奥裕嗣先生の不妊治療はじめて講座
WHO の調査では、不妊の原因は男性だけにある場合と、男性と女性の両方にある場合を合わせると約半数が男性側にあるという結果が出ています。男性の不妊原因や治療の進め方、これから妊活を始めるご夫婦がいまからできることをレディースクリニック北浜の奥裕嗣先生にお話を伺いました。
ドクターズアドバイス
- 喫煙、飲酒、ストレスなど後天的な要因も精子に影響。
- 男性不妊のほとんどは顕微授精で解決できる時代です。
- 卵子の老化は止められません。ご夫婦で早めに検査を。
男性の不妊原因には、どのようなものがありますか?
後天性の代表的な原因は喫煙や飲酒、ストレス、環境ホルモンまた、糖尿病や服用している薬などです。特に喫煙は体内の活性酸素を増やし、精子の運動率に影響します。通常、精巣で32 〜33 度に保たれている精子は熱に弱い性質があり、長時間のサウナや膝上のパソコン作業、締めつける下着、自転車の振動などにも注意が必要です。
さらにワイファイなどの電磁波が精子に影響するという報告もあります。私が医学生だった頃、W H Oの精子濃度の基準値は7000万個/1mlでしたが、近年は1500万個/1mlまで低下しています。世界的に見ても、男性の精子が減少していることは間違いありません。
男性の検査の内容や検査の流れを教えてください。
男性の検査は問診と精液検査が基本です。なるべく初診時にご夫婦で検査を受けていただくようにしています。精液検査にはいくつかありますが、顕微鏡下で精子の濃度や奇形率を調べる精子解析機「マクラー精子カウントチャンバー」と、運動精子の濃度と速度を調べる精子特性分析機「SQ AーV」を同時に使って、精子の状態を調べます。
精液の採取場所には院内のメンズルームまたは自宅を選択できます。どちらの採精でも成績は変そのため精子所見と奥様の年齢、経済的な問題、夫婦のご意向を総合的に判断し、最適な治療法を性の卵子の老化は止めることができません。男性に原因が見つかり、女性の年齢が高い場合は早めわりませんが、約80%の方は自宅で採取されています。診察時間内に予約なしで受け付けていますので、当日、専用容器に採取して2時間以内(冬季は上着のポケットなどで保温しつつ)にお持ちいただければ検査がスムーズです。
受精可能な精子になるまで約3カ月かかりますが、毎日つくられ貯蔵されています。その日の体調によっても状態が変化します。1回目の検査結果が思わしくなくても、2回目はまったく違う結果になることもあります。特に結果が思わしくない場合はすぐに判断せず、日にちを変えて精液検査を2〜3回行ってから治療法を決めることが必要です。
検査でどんなことがわかりますか。原因別の治療法を教えてください。
男性の不妊原因の 90%は造精機能障害(無精子症、乏精子症、精子無力症、精子奇形症)にあるといわれています。その多くは精液検査をしても原因がわからず、治療が難しい分野です。なかには静脈にこぶができる精索静脈瘤のように、治療法が確立した原因が見つかることもあります。この場合ある程度の精子レベルであれば、日帰りの手術で改善が見込めます。妊娠率は 30〜 40%で、術後の精子の回復に約3カ月かかります。ここから半年治療していい結果につながることが望ましいですが、仮に結果が出ずに体外受精に進むことになれば、治療は1年先延ばしになります。
そのため精子所見と奥様の年齢、経済的な問題、夫婦のご意向を総合的に判断し、最適な治療法をご提案しています。たとえば、精子所見が軽度で女性の年齢が若く、自然妊娠を希望する方には、漢方薬やサプリメントを使う薬物療法もいいでしょう。ですが劇的な効果は期待できません。人工授精へのステップアップが必要になることもあります。一方、精子所見が重度で、なおかつ女性の年齢が高ければ、多くの場合、はじめから顕微授精が検討されます。
これから妊活をはじめるご夫婦にアドバイスをお願いします。
男性の不妊症は重度の場合でも、多くは顕微授精で解決できる時代になっています。ですが、女性の卵子の老化は止めることができません。男性に原因が見つかり、女性の年齢が高い場合は早めに顕微授精を検討されることをおすすめします。
そのためには男性にも早く検査を受けていただきたいと思います。不妊原因の約半数は男性側にあるのに、女性だけ検査しても、診断・治療には不十分なのです。ほかの施設で精子検査や卵管造影検査を受けずに長年治療してきたご夫婦が当院に転院後、検査するとすぐに男性側や女性の卵管に原因が見つかることがあります。このようなご夫婦が費やした時間とお金、大きなストレスを考えると、「もっと早くに何とかできなかったのだろうか」といつも悔やまれます。赤ちゃんを早く授かるために、まずはご夫婦でできるだけ早めに検査を受けてほしいと思います。