目、3人目を考えているのでしたらなおさら、少しでも若い時の卵子を残しておくことをおすすめします。

多嚢胞性卵巣症候群は ちょうどいい時期に しっかり採卵する ことが大事

AMH値が高いと多嚢胞性卵巣症候群が疑われますが、これは一概に悪いことではありません。

AMHすなわちアンチミュラーリアンホルモンには、原始卵胞から育つ卵子の成長を抑制する作用があるため、卵子が少しずつ育ってくるせいなのか、AMH値が高い場合、高齢でも卵子が多く残っている人が多くいます。

その分、普通に体外受精ができますし、卵子が多い方は妊娠には有利になります。

また、AMHは卵子が育ってくる最後の成熟の過程も抑制するため、多嚢胞性卵巣症候群の人には中途半端に育った卵子が卵巣内にたくさんあります。

そういった卵子は長い間、体内にとどまっていたせいか質が悪いなどと今まで言われていました。

実際、新鮮胚移植の時には、ある程度の数を採卵した時点で妊娠率が反転します。

これは何が原因かというと、 1 個ずつの卵子が黄体ホルモンを少しずつ出すため、たくさん卵子があるとその総和として、子宮内膜が黄体ホルモンに多くさらされて、子宮内膜のほうが時間的に早く進んだ形になり、受精卵が遅れて、結果、着床率が落ちるということが真実だとわかってきました。

今は、卵子の数が多ければ凍結するクリニックが多いですが、卵巣過剰刺激症候群を危惧して早め早めに採卵しがちです。

そうすると未成熟卵の割合が増えますし、少しでいいからと中途半端な数を採るとその分、妊娠率が落ちます。

しかし、ちょうどいい時期にきちんと採卵し、凍結融解胚移植を行えば、その数に見合っただけの妊娠率は出ますし、アンタゴニスト法で、最後にHCGではなくてアゴニスト製剤で排卵させれば、ほとんど卵巣過剰刺激症候群の心配もありません。

むしろ一生に一回の採卵で十分、兄弟分以上の卵子が採れます。

多嚢胞性卵巣症候群は、卵子の成長率が悪いとか、胚盤胞到達率も落ちるとか散々悪く言われていましたが、今やそんな話は大嘘です。

多嚢胞性卵巣症候群の人こそ、クリニックの実力が問われるケースとも言えますね。

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