「いつまで続ければいいの?」「夫婦間の温度差が……」など、治療を経験したことがある人なら誰もが共感できるよ うな不安や疑問の声に、丁寧に答えてくださった田中先生。最先端の高度な治療を提供しながら、常に患者さんに優しく寄り添ってくれる先生の姿勢が伝わる質問会でした。
採卵数とPGT-Aについて
司会●先生へのセカンドオピニオンの質問です。A M H 値が低くなっていることや、自然周期での採卵などについて教えてください。
田中先生●皆さん、A M H 値について誤解があるようです。多くの患者さんがドクターから「A M H 値が低いからすぐに体外受精に進みましょう」と言われるようですが、A M Hは卵巣内の胞状卵胞の数を測るものであって卵子の質とは関係はなく、たとえ A M H 値が0.4/でも質の良い卵子が採れれば挙児の可能性はあります。排卵誘発をして卵子をできるだけ多く採取し、質の良い卵子を採取できる可能性を高めましょう。
司会●年齢からくる不安もあるようですが?
田中先生●年齢には戸籍上の年齢と卵巣の年齢の2 通りがあります。卵巣年齢は月経3日までの卵巣内の胞状卵胞数と L H 、 F S H 、エストラジオールの数値で測り、その結果によって最適な排卵誘発法を提案します。
日本の患者さんのほとんどは1カ所の病院だけに通っていることが多いのですが、海外の患者さんはセカンド、サードオピニオンを求めて必ず複数の意見を聞きます。もちろん患者さんと医師との相性もありますから、もっとたくさんの意見や方法を聞くことを心がけ、通院が大変ならメールを送ってみるという方法も。良い医師なら必ず返信をしてくれますから、医師を見極めるという意味でもぜひトライしてみてください。
AMH値は生まれながらに決まっている?
司会●なぜ同じ年齢でも AMH 値が異なる人がいるのか、低い人は生まれながらにそうなのか、何に気をつけたら良かったのかを知りたいそうですが、たとえば AMH 値が低い人に共通した特徴などはありますか?
田中先生● AMH 値が低いというのは生まれつきだと考えられます。結婚する時、まさか自分が妊娠できないとは誰も思いませんが、実際は7〜8組に1組は自然妊娠できないという現状があります。反対に、残りのほとんどの人は
「この日かな」とおおよその予測でタイミングをとってお子さんを授かっているので、自然排卵1個で妊娠、出産できているということになります。
AMH 値は卵子の質を示しているのではなく卵巣内の胞状卵胞の数を意味するものなので、数が少なくても質さえ 良ければ子どもができる可能性は大。ですから私はあまり 気にしていません。逆に、AMH 値が高すぎるほうが問題で、高すぎるということは多囊胞性卵巣症候群(PCOS)というホルモン異常ですから治療しなければなりません。これ は主治医に診てもらえればすぐに診断がつきます。
高齢ではなく若いのに AMH 値が低い場合の心配をされているでしょうが、これは生まれつきの場合が多いです。しかし、規則正しい自然排卵があるのなら、あまり心配なさらなくてもよいと思いますよ。
不妊治療中の運動について
司会●不妊治療中の運動は問題ないですよね?
田中先生●よく聞かれる質問ですが、運動に限らず不妊治療に特化して良いというものはありません。妊孕能力は特別な能力ではなく、人間の総合的な健康状態のうえにあります。規則正しい食生活を心がけ、適度な運動をするのは妊孕能力を高めるということではなく、ご自身の健康状態を高めるということ。心拍数が通常より1〜2割上昇して体温が上がり、全身の末梢血管の抵抗を高め、心臓機能を高める負荷をかける運動を最低週1〜2回は行っていただきたいですね。
司会●不妊治療中、夫婦仲がギスギスしたり、治療に関して 男女差を感じたりと、夫婦での向き合い方に悩まれている方も多いようです。何かアドバイスはありますか?
田中先生●一般的には奥様が治療に対して一生懸命でご主 人が奥様の熱量に引きずられているという関係性が多く、その逆はあまりないですよね。そして意外かもしれません が愛情があっても夫婦生活が上手にできないという悩みを 抱えているご主人も。子どもをつくる行為のみになるとご 主人の精神的な負担になることもあるので、そこは奥様に 理解していただきたいですし、ご主人は奥様に「何歳まで で区切りましょう」とはっきり伝えてあげることで治療が
「お互いのもの」と認識できるのではないでしょうか。