アンタゴニスト法で卵胞が できすぎてOHSSに。
次はどんな刺激法がいい?
内田 昭弘 先生 島根大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、1987 年、 島根県の体外受精による初の赤ちゃん誕生に携わる。1997 年に内田 クリニック開業。生殖医療中心の婦人科、奥様が副院長を務める内科、 心理カウンセリングをもって現在のクリニックの完成形としている。 最近、顕微授精で使う機器を一新。今春にはタイムラプス・モニタリ ングシステムを用いた培養庫の導入やガスボンベの更新など、ラボの さらなる強化を計画しているそうです。
ルーチェさん(32歳)からの相談 Q.不妊治療を始めて3年目。片方の卵巣がPCOぎみですが、医師によると「気 にするほどでもない」とのこと。今年初めてアンタゴニスト法による採卵を行い ましたが、46個刺してそのほとんどが空胞で、採れたのは14個。7個体外受精して受精せず、残り7個を顕微授精に。5個が未成熟卵、1個変性卵、残 りの2個も受精しなかったり、5分割で止まってしまったり……。その後、OHS Sになって2カ月ほど休み、その間は漢方薬局に通って、現在に至ります。今周 期から採卵に向けて治療していこうと思っていますが、以前、先生からは「次 の採卵はロング法かショート法で」と提案されました。強い刺激だと、また卵胞 がたくさんできて未熟卵ばかりになってしまうのでは? 私のようなケースで少 しでも良い成熟卵を採る方法はあるのでしょうか。
AMHの値からすると…
担当医の先生によると「多嚢胞性卵巣ぎみだけれど、気にするほどではない」ということですが。
内田先生 ルーチェさんは生理周期が 45 ~ 50 日、AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が20 代の数値だったということ。
病態として確 定診断にはなっていないかもしれませんが、卵巣は明らかにPCO(多嚢胞性卵巣)の状態だと思われますね。
PCOの方が通常の卵巣刺激を行うとこのようになり、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)も引き起こしかねないと思います。
先生は「気にするほどではない」とおっしゃられたようですが、そこには認識の差があるように感じますね。
OHSSと刺激法
初回の卵巣刺激法にアンタゴニスト法を選んだのは間違っていたのでしょうか。
内田先生 卵巣刺激は一度やってみないと医師でもわからない部分があるので、トライという意味では間違っていたとはいいきれません。
重要なのは初回の反応をみて、次をどうするかですよね。
先生は「ロング法かショート法で」とご提案されたようですが、違う方法を試すというプランはいいと思いますが、OHSSなどの経緯を考えたら、僕はその選択はないと思います。
マイルドな刺激法で
では、この方にはどんな刺激法が合っていると思われますか。
内田先生 高刺激ではなく、一般的にマイルド法といわれるようなやり方。
アンタゴニストを使いながら、体に負担の少ない方法をおすすめすると思います。
内服薬のクロミフェンやフェマーラⓇ+注射で進め、アンタゴニストを使っていく。
そして、最後にアゴニストの点鼻薬をHCGのかわりに使用して、卵子の最終発育を促します。
ロング法やショート法だと最終的にHCGを使うことになりますが、そうするとPCOの方はOHSSを引き起こす確率が高くなってしまいます。
ですから、ルーチェさんの場合はHCGを使わなくてすむアンタゴニスト +アゴニストの点鼻薬を用いる形が最適なのでは。
さらに、受精卵を凍結して子宮やホルモンの環境が落ち着いてから移植すれば、OHSSは回避できるのではないでしょうか。
卵子をしっかり採ることは大切ですが、体を守るのはそれ以上に重要なこと。
僕はよく患者さんに「命を賭けて妊娠してはいけない」とお話ししています。
少ない採卵数でも
刺激法をマイルドにすると採れる卵子の数は極端に減ってしまいますか? 卵子の質は改善できるのでしょうか。
内田先生 左右の卵巣で5個ずつくらい卵胞が育ち、3個ずつ、合計6個程度の卵子が採れれば十分妊娠に結びついていけるのではないでしょうか。
まだ採卵の回数が1回ですから、未成熟卵や成熟卵の質が良くないというのは周によるもの、そして、卵巣刺激法によるものではないかと思います。
ご自身に合った方法が見つかれば良い卵子が採れる可能性はあるので、前向きに治療に臨んでいただきたいですね。