卵子のことを知るうえで欠かせないのが、AMH検査。 国内でもAMHにいち早く注目し、取り入れてきたドクターである 浅田レディースクリニックの浅田先生に、その実態についてお聞きしました。

浅田 義正 先生 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留学し、 主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による 妊娠例を報告。2004年、浅田レディースクリニック開院。2006年、生殖 医療専門医認定。2010年、浅田レディース名古屋駅前クリニック開院。忙 しい日々のリフレッシュとなっている、年に一度の院内旅行ではアジア各地を 訪れることが多いという先生。今年はバリ島へ行ってきたばかり。「辛い料理 や香草は得意なので、毎回、食事がおいしいですね」とお話しくださいました。

40歳過ぎで AMH1・ 16ng / mL 。 この数値は年相応?

okiko – panさん ( 42 歳) Q.42歳でAMHの値が1・ 16ng/ mL です。先生からは「年相応 に大丈夫」と言われましたが、 本当ですか?   AMHの詳し い読み方、どう参考にしたら いいかを教えてください。

卵の老化は実年齢に比例 値が高くても治療は早めに

AMHとは、アンチミューラリアンホルモン(または抗ミュラー管ホルモン)ともいい、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンです。
その値は、卵巣内にどれくらいの数の卵が残っているか、つまり卵巣の予備能がどれほどかを反映すると考えられています。
 42歳でAMH1・ 16ng / mL ですと、同年代の方に比べても、比較的高い数値です。
一般的にこれくらいの年齢では、注射をしても卵はあまり採れないのですが、AMHの値がいいということは、たくさんとはいかないまでも、注射に見合った数はそれなりに採卵できると思います。
つまり、このAMHの数値からわかるのは、okiko – panさんはまだたくさん卵が残っていて、年相応以上には卵巣予備能がよく、治療できる余地があるということです。
ただ、AMH値が表すのはあくま でも卵子の在庫の目安であって、その卵の質がいいか、順調に育つかは年齢に一番相関します。
卵子の老化は実年齢に比例するのです。
ですから、同じAMH値であっても、年齢が高くなればなるほど反応が悪くなることがあります。
okiko – panさんは現在、タイミング療法で1年ほど治療しているということですが、できればタイミング療法や人工授精は早々に切り上げて、体外受精に近い形にしたほうがいいかもしれません。
年齢が高いということは、それだ け治療できる期間が限られてきていて、たとえ受精卵がいくつかできたとしても、その中から1個でも無事に育てばいいというような状況なのです。
卵巣で排卵し、排卵した卵が卵管に入り、そこで精子と出会って受精卵ができるというプロセスで、たくさんのロスがあれば余計に効率が悪いですよね。
体外受精とは、あとは受精卵が育つだけという段階までのロスをできる限り減らし、確率を高める方法なのです。
ですから、普通の体外受精ができ ればいいし、できなければ簡易の体外受精で少しでも多くの卵を採って受精卵をつくっていくというのが、AMHにかかわらず、年齢が高い方の治療方針の1つだと思います。

 AMHに関する誤解 AMH値=妊娠率ではない!

AMH値が低いイコール妊娠率も低くなると思われがちですが、これは大きな誤解です。
たとえばAMH値を測っていないから知らないだけで、実はほとんどゼロに近い数値でも自然に妊娠・出産している人はたくさんいます。
当院へ来た時にAMH値がゼロでも、治療して妊娠・出産するという人も多くいます。
受精卵さえできれば、その人の年 齢なりの妊娠率はきちんと出るのです。
その受精できる卵が残っているかどうかが問題なのです。
okiko – panさんのケースもそうですが、AMHは決して年齢と相関していません。
20 代でも 30 代でもAMH値が高い人もいれば低い人もいます。
たとえば、当院の患者さんのデータでAMH値と年齢の分布図をつくっても、標準偏差がとても長くなって、まったく正規分布しません(グラフ参照)。
AMHの正常値とは設定しようがないものです。
要するに、AMHは妊娠率を語り ません。
卵の数が少ないということは妊娠率が低くなるということではなく「不妊治療をできる期間が限られてくる」ということを示すのです。
「AMHが低いからほとんど妊娠できないよ」というようなことを医師から言われてがっかりされている方もいるかもしれませんが、私はそれは間違っていると思います。
数値が低いなら短期間だけ頑張ってみましょう、そして、若くても低い人は早発閉経の予備軍だから今のうちに頑張っちゃいましょう。
そういう気持ちに変えてほしいというのが私のAMH値の捉え方です。
AMHは他のホルモンと違い、月経周期のいつ測ってもよい血液検査です。
原子卵胞からは一次卵胞、二次卵胞、そして胞状卵胞へと、常に一定の割合で卵胞は成長しています。
AMHは小・前胞状卵胞から分泌され、卵胞が大きくなり9~ 10 ㎜くらいになると分泌されなくなります。
その間、何度かの月経周期が巡ってきますが、その中で起こる女性ホルモンの変化は小さな卵胞の発育に影響しません。卵がFSHに反応し、女性ホルモンの影響を受けながら成長するのは、AMHが分泌されなくなった排卵周期になってからです(※)。
また、どんなホルモン検査にも測 定誤差はありますが、AMHはその誤差が大きい特徴があります。
たとえば、測定値が1だとすれば、0・85 と1・ 15 という値も測定誤差を考慮するとだいたい同じ値という意味になり、少ない増減にほとんど意味はありません。
採卵の後は少し減るとか、卵胞期に比べて黄体期が多いとか少ないなどのことは、臨床的には意味のないことなのです。
さらに、注射をしたら卵が早くな くなるなどという話も聞きますが、とんでもない誤解です。
卵は何もしなくても、生理があってもなくてもずっと発育していますし、どんどん消えていきます。
そういう自然の流れのなかで我々がコントロールできるのは、本当に一番最後のところだけ。
そこを何とかコントロールして、萎んでいく卵を成熟させて採る努力をしているのです。
もともと卵の少ない人に注射をし てたくさん採卵できるならば、妊娠率はぐんと上がるでしょうが、それはできません。
つまり、卵の増減をカバーする方法はないのです。
要するに、AMHは月経周期に左右されず、時期や治療などよって計測値が変わることもありません。
卵巣予備能、卵子の老化を、普段、皆さん意識せずに生きています。
「ちょっとおかしいな」と自覚できるものでもありません。
ですから、まずはAMHを測ってほしい。
そして卵巣予備能を早めに知って、最適な治療を進めてほしいと思います。
※AMHの値で使用する単位にはng/mL(ナノグラムミリリットル)とpM(ピコモル)の2種類があります。これはAMHを測る検査試薬の変更に伴うもので、pMは2011年6月までの旧試験試薬の単位で、現在はng/mLが標準です。1ng/mLは7.14pMで換算されます。
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