手術を受けたものの年齢的にはもう体外受精しかない?

手術の後、体外受精をすすめられましたが、 年齢的にもう自然妊娠は難しいのでしょうか。 醍醐渡辺クリニックの渡辺先生にご意見を伺いました。

渡辺 浩彦 先生 滋賀医科大学卒業後、京都大学医学部附属病院産婦人科、大津赤十字病院、 済生会茨木病院などを経て、1971年から不妊治療を行っている父親の病院を継 承。不妊治療から分娩まで手掛け、365日24時間の診療体制をとる。O型・おとめ 座。プライベートでは、長年、時間を見つけては少しずつ、西国三十三所の寺院を訪 ねることを楽しみにしてきた先生。「今年こそは行っておきたいですね」というのが、岐 阜県にある三十三番目の札所、谷汲山 華厳寺。ちなみに、先生のクリニックから程 近い、深雪山 醍醐寺は第十一番目の札所に当たる。

ドクターアドバイス

絶対に自然妊娠できないわけではないが年齢的に難しいので早めに体外受精へ
海外での治療が不安なら、本で体外受精を行うのも一つの方法
ゆーさんさん(38歳)からの投稿 Q.結婚6年、海外で治療中です。結婚後、ずっと右下腹部にキリキリとした痛み があり、子宮内膜症と、エコーでは見えない部分に癒着があるかもしれないか らと、腹腔鏡手術を受けました。しかし、癒着は左側の卵管周辺にあったよう で、その後も相変わらず右側に痛みがあります。早く子どもを授かりたいと、 結婚当初に人工授精を5回ほど行いましたが、先のステップに進むことなく今 に至ります。 手術したのとは別の病院の担当医に「年齢的にも体外受精しかないよ」と言 われてしまいました。もう自然妊娠は難しく、体外受精でしか赤ちゃんは望め ないのでしょうか?

これまでの治療データ

検査・ 治療歴

下腹部の痛みのため、腹腔鏡による検査と手術を行う。
子宮筋腫、子宮内膜症第二期、左卵管水腫の所見で、電気焼灼 による左卵管周囲癒着剥離、および子宮内膜症の除去を行 う。
現在、主人の赴任先の海外の病院で血液検査から不妊 治療を開始。

不妊の原因 となる病名

左卵管水腫、子宮内膜症、子宮筋腫

精子 データ

採精したが、詳しい情報は不明。

内膜症と腹腔鏡手術

ゆーさんさんは腹腔鏡による手術で、子宮内膜症第二期、左卵管留水腫と診断されたとのこと。術後の妊娠への影響について、先生はどのように考えますか?
渡辺先生 子宮内膜症第二期というのは、初期的段階で軽症ではあるものの、やや深い層にまで病巣が広がっている状態。
腹腔鏡下での手術療法はよい選択だったと思います。
一般的にですが、腹腔鏡手術を受けた後は妊娠しやすくなるといわれています。
特に、子宮内膜症の方にその傾向があります。
子宮内膜症の場合、細かい病変から卵子に悪い影響を与える物質が腹腔内に溜まっている場合があるので、それが取り除かれて妊娠しやすくなることがあるのです。
極端な話をすれば、摘出手術をしなくても、腹腔鏡による検査だけで妊娠という例もあります。
ただし、たとえ腹腔鏡といえども、なかには手術による癒着によって妊娠しにくくなるケースもありますから、安易に考えるべきではありません。

術後の累積妊娠率

とはいえ、やはり手術後は妊娠率がアップすると考えていいですか。
渡辺先生 医学用語で妊娠しやすさのことを 「妊孕性」といいますが、腹腔鏡下子宮内膜症の手術後の妊孕性について、年齢別に3つのグループに分けて累積妊娠率を調べた興味深いデータがあります。
まず、 30 歳以下のグループでは、術後 40 カ月の累積妊娠率が 80 %、次に 31 ~ 35 歳のグループでは 60 %近くにまで達しています。
これに対し、 36 歳以上のグループでは 20 %止まり。
それ以上、累積妊娠率は上がりません。
つまり、 35 歳くらいまでは手術による妊孕性の回復が良好で、術後に妊娠する確率は飛躍的に上がるけれど、年齢とともに累積妊娠率は下がり、 36 歳以上は 20 %程度にしか上がらないということです。
ちなみにこのデータは、当院の患者さんに子宮内膜症の手術をすすめる際に紹介しているものです。
ある総合病院の産婦人科が調査した確かな成績です。
 結論としては、もし、ゆーさんさ んが腹腔鏡手術によって自然妊娠の可能性を期待していらっしゃるとしたら、それは年齢を考慮しない一般論に基づくものです。
あまり期待されないほうがよいでしょう。
「体外受精以外に方法がない」とは言いませんが、主治医の先生のおっしゃることは間違いではありません。
人工授精を5回試みて妊娠できなかった結果から見ても、年齢的に一刻も早く体外受精へのステップアップをおすすめします。

それでも痛みが残る時は

手術後も下腹部の痛みが残ったままというのが気になります。
渡辺先生 そうですね。
卵管水腫という診断から、子宮内膜症以外にクラミジア感染症も原因の一つに挙げられると思います。
あとは右側が痛いということで、可能性は高くないかもしれませんが、虫垂炎なども疑ったほうがいい。
腹痛の症状には本当にさまざまな疾患が隠れているので、これだけの情報で一概に類推することはできません。
腹痛が相変わらずひどいのであれば、内科的な疾患がないかどうか、もう一度、婦人科を含めて総合的に診てもらいましょう。
先ほどの腹腔鏡下子宮内膜症の手術の後、どれくらい時間が経過しているのかが書いてありませんが、子宮内膜症の除去が十分でないことや、手術による癒着の影響も考えられます。
また、最近の卵管通水検査が非常 につらかったとのことですが、おそらく卵管が十分に通っていないのでしょう。
体外受精にステップアップするなら卵管は関係ないように思われるかもしれませんが、卵管水腫は炎症性の液体が子宮に少しずつ逆流し、よい受精卵を戻しても着床しにくい環境をつくってしまいます。
今でも卵管水腫がある状態でしたら、もっと知りたい あなたへやはり治療が必要でしょう。

日本の生殖医療レベルは世界トップ

もう一つ気になる点として、ゆーさんさんはご主人の赴任先の海外で治療を受けておられます。語学が得意ではないとのことで、検査結果や治療方針など、細かい点まで理解することが難しいようです。
渡辺先生 言葉の不安もあり、体外受精にステップアップすることに抵抗を感じていらっしゃるのかもしれませんね。
当院でも海外から転院されてくる患者さんが時々いらっしゃいますが、やはり安心して治療を受けていただいているようです。
この後、もし体外受精へステップアップするなら、日本のクリニックでの治療を選択肢に入れるのもいいでしょう。
技術、治療費など総合的に評価しても、日本の不妊治療は世界でも高い水準にあると思います。
たとえば、ご夫婦の実家の近くに評価の高い通いやすいクリニックがあれば、一時帰国の際にタイミングを合わせて体外受精を行うのも一つの方法。
ご主人の精子をあらかじめ凍結しておくことができれば可能です。
海外でそのまま治療を進めるにしても、検査結果や治療方針はしっかり理解したうえで、ぜひ早めに体外受精へステップアップしてください。
※クラミジア感染症:微生物であるクラミジアが原因となり、尿道、子宮頸管や卵管内に炎症を起こす性行為感染症。近年増加傾向にある。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。