
40代の卵巣にロング法は危険 !? 次の誘発法で悩んでいます
中村 嘉宏 先生 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授(現 CiRA所長)の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友 病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野 婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック 開院。「実は10年程前にEXILEのvocal battle auditionに応募 しました。歌はダメなんですけど、マイケル・ジャクソン世代なので、 ダンスには多少自信があったんですが。でも書類審査で落とされ ました。その時のオーディションで優勝したのが、TAKAHIROさん です。まあ、ファンの方と武井咲さんにとっては、YOSHIHIROで はなくTAKAHIROでよかったでしょう(笑)」と先生。
40代に有効な誘発法は?
KiKiさん(41歳)からの投稿 Q.これまでに
AIHで稽留流産、
化学流産を数回経験。半年前に
IVFデ ビューしました。その時の検査で
AMHは21、
FSHも6前後、ほ かの検査でも特に問題ないことから、当初医師からロング法を提案さ れました。しかし、ロング法は年齢から考えて若干の疑問を感じ、医 師と相談のうえ、アンタゴニスト法で9個採卵。
顕微授精で6個の受 精卵ができ、初移植(新鮮8分割)で陽性→化学流産、その後2回 凍結胚盤胞を移植しましたが、今日の判定で残念な結果となりました。 結果、移植に至った胚は3個だけ。現在、凍結胚はもう残っていない ため、また採卵から始めることになるのですが、誘発法で悩んでいます。 数が採れても結果がゼロだったアンタゴニスト法に再度挑戦するか、 医師のすすめるロング法にするか…しかし、40代の卵巣がロング 法に耐えられるか心配です。クロミッドⓇなどの低刺激も視野に入れ ていますが、排卵の抑制ができないため採卵前に排卵してしまうと いうリスクが不安です。誘発法によって卵子の質に大きく差が出る とも聞きます。 初採卵で
新鮮胚移植に至るまでにかかった費用も70万越え…。治 療費のやりくりを考えると何度も挑戦というわけにもいかず、頭を 抱える毎日です。
誘発法選択の指標は AMHとFSHの数値
今後の誘発法で悩んでいるとのことですが、担当医がすすめるロング法を選択する場合、卵巣予備能が十分にあることが前提となります。その指標になるのがAMHとFSHです。KiKiさんのAMHは 21 、FSHは6前後とのことです が、ここでのAMHの単位はおそらく pM だと思います。現在、AMHの数値にはng/ml を採用していますので換算すると2 ・ 94ng/ml ですね。 40 代としてはとて もいい数値だと思います。FSHの値もいいので、排卵誘発にはよく反応してくれる状態ではないでしょうか。
現に、アンタゴニスト法で9個採卵でき ているとのことですから、反応性はいいと思います。6個は顕微授精までいってその半分が移植できているというのも、決して悪い成績ではありません。
8分割の新鮮胚移植で化学流産したとの ことですので、少なくとも着床はしているわけです。つまり、子宮の中で胚盤胞になっています。また、その他の2個も胚盤胞で凍結できているとのことですから卵子の質も通常よりいいように思います。 40 歳になれば胚盤胞まで到達する率は 30 %くらいで す。
切り替えにスプレキュアⓇを 用いたアンタゴニスト法なら 副作用はほとんどない
以上のようなことを考えると、KiKiさんの場合はロング法でもかまわないと思います。「 40 代の卵巣がロング法に耐えら れるか心配」とあるので、ロング法が卵巣機能を低下させるなど悪影響があると考えておられるのでしょうか。そうであれば、そんなに心配する必要はないと思います。高齢の卵巣だから耐えられないということはありません。卵巣の反応性が良いため、卵巣過剰刺激症候群の可能性はありますが、排卵誘発剤を大量に投与しない限り、発生も抑えられると思います。
