内田 昭弘 先生 島根大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、 1987年、島根県の体外受精による初の赤ちゃん誕生に携わる。 1997年に内田クリニック開業。生殖医療中心の婦人科、奥様が副 院長を務める内科、大阪より月1回来院の荒木先生による心理カウン セリングをもって現在のクリニックの完成形としている。プライベートでは、 大好きなゴルフの機会が少なくなる寒い季節、運動不足になりがちとい う内田先生。「でも食欲は増すばかり…。体重も増えてきているので運 動をしないとね」と、健康管理を心がけたいこの頃です。
これまで25回の移植。
胚盤胞までは育つのに 妊娠に至らないのはなぜ?
採卵・授精・胚盤胞と順調に進んでも、一度も陽性判定が ないのはなぜなのか?
「受精卵の問題」といわれる要因は?
内田クリニックの内田昭弘先生にお話を伺いました。
ぶっちーさん(44歳)からの相談 Q.40歳から不妊治療を始め、まもなく5年目。卵管が詰 まっている以外は不育症などの問題はなく、AMHの値 は30代半ばです。主人は乏精子症です。3つ目のクリ ニックでの治療はフェマーラⓇの自然周期で1年になり ます。以前のクリニックでは、アンタゴニスト法を行っ ていました。不妊治療を始めてから25回移植を行い、 ほぼ毎回、胚盤胞までは順調に進みますが、一度も陽性 判定がありません。着床は、半々くらいです。子宮内膜 は薄めでも7㎜あるので、「受精卵の問題」と毎回、い われます。治療は45歳までと決めていたのですが、諦 めきれない自分もいます。
目次
●これまでの治療データ
検査・ 治療歴
AMH値 2.5ng/ml未満。アンタゴニスト、フェマーラⓇ
不妊の原因と なる病名
なし
現在の 治療方針
フェマーラⓇ自然周期
精子 データ
乏精子症
染色体異常の可能性
25回の移植で妊娠に至らないのは、何に 問題があるのでしょうか。
内田先生 ぶっちーさんは、 40 歳から治療 を始めてもう5年目ということですから、まる4年間の治療を続けてきたということですよね。
フェマーラⓇ同期の場合はほぼ毎日採卵ができるので、年6、7回の移植をしてきたのでしょう。
子宮内膜も7㎜あれば問題ないと思います。
そうなるとやはり、受精卵に問題があるのではないでしょうか。
胚盤胞までいっても、妊娠には至らない胚盤胞ということでしょうか。
内田先生 やはり年齢からくる受精卵の染色体に問題がある可能性があるのではないかと思います。
染色体異常と聞くと不安もよぎると思いますが、 44 歳という年 齢であればそのような現象は一般的に見られます。
受精卵になっても妊娠できない受精卵や、妊娠しても流産におわってしまう受精卵があるということです。
原因は卵子の加齢現象?
ぶっちーさんは年齢の割にAMH値が 2.5ng/ ml と高いのですが、この数値をどのよう に治療に反映するのでしょうか?
内田先生 AMH値は年齢によって基準値があり、普通は 40 代半ばでは1・ 00ng/ ml 程度とされています。
ぶっちーさんの数値をみると、もう 1 回、排卵誘発剤を使うスタンダードプランを行ってみるのもいいのかなと思います。
排卵誘発剤をしっかり使って卵子数を増やし、採卵の数を多くすることで受精卵の数も増やし、それを凍結保存します。
そのなかでいいものがあると信じて、それをホルモン補充周期で融解して胚移植する。
融解胚移植周期を行うという方法ですね。
しかし、 40 歳以上になると、仮に4個胚盤胞があったとしても1個も妊娠につながる胚盤胞がないということも起こり得るわけですから、原因は卵子の加齢現象に戻っていくかもしれません。
AMHの見方の基本
AMH値が 30 代半ば相当ということは、 数でしょうか、それとも質でしょうか。
内田先生 ぶっちーさんは、卵巣の中で卵子が育っていく数に関しては 30 代後半くら いという考え方ができるでしょう。
しかし、それは残っている卵胞の数の予測でしかありません。
しかも実際は 44 歳なので、いく ら育ってもその卵子は 44 歳の卵子。
つまり、 数は 30 代半ばでも質は 44 歳なのです。
それ がAMHの見方の基本です。
自然な環境に早めに戻す?
年齢が高くなってからの受精卵は、体外環境、つまり人工的な環境に耐えられない可能性もあるのでしょうか?
内田先生 最近、治療の現場では 40 歳以上 の場合には培養期間を少し短くして胚移植を早めにしようというプランも見直されています。
胚盤胞になる前に子宮に戻そうと。
せっかく受精卵になっても、胚盤胞に進む過程が体外環境では良い影響を与えない場合もあるという考え方なのです。
胚凍結も同じで、今は技術が発達しているので凍結保存が盛んに行われていますが、実は凍結をして融解するという行為も受精卵にはストレスになるという考えです。
だから、凍結せずに新鮮なまま子宮に戻そうという考え方も出てきています。
年齢が高くなってからの受精卵は、それが高ければ高いほどストレスに弱いかもしれないのです。
早く体内に戻すと確実に胚盤胞になるかはわからないのですが、ぶっちーさんの場合は毎回胚盤胞になるということなので、体内の自然な環境に早めに戻して経過をみるのも妊娠の可能性につながるひとつのプランかもしれません。
年齢を踏まえつつ
受精卵に問題がないという前提で、受精卵のストレスを減らすということでしょうか?
内田先生 そうです。最初に提案したプランは、受精卵に問題があることを想定したパターンです。
たくさん卵子を育てるなかで、異常のない受精卵が1個でも2個でもあるかもしれないという発想です。
一方、後のほうは妊娠に至っていいはずの問題のない受精卵だけど、妊娠できないという発想で、受精卵が体外環境というストレスを受けていることが問題で妊娠に至らないのであれば、そのストレスをできるだけ少なくして環境のいい体内に早めに戻してあげましょうという考え方です。
どちらにせよ、 44 歳という年齢が、卵 子や受精卵に影響を及ぼしているということだと思います。
年齢を踏まえながら治療に向き合うことが必要な段階に入っているということですね。