「たまご」をめぐる生殖医療の最新技術

中村先生教えて!たまごのこと

「たまご」をめぐる生殖医療の最新技術

卵子と精子が出会った後、受精卵 (胚)はどのように成長し、妊娠 に向かうのでしょうか。

最終回は 受精卵(胚)にまつわる基礎知識 から最新技術まで、なかむらレ ディースクリニックの中村嘉宏 先生に教えていただきます。

 

中村 嘉宏 先生 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現CiRA 所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、 北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科ク リニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。

ドクターアドバイス

★ 妊娠率が高いのは、最も生命力の強い胚盤胞を用いた凍結融解胚移植です。

★ 胚盤胞に到達しない場合は、初期胚移植やカルシウムイオノファによる卵子の活性化を検討します。

★「タイムラプス+WOWディッシュ」の併用で妊娠率の向上が期待できます。

Q・受精卵(胚)はどのように成長するの?

A・細胞分裂を繰り返しながら胚盤胞に成長します。胚盤胞に到達しない場合は初期胚移植やカルシウムイオノファによる卵子の活性化を検討します

卵子と精子が出会い受精が成立すると、翌日(1日目)に 卵子由来と精子由来それぞれの核が2つ並んだ状態を確認で きます。これを前核期といいます。その後、2細胞期胚、4 細胞期胚、8細胞期胚と細胞分裂を繰り返します。3〜4日 目の8細胞期胚あたりから、分割した細胞が接着するコンパ クションという現象が起こり、桑実期胚になります。順調で あれば、 5 日目か 6 日目で着床寸前の段階である胚盤胞に達 します。早ければ4日目で、遅くても7日目には胚盤胞になります。

胚盤胞とは胚の内部に空間が形成され、内細胞塊(赤 ちゃんになる細胞)と栄養外胚葉(胎盤になる細胞)が区別 できるようになった胚です。当院での体外受精(媒精)や顕微授精1回あたりの受精率は約 85 %で、1度受精が起これば 約 80 %の確率で初期胚( 2 細胞期胚〜桑実期胚)まで成長し ます。受精卵が胚盤胞にまでなる確率は年齢により異なって きます。当院では、 35 歳で約 50 %、 40 歳で 36 %です。

初期胚からなかなか胚盤胞にならない場合は、年齢による 卵子の老化や、それにともなう染色体異常などが考えられま す。また、受精卵と培養液の相性が合わないこともあります。 いずれにもしても胚盤胞になりにくい場合はなんらかの工 夫が必要です。そこで当院では( 1 )初期胚移植を選択する ( 2 )卵子を活性化するカルシウムイオノファを用いて胚盤胞 まで培養する、という二つの方法をとっています。

カルシウムイオノファは、顕微授精の際に卵子を活性化す るために用いられる薬剤で、受精障害に有効とされています。 近年の報告では、胚細胞の分裂を促進する効果もあるとの報 告があります。当院でも受精卵の分割がうまくいかない場合 にカルシウムイオノファを用いたところ胚盤胞到達率が高ま り、妊娠率が向上しています。

Q・凍結胚移植と新鮮胚移植の違いを教えて!

A・胚移植は凍結胚移植と新鮮胚移植に大きく分かれます。当院の妊娠率は凍結融解胚移植が 39 ・ 1 %、 新鮮胚移植が 16 ・ 5 %です。

凍結融解胚移植の場合、胚凍結の時期は、前核期、初期胚、 胚盤胞のどの段階でも可能です。これらの段階のなかで胚盤 胞は体外の環境下でもっとも長い期間生き延びてきた胚なの で、胚盤胞の段階で凍結し、融解胚移植すると妊娠率が当然 一番高くなります。ですが、胚盤胞に到達せず凍結できない リスクがあります。

特に 30 代後半から胚盤胞に至る率が低下してきます。染色 体異常が原因の場合も多いのですが、卵子の老化により、胚 細胞自体が脆弱(弱くなること)になり、体内では胚盤胞ま で成長したかもしれない胚が体外では胚盤胞まで成長しない ことも考えられます。

そのような場合は前核期で胚を凍結しています。前核期は 凍結保存のストレスに一番強く、胚移植を行うタイミングに 合わせて前核期を凍結融解して初期胚まで培養して移植します。当院のデータでは、同じ条件下で、前核期で凍結した場 合と初期胚で凍結した場合を比較すると、前核期で凍結した ほうが融解胚移植後の妊娠率が高くなっています。

新鮮胚移植は子宮内膜の厚さが8mm以上でOHSS(卵巣 過剰刺激症候群)の心配がない方を対象としています。初回 の体外受精では、受精卵が胚盤胞まで至るかどうかがわかり ません。そのため、当院では初回の体外受精の時は、受精卵 の一つを初期胚で新鮮胚移植し、残りの受精卵は胚盤胞まで 培養して凍結保存します。初期胚移植では、 30 代前半では、20 〜 30 %の妊娠率を見込めますので、この方法で妊娠すれば 費用や時間の負担も低くすみます。初回の新鮮胚移植で妊娠 しなかった時は凍結しておいた胚盤胞を移植します。

Q・受精卵の成長にかかわる最新技術を教えて !

A・「タイムラプスインキュベーター+WOWディッシュ」の併用で、培養成績と良好胚の選別精度を上げて妊娠率が向上しています。

タイムラプスインキュベーター(CCMーiBIS)の導入 で、インキュベーター(培養庫)を開閉せずに受精卵(胚)の 観察・記録が可能になりました。観察時の環境変化(培養液の pH や温度変化、光曝露)による胚へのストレスを大幅に軽 減し、「胚に優しい培養」で受精の瞬間や胚の発育を 24 時間モ ニタリングしています。これまで難しかった受精や胚分割の異 常を観察できるため、良好胚の選別精度が向上しています。

タイムラプスの導入にともない、WOWディッシュを採用 した胚培養を行っています。マイクロウェル(胚を入れる繊 細な穴)を同一の培養液で覆うことで、オートクライン・パ ラクライン効果(集合培養することで胚が分泌する成長因子 を互いに“シェア”しお互いの成長を促すこと)を高めて培 養成績の向上が期待できます。(右ページ図参照)


さらに、良好胚の選別精度を上げる方法には、受精卵(胚) に染色体数異常があるかないかを調べる検査(PGTー A: 着床前染色体数検査)があります。実施については、倫理上 の観点から国内外で意見が分かれています。おもな対象は、 流産を繰り返す方、年齢が高くて卵巣機能が低下し、治療可 能な時間が限られている方になります。この技術を用いると 染色体数異常がかなりの確率でわかりますので、妊娠に至る 確率の少ない胚の移植を避け、流産率が低下することも十分 期待できると思います。

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