アンタゴニスト法で結果が出なかったの ですが、アンタゴニスト法にもいろいろなやり方があります。当院では卵胞が成熟した後、 H CGを用いずにスプレキュアⓇというGnRHアゴニストのスプレーを用いて切り替え(トリガー)をしています。スプレキュアⓇは脳下垂体に作用して自然なLHサージを起こして卵子を成熟させます。自然なLHはHCGより半減期が短いため、卵巣への刺激が少なく副作用が起こりにくくなります。多嚢胞性卵巣などで卵胞が多数発育する場合でも卵巣過剰刺激症候群はかなり防げます。
低刺激法をチョイスするなら 専門のクリニックへ 排卵リスクも経済面も安心
クロミッドⓇなどの低刺激法も視野に入れているとのことですが、当院でのファーストチョイスは低刺激法です。KiKiさんはアンタゴニスト法で9個採卵できていますから、低刺激法でも4~5個くらいの採卵は十分に期待できると思います。
低刺激法は体内で自然に分泌されるホル モンを利用する方法ですから、副作用はまずありませんし、刺激周期特有の体のだるさのようなものもありません。また、採卵前の排卵のリスクを心配されていますが、低刺激法を専門的に行っている施設であれば問題ないと思います。当院では日曜、祝日も診察を行い、なおかつ院内でエストラジオールやLHを 30 分程度で測定できます ので十分な卵胞成熟のモニタリングが可能です。そのため、採卵時の排卵率はさほど高くなく、あっても1%以内です。なにより薬剤の量が少なくて済み、経済的という安心感もあります。
40 代でも粘り強い治療で 結果は期待できる
KiKiさんは卵巣予備能がまだまだ十分にありますので、誘発法にはいろいろな選択肢があります。逆に 30 代でも卵 巣予備能が低下していれば、刺激周期を行っても卵子がたくさん採れないことも多く、選択肢は限られてきます。誘発法によって卵子の質に影響があるかどうかという点は、ある程度やってみないとわからないところはありますが、方法を変えてもそんなに卵子の質に影響が出るわけではないと思います。方法よりも切り替えのタイミングのほうが大切だと思います。切り替えのタイミングには超音波だけでなくホルモンの測定と経験に基づいた勘も大切になります。そのため、できれば、日曜日、祝日も外来をしていて、院内でいつでもホルモン測定ができるクリニックが理想です。ただ、やはり 40 歳 を過ぎますと、移植当たりの妊娠率が必ずしも高いわけではないのは事実です。1回当たりの妊娠率は 10 ~ 15 %くらい、 流産も当然ありますから、赤ちゃんまで到達するのは9~ 10 %くらいです。

当院のデータでは、 40 歳から治療を始 められた方で、体外受精の累積での妊娠率つまり最終的に妊娠される方は 40 %以 上です。つまり、 40 歳になれば 1 回目の 治療で妊娠する可能性は低くはなりますが、粘り強く治療を続けることで半分近くの妊娠率が期待できるのです。
人工授精で稽留流産、化学流産を経験さ れているので、一度は不育症の検査をしてもいいかもしれません。凝固系異常や抗リン脂質抗体症候群などがある場合は、アスピリンやヘパリン、あるいはステロイドを使った治療法で対処できる場合があります。まだまだ悲観するほどの状態ではありません。副作用や治療費のことを心配されるのであれば、比較的安価な低刺激法のことを含め、専門クリニックでご相談されてもいいのではないでしょうか。
排卵誘発方法のファーストチョイスは?
40代でも卵巣予備能が十分にあればいろいろな選択肢があります。 専門クリニックであれば、低刺激法もいい方法です。
低刺激法は自然なホルモンを利用した排卵誘発法で、体にやさしく、卵 巣が反応しすぎるといった副作用がまず起こりません。また、注射の量 を加減することである程度の数の卵子を採ることも可能です。特に、初 めての誘発であれば、卵巣がどう反応するかを見極めながら調整できる という意味でもおすすめです。何より注射の量が少なくて済み、経済的。 通院回数も多くないため、仕事や日常と治療との両立もスムーズです。
GnRHアゴニスト製剤とは?
よく使われている製品例:スプレキュアⓇ
●どの誘発方法で使用するの?
低刺激法をはじめアンタゴニスト法でも切り替え(トリガー)に使用 します。点鼻薬(鼻にするスプレー)なので、夜間に自分でできます。
●副作用について
アンタゴニスト法で卵巣を強めに刺激した場合でも、最後の切り替えで スプレキュアⓇを使用すると、HCGより卵巣への刺激が少ないため、 卵巣過剰刺激症候群はまず起こりません。