タイムラプスで妊娠率向上を目指す

受精卵の成長を 観察して記録!

タイムラプスで妊娠率向上を目指す !

松本レディースクリニックは、2020年1月の施設拡張 を機に先進培養機器「タイムラプスインキュベーター」 を導入。

医療側、患者側にとってどんなことが期待でき るのか、同院の松本玲央奈先生にお話を伺いました。

松本 玲央奈 先生 聖マリアンナ医科大学卒業。東京大学大学院卒 業。2015年にはヨーロッパ生殖医学会において 着床に関する研究で、最も権威のあるAwardな ど国内外で多数受賞。2020年松本レディース リ プロダクションオフィス院長就任。「患者さん一 人ひとりにご納得いただける診断や治療を提供 すること」が同院のモットー。

胚にストレスを与えず、 安定した培養環境に

「タイムラプスインキュベーター」とはどのよ うなものなのでしょうか。従来のインキュベーター との違いは?

松本先生 体外受精顕微授精により受精した卵 子は受精卵、もしくは胚と呼ばれ、その胚を培養 する時に培養液を使います。培養液はインキュベー ターという専用の培養機器によって温度・pH・ 浸透圧など、胚が成長するのに必要な環境を維持 しています。

胚はお母さんのお腹に移植されるまでインキュ ベーター内で培養され、細胞分裂を繰り返して成長していきます。 その間、胚培養士がインキュベーターの中の胚を取 り出し、3~5日間にわたって一定の時点で3~4 回の観察や検査を実施するのですが、胚がインキュ ベーターの外に出ると、温度も空気もまったく違う 環境にさらされるため、大きなストレスがかかりま す。そのため、観察時間は最小限に抑える必要があ り、胚の動態的評価の時間は限られていました。

その点を改善できるのがタイムラプスインキュ ベーターです。タイムラプスシステムは内蔵カメ ラと顕微鏡を備えたインキュベーターの中で、胚 の画像を 10 分ごとなどの一定間隔で写真撮影を行 い、その写真を連続で写すことにより動画のよう に見る技術です。

これにより、大切な胚を外部の環境にさらすこ となく、安定した培養環境で観察を行っていくこ とができます。

卵子の数の確保が難しい方、 複数胚を持つケースにも有効

タイムラプスインキュベーターはどんな患者さ まが使うと有効なのでしょうか。
松本先生 卵子の数がなかなか確保できないという 患者さまにとって、胚はとても貴重なものになって きます。場合によっては胚の生死にもかかわってく る培養環境を整えることはとても重要。胚をよりよ い状態におくことはそのような患者さまにとっても 安心だと思います。
また、受精卵がたくさんできてもなかなか妊娠に 至らないという方にも有効なのでは。タイムラプス で胚の成長を継続的に観ていくことで妊娠しやすい 胚としにくい胚の違いがわかるといわれています。
  複数個培養されているケースでも、胚の選択の順 番というところでメリットがあればより早い妊娠に つながる可能性があります。
2020年1月、施設拡張、松本レディースク リニック   リプロダクションオフィス開院に際し て、タイムラプスインキュベーターを2台導入され るそうですね。

松本先生 培養室の広さも2倍になるので、新た に導入を決めました。2台ともヴィトロライフ社のものですが、1台 は従来型、もう1台は新型の機種。培養環境や機 能に変わりはないのですが、キャパシティが異な ります。従来型は1つに 16 個の胚を収納できる ディッシュが 15 枚、新型は6個の胚を収納できる ディッシュが 24 枚。新型は受精卵があまりできな いという方にも適していると考え、収納数の割合が異なるものを2種導入しました。

今ある治療をさらに改善し、 妊娠率の向上を目指す

妊娠において培養環境の重要性をどのように考 えていますか。
松本先生 不妊治療が始まって以来、排卵誘発を して卵子を育てて精子と受精させ、胚を培養して 移植する、という一連の流れは大きく変わってお らず、今後もすぐに飛躍的に違う方法が開発され るということはないと思います。
  不妊に関して解明されていることはまだほんの少 しで、未知の部分のほうが多い状態。それでも手技 やデバイスの向上により、 10 年、 20 年前と比べたら 妊娠率は格段に上がってきています。つまり、現状 でも改善できるところをよりよくしていけば、さら に妊娠率の向上が望めるということです。子宮内膜 の詳しい解析のほか、今、培養環境も注目されてお り、そのなかでも胚の情報を詳しく探ることができ るタイムラプスは、妊娠率向上を目指せる先進的な 技術として、大いに期待がもてると思っています。
最後に患者さまへのメッセージをお願いします。
松本先生 結果が出にくいという方は、新たな選 択肢の一つとしてぜひタイムラプスにトライして いただくことをおすすめします。妊娠に近づける ということ以外に、現代の医療技術でできうるこ とをやったという治療に対する納得感も得られる のではないでしょうか。
  導入後は患者さまに胚の成長過程の写真をお見せ しながら、ご説明することも検討しています。後悔 しない不妊治療を受けていただくためにもタイムラ プスは大きな役割を果たすと考えています。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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