妊娠・出産のためには健康な体づくりが大切です。
冬の時期、特に気になるのが体の「冷え」! 俵先生にその影響と対策法をお聞きしました。
自分のためにも、赤ちゃんのためにも 体質改善、始めましょう!
俵史子先生 浜松医科大学医学部卒業。2004年愛知県 の竹内病院トヨタ不妊センター所長に就任。 2007年、俵史子IVFクリニックを開業(のち に俵IVFクリニックに名称変更)。浜松医科大 学臨床講師、生殖医療専門医。最近、家族が 増えたという先生。それはちょっと気の強いトイ プードルの女の子。3匹の愛犬は心を癒して くれる大きな存在。気持ちをリセットして、明日 の仕事へのパワーも与えてくれるそうです。
目次
menu.4手足の冷え、 対策法を教えて!
さかさかさん(29歳)からの相談 Q. 手足がかくれ冷え性です。冬場はもちろん、夏もクー ラーを使うと手足が冷えきってしまいます。温かい飲み 物を飲んだり、お風呂に浸かったりしていますが、なか なか治りません。妊娠にも良くないと思うのですが、ど のように対策していったらいいのでしょうか。
特に女性は、冬に限らず、年間を通して冷えを感じている方が多いようですね。
なかでも、手や足の先など、体の末端が冷えるという声をよく聞きます。
ほかにも全身が冷たい、お腹や腰のまわりが冷えるなど、いろいろなタイプがあり、総称して「冷え性」と呼びますが、西洋医学では病気とはとらえていません。
冷えの原因が、甲状腺など内分泌の異常や内臓の機能低下など、明らかに疾患によるものなら、それに対して治療を行うのですが、冷え性そのものを治すという治療はないんですね。
「病気ではない」といっても、冷えは体にとって決していいことではありません。
妊娠を考えている方はなおさらで、不妊の原因の1つになってしまうことも。
末端が冷えるということは、体の隅々まできちんと血液が行き渡っていない。
つまり、血行障害ということですね。
末梢の血液循環が悪くなっているということは、子宮や卵巣にもうまく循環していないことが考えられます。
血流がしっかりしていないと、その臓器に届けられる酸素やホルモン、栄養分などが少なくなってしまうので、子宮内膜が厚くならない、着床した時に受精卵に酸素がうまく行き渡らないなど、妊娠するための環境づくりにも悪影響が出てしまう可能性があります。
血流と妊娠率についての論文は、多く報告されています。
以前、私も関わって行った研究では、子宮内膜直下の細かい血管の血流が悪い人のほうが、妊娠率が低いという結果が出ました(左ページ参照)。
冷え性を改善するためには、いろいろな方法があると思うのですが、手軽にできることとして、当院では半身浴をおすすめしています。
入浴はシャワーで済ませるのではなく湯船に浸かる。
さらに 38 ~ 40 ℃くらいのややぬるめのお湯に 20 ~ 30 分程度、下半身だけ浸かります。
心臓や肺などに負担をかけず、下半身を集中的にじっくりと温めることで、子宮や卵巣など骨盤内の臓器の血行を促進。
汗もたくさんかくので、軽い運動と同じような効果も得られるのでは。
また、運動も冷え性改善に効果があります。
体内で熱が最も生産されるのは筋肉なので、筋肉が少ないと発熱する量も減ってしまい、冷えの原因になります。
筋肉は下半身に多いので、ウォーキングやスクワットがおすすめです。
時間がない方は、日頃、エスカレーターではなく階段を使う習慣をつけたり、デスクワークや家事の合間に足の屈伸をするだけでもいいと思います。
冷え性をはじめ、不妊症につながる要素は1つでも減らすことが大切。
それが妊娠への近道だと思います。
冷えと不妊の関係
ホルモン補充周期における妊娠成立と 子宮内膜下動脈の血管抵抗との関係
着床に際しては、各種の接着因子が子宮内膜側と移植胚側 に出現することが重要です。
その発現には子宮の血液循環も 関係していると考えられているので、着床環境として、子宮の 血管抵抗に着目して観察・検討を行いました。
ホルモン補充周期における凍結融解胚盤胞移植を行った 83例(妊娠群47例、非妊娠群36例)について、子宮内膜下 動脈の血管抵抗性を調べたところ、妊娠群と非妊娠群の抵抗 性は月経時、移植時においては差は認められませんでしたが、 エストロゲン補充時の胚移植前で、非妊娠群の血管抵抗が有 意に上昇することが判明しました(グラフ2)。
血管抵抗が高いということは、血液の流れが悪いというこ と。
日常からの体の冷えが大きく関係しているとははっきりい えませんが、このデータにより、血管抵抗が胚移植前に上昇し ている例は着床しにくいということが認められました。
良い着 床環境として、子宮内膜の血液循環亢進は必須であると考え られます。
胚移植前、子宮内膜下動脈RⅠの比較
妊娠群に比べ、非妊娠群では月経時から胚移植前に血管抵抗値の有意な上昇を 認めた。 ( 出典元)※日本受精着床学会雑誌 28(2):414-417, 2011
妊娠群、非妊娠群でのRⅠの変化
妊娠群に比べ、非妊娠群では血管抵抗の値が有意に高値を示した。 ※「RⅠ」とは血管抵抗のこと。抵抗の値が高いほど、血液循環が悪いことを示す。
おすすめ冷え対策
半身浴
38~40℃くらいのややぬるめ のお湯に20~30分程度。下 半身を集中的に温めることで、 子宮や卵巣など骨盤内の臓器 の血行が促進されます。
ウォーキングや スクワット
下半身を動かす運動をすると体 が温まってGOOD! 忙しい場 合は階段を使ったり、手軽な屈 伸運動をするだけでも○。