Q 帝王切開で出産後、 2人目が妊娠しないのは?
神谷 博文 先生 札幌医科大学卒業。同大学産婦人科学講座、第一病理学講座に 入局後、斗南病院にて産婦人科科長を10年間務める。1998年、 神谷レディースクリニックを開業。
目次
ドクターアドバイス
●感染症や子宮内環境など、着床不全の原因を見極める検査を
●帝王切開瘢痕症候群の症状です。治療を検討しましょう。
匿名さん(?歳)からの相談 Q.男性不妊のため、1人目は体外受精で授かりました。子 どもが 3 歳になった頃から 2人目の不妊治療を再開。す でに採卵3回、移植を10回以上していますが妊娠に至 りません。その間、流産を2 回しています。過去に出産、 流産をしているので着床不全はないだろうと言われまし たが、グレードのよい胚を戻してもなかなか妊娠しませ ん。子宮鏡検査では帝王切開の傷跡もなくきれいという ことですが、「生理が終わってから排卵の間に若干の血液 と水分が子宮にたまっている」と言われました。「着床す る部分ではないのでこれが原因とは言いきれないが、今 後は子宮洗浄をしてから移植する」とのことです。ご意 見を伺えたらと思います。
妊娠や流産を経験している場合、着床不 全はない、と言いきれるのでしょうか。
神谷先生 過去に妊娠、流産した時と子宮内の環境が変わっていれば、着床不全となることはありえます。この方の場合、よいグレードの胚を戻していても妊娠しないのですから、着床不全と言っていいでしょう。
着床不全の原因には何がありますか?
神谷先生 原因は多岐にわたります。まず 考えられるのは「染色体異常」。妊娠は胚が良好か、染色体が正常かによるところが大きく、これは年齢と関係します。たとえば、 40 歳の方の場合、良好な胚盤胞が得ら れたとしても、 60 %以上の胚に染色体の数 的異常が認められます。
また、良好胚で染色体が正常でも着床しないことがあります。この場合、感染症や免疫学的な問題、子宮内の奇形、ポリープなど、子宮内の環境に問題があると考えられます。子宮内感染の有無や乳酸菌ラクトバチルスの割合、免疫異常がわかる Th1/Th2 の値を検査し、適正な環境 にしてから胚を戻すようにしたほうがよ
いのではないでしょうか。
血液と水分が子宮にたまる症状があるよ うですが、着床不全と関係はありますか。
神谷先生 これは、帝王切開瘢痕症候群の症状ですね。帝王切開の時にできた子宮の傷跡に月経血や水溶性の成分がたまること。たまった血液が受精卵の発育や、精子の子宮内への侵入を阻害することで、不妊につながるのではと考えられています。瘢痕(傷跡)は子宮鏡検査では見つけられないものもあり、血液や水分がたまっている 場所から逆流して着床に影響することもあります。感染症の原因にもなりますから、 抗菌薬での治療や、移植前にたまっているようなら移植のキャンセルを考えたほうがよいでしょう。子宮洗浄を行うよりも、原 因となっている瘢痕部の修復術を行うことも視野に入れるとよいと思います。
先生がすすめるとすれば、どんな検査や 治療法がありますか。
神谷先生 大切なのは、何が着床不全の原因となっているかを見極めることです。先ほども言いましたが、感染症の有無や乳酸菌ラクトバチルスの割合などの子宮 内環境の検査。そして、帝王切開瘢痕症候群の原因となっている瘢痕の有無、欠損している部分の大きさや深さを把握することです。子宮内に生理食塩水を注入して経腟超音波で検査するソノヒステログラフィーは、超音波検査では見えにくい凹凸もわかります。
また、着床しにくいわけですから、複数の受精卵ができれば、 1 回に 1 個ではなく複数個を戻すのもいいでしょう。
胚のグレードや染色体異常の有無は年齢によるところも大きいため、採卵時の年齢が重要。早めに採卵をするためにも、まずは検査をおすすめします。