年齢的な不安や受精卵まで育たない理由、卵子の質を上げる方法についてなど、治療法だけでなく、不安や疲れなどメンタルな悩みも寄せられた質問会。その一つひとつに熱心に答えてくれた浅田先生の厳しさと優しさが伝わり、治療をお休み中の人から現在治療継続中の人まで、多くの人が勇気をもらえた質問会でした。
着床率を上げるには どうしたらよいですか?
司会●受精卵が胚盤胞まで育たず、3日目に凍結したものを3回移植しても一度も着床したことがないとのことですが、浅田先生の考えをお聞かせくださいますか?
浅田先生●年齢的に不安をもっているよう
ですが、 歳位で治療されている患者さんは多くいらっしゃるので、やる気があるなら頑張ってほしいと思います。胚盤胞到達率を上げるためには採卵時に成熟度の高い成熟卵を採ることが大切になりますが、 歳を過ぎているなら無理に胚盤胞まで育てる必要はなく、分割期まででも問題はありません。大事なのは受精卵をたくさんつくるということ。受精卵の何個かに1個だけが赤ちゃんまで育ってくれると考えれば、受精卵の数は多い方が良いことも理解できますよね。
司会●成熟度の高い成熟卵を採る方法にコツなどはありますか?
浅田先生●卵子の大きさとホルモン値を計ることで成熟度を確認します。採血 分後にその日のホルモン値がわかり、同時に超音波検査をした所見とともに最適な採卵日を決めることができます。
司会●相談者さんのように精神的に疲れている患者さんも多いと思います。ぜひアドバイスをお願いします。
浅田先生● 当院の患者さんは平均年齢 40歳以上で、 42歳までは助成金制度が利用できることもあり、多くの患者さんが治療されています。ストレスを感じている患者さんは「あと半年」「卵子を何個凍結できるまで頑張る」など、期限を決めてはどうでしょう。
卵子の質が悪い場合の改善法を知りたい
司会●ジネコのユーザーさんの多くが関心をもっている「卵子の質」。皆さん本当に知りたいと思っているようです。ぜひ先生の解説をいただけますか?
浅田先生●卵子の質という言い方をしますが、それは卵子 の何を表しているのでしょうか。妊娠しなければ、成績が 悪ければ、卵子の質が悪かったという説明をドクターか ら受ける人が多いのだと思いますが、それは間違いだと いうのが私の考えです。卵子は生まれる前からつくられ、卵巣にずっと保存され、排卵の半年前から育ち始めて3カ 月前からはホルモンの影響を受けて育ち、成熟卵になる。
その基本から考えると、35 歳以上になれば生まれる前に つくられた卵子の 90%以上が消滅しているということになります。妊娠を考える年齢になれば何十年という時間 に耐えて生き残っている細胞で勝負することになるので、その卵子そのものをよくするということはできません。
だ からこそ、何十年も眠っていて半年前にようやく眠りから 覚めた卵子を適切に刺激し、半年間で成熟卵まで育てる ことこそが大切。成熟卵を用いることで受精率が上がり、胚盤胞到達率も妊娠率も上がります。遺伝子が再稼働でき た卵子を採取するのはドクターの腕次第です。卵子の質は 未熟な卵子を成熟卵まで育てて採取するというのが唯一 の改善法だといえるでしょう。
グレードの悪い初期胚での移植は効果ないですか?
司会●体外受精で胚盤胞まで育たない場合、初期胚で移植しても可能性はありますか?
浅田先生●我々が体外受精を始めた約 30 年前は、今よりも培養液の質が悪く、培養技術も低かったため、胚盤胞培養ができませんでした。その後、培養液も培養器も改良を重ね、私は 1998 年から胚盤胞培養を開始しました。培養技術によって胚盤胞到達率は上がってきましたが、胚盤胞まで育たないのは卵子そのものに原因があるのか、それとも培養技術が低いのか、クリニックのレベルによっても大きく変わります。
胚盤胞培養は、体外培養の負荷をかけても選ぶメリット があるから行うのですが、もともと卵子が少ない場合や、同じ培養技術でも年齢が上がれば胚盤胞到達率が低くなる ので、初期胚で移植するという手法も効果はあるでしょう。
司会●初期胚や胚盤胞のグレードについて教えてください。
浅田先生●グレードはあくまでも見た目で判断するもので、グレードのよい順に妊娠するわけではなく、選ぶためのひ とつの目安としてグレードをつけているのだと考えてもよ いでしょう。今はPGTーAで胚盤胞の染色体の数の異常 なども調べることができます。見た目でグレード良好と判 断していても、染色体の数の異常がある場合もあるように、見た目と染色体異常は強い関係がないので、グレードとい う言葉に左右されないようにしましょう。