妊娠前に知っておきたい
秋山芳晃 先生のセルフメンテナンス・チェック
健 康 的 な体 で、元 気 な 赤ちゃんを産 むためには 今から何をしておけばいいのでしょうか。
妊娠する前に知っておくこと・やっておくことを 秋山レディースクリニックの秋山芳晃先生に教えていただきました。
妊娠中の喫煙、 胎児への影響は?
早産や流産、死産などのほか、 子どもにも多くの障害を残します
喫煙は肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心筋梗塞だけではなく、動脈硬化や糖尿病、歯科疾患など、全身の臓器に重大な悪影響を及ぼします。
最近ではその害が広く知られるようになり、男性の喫煙率は平成元年には5割以上だったのが、ここ 25 年くらいで3割程度まで低下しました。
一方、女性の喫煙率はもともと全体の1割ほどとそれほど高くないのですが、大幅に低下することはなく、横ばい状態が続いています。
男女とも喫煙は「百害あって一利なし」ですが、女性の場合は本人だけではなく、次世代、つまり赤ちゃんにも悪影響が及ぶので、これからお母さんになる方はそのことをよく知っていただきたいと思います。
では、妊娠中の喫煙は胎児にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
左ページ上に厚生労働省が発表したリスクのレベルについて記載していますが、母体が喫煙することで胎盤の血管が収縮したり、喫煙により生じる有害物質が必要な酵素の働きを抑制してしまい、胎児の発育遅延をもたらすと考えられています。
また、喫煙する女性の未熟児出産のリスクは喫煙しない女性に比べて2~3倍に増加。
本人がタバコを吸わなくても、ご主人など同居している家族が喫煙しているなど、受動喫煙でも通常1日1~5本程度の喫煙と同程度の影響があると考えられていて、その場合でも未熟児出産のリスクは 1.2 ~ 1.5 倍になるといわれています。
早産率も非喫煙者に比べて 1.5 倍ほど高くなり、自然流産や死産、新生児死亡率のリスクは約2倍になるという報告も。
分娩時だけでなく、喫煙は生まれてきた子どもにもさまざまな障害を残すと考えられており、口唇口蓋裂などの先天性奇形や斜視などの出現、白血病や悪性リンパ腫、脳内出血、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発症率が高まる、身長の伸びが悪く、知的発達も遅れることがあるとされています。
ほかにも、あまり知られていませんが、男児では将来、暴力的になり、常習犯罪者になる確率が高くなる、女児では不妊になる率が高まるなど、一見、喫煙とは結びつかないようなデータも報告されています。
タバコを吸うと 妊娠しにくくなる?
不妊のリスクは非喫煙者の2倍。 精子も悪化するという報告も
「妊娠中の喫煙はよくない」と認知している人は多いと思いますが、では、不妊との関連はどうでしょうか。
「まだ妊娠していないからいいや」といって、治療中もなかなか禁煙できない方もいるようですが、喫煙は妊娠の妨げにもなります。
喫煙の生殖能力に対する害についてまだ広く調査されておらず、現状では「影響があるのではないか」という段階ですが、それでもいくつか信頼できるデータや説があり、
●非喫煙者に比べて平均1~2年閉経が早くなる
●妊娠に至るまでの年数は非喫煙者の 3.4 倍
●体外受精やGIFT(配偶子卵管内移植)の妊娠率は非喫煙者の1/2
●不妊のリスクは非喫煙者に比べて2倍
●血中のエストロゲンレベルが低くなる
などの影響が報告されています。
女性だけでなく男性についても、ED(勃起障害)発症 の危険率が非喫煙者に比べて約 30 %上昇する、精子濃度が13 ~ 17 %減少する、精子運動率や正常な形態の精子の割合も低下するなどの影響があるとされているので、ご主人も真剣に禁煙を考えていただきたいと思います。
妊娠中の喫煙が胎児に与える影響
本人が喫煙している場合
早産・胎児発育遅延 > レベル1
子宮外妊娠・常位胎盤早期剥離・前置胎盤・妊娠高血圧症候群 > レベル2
乳児突然死症候群 > レベル1
受動喫煙の場合
早産・胎児発育遅延 > レベル2
乳児突然死症候群 > レベル1
子どもの虫歯や喘息、呼吸器疾患・中耳疾患 > レベル2
■レベル1……科学的証拠は因果関係を推定するのに十分である
■レベル2……科学的証拠は因果関係を示唆しているが十分ではない
※参考/厚生労働省「喫煙の健康影響に関する検討会報告書」
喫煙にも利点が あるのでは?
ストレス解消ではなく「依存」。 ご夫婦ともにすぐに禁煙を
では、喫煙にメリットはないのでしょうか。
飲酒と同じように「ストレス解消のためにタバコを吸っている」という人もいるようですが、これは解消というより、ニコチン依存状態になっているということです。
イライラ→喫煙→ニコチン不足によるイライラ→喫煙と、これではいつまで経っても悪循環が断ち切れません。
喫煙に変わる別の解消法を見つけるようにしましょう。
また、「タバコを吸うとやせる」という説もありますが、やせたとしてもこれは健康的なやせ方ではなく、不健康にやつれているだけ。
味覚が麻痺して食欲が減退することがあるかもしれませんが、肌が荒れたり、血流が滞って顔色が悪くなるなど、決してプラスの効果はないでしょう。
治療と違って生活習慣の改善は自分でできることですが、禁煙は「できること」ではなく、「しなければいけないこと」。
厳しくいえば、やらなければ妊娠へのスタートラインにも立てません。
「絶対やめる!」と自分の意志を強くもつことが一番ですが、難しい場合は禁煙外来なども利用して、ご夫婦ともにきっぱりタバコを断ち、元気な赤ちゃんを出産することを目指してください。