排卵抑制剤でE2が低下、 採卵キャンセルに。
次周期は採卵できる?
石原 尚徳 先生 高知大学医学部卒業。神戸大学医学部大学院修了。医学博士。兵 庫県立成人病センター、兵庫県立こども病院の勤務を経て、2008年よ り久保みずきレディースクリニック菅原記念診療所。不妊治療から周産 期・小児医療まで、地域に根ざした総合的なサポート体制が整う同クリニッ クで、不妊治療/婦人科、産科の外来を担当する。兵庫県では、生 殖医療と周産期医療の情報交換を活発化し、研究会などを行っています。 先生も妊娠後を考えて不妊治療に取り組んでもらえるよう、高齢リスク、 体重リスクなど、自己予防のための啓蒙に力を入れているそうです。
ポッキーさん(40歳)からの相談 Q.自然周期採卵前にセトロタイドⓇで排卵抑制したところ、E2が激減して卵子の成 長が止まりました。このため今周期は採卵を見送りましたが、今後3カ月は採卵 しないほうが無難なのでしょうか。卵子は3カ月かけて成長すると読んだので気 になります。セトロタイドⓇの注射はD7-D12まで6日間続けました。今回E2が 下がったことで、3カ月卵子の質に影響が及ぶこともあるのでしょうか。ちなみ に今後の治療方針は、自然周期採卵による顕微授精を予定しています。
E2減少の理由
なぜ、セトロタイドⓇの排卵抑制により、 E2(エストロゲン)が激減したのでしょうか。
石原先生 セトロタイドⓇ(GnRHアンタゴニスト)は、調節卵巣刺激下における早発排卵防止を目的としたものです。
ただ、その場合でも採卵をキャンセルすることはほとんどありません。
この方の場合、自然周期採卵にもかかわらず、セトロタイドⓇをD7ーD 12 の6日間も 使用しているのが気になります。
セトロタイドⓇの使用期間は卵子の発育状況によりますが、FSH製剤、HMG製剤を使用する調節卵巣刺激の場合で3日前後。
自然周期採卵の場合では、長くても2日、もしくはセトロタイドⓇをまったく使用しないこともあります。
その点からいえば、セトロタイドⓇの 使用期間が長すぎたために、E2が激減したと考えられます。
今後、3カ月間の採卵は難しいのでしょうか。
石原先生 セトロタイドⓇの影響でFSHがどの程度抑えられているかによります。
GnRHアンタゴニストをはじめ、薬の作用は人によってそれぞれですので、影響が強く残っている場合は1〜2周期あける必要があります。
影響がなければ、次周期から自然周期による採卵は可能です。
卵子の質への影響
卵子は3カ月かけて成長するのでしょう か。また、E2の低下により卵子の質に影響 がありますか。
石原先生 女性は生まれた時、すでに数百万個の卵子を蓄えています。
その卵子の一部に、何かのタイミングでスイッチが入って発育がはじまり、一次卵胞→二次卵胞→胞状卵胞→成熟卵胞→排卵までのプロセスをたどります。
この発育から排卵までの期間は約1年。この方がおっしゃっている3カ月とは、二次卵胞といわれる状態からのことだと思います。
二次卵胞から排卵するまでが約3カ月。
さらに、エコーで見えてくるのが胞状卵胞です。
生理前から見えはじめ、排卵までに約 20 日かかります。
つまり、卵子は新 たにつくられているのではなく、もともと自分の体の中にもっているものが出てくるということです。
卵子の質に影響はあまりないと考えていいと思います。
状況に合わせた治療方針
先生であれば、今後どのような治療をされ ますか。
石原先生 自然周期採卵でもまったく問題はありませんが、当院であれば、調節卵巣刺激を試されることをおすすめします。
一度、しっかり調節卵巣刺激を行い、その反応を見て次の治療方針を検討します。
採卵は、手術と同じくらい体の負担をともないますので、毎月の採卵は大変だろうと思います。
自然周期で採卵できる卵子は1回につき1個。
調節卵巣刺激で1回に複数の卵子が採れれば、採卵回数はもちろん、体の負担を軽減できるメリットもあります。