【医師監修】大島 隆史 先生 自治医科大学卒業。1982年、新潟大学医学部産科婦人科学 教室入局。産婦人科医として3年間研修後、県内の地域病院 の1人医長として4年間勤務。1992年、新潟大学医学部にお いて医学博士号を授与される。新潟県立がんセンター新潟病院、 新潟県立中央病院勤務を経て、1999年、大島クリニックを開設、 院長に就任。原因不明で妊娠が困難な場合でも、あらゆる方法 に柔軟にトライして最後まで諦めない不妊治療を実施。学会で の小さな報告も見逃さず、日々生殖医療の研究に励んでいる。
フェルドラさん(44歳) Q.アンタゴニスト法で採卵して顕微授精を実施。2個の受精卵ができて凍結 しました。1回目の移植は自然周期で子宮内膜が 7.2㎜→キャンセル、2 回目はホルモン補充周期で子宮内膜が8.5㎜→初期流産、3回目はホル モン補充周期で子宮内膜が6.5㎜→キャンセル、4回目はビタミン剤を服 用しながらホルモン補充周期で子宮内膜が8.3㎜→化学流産、という結 果に。再び同じ排卵誘発法で採卵しましたが、5回目の移植は子宮内膜 が6.2㎜にしかならずにキャンセル、6回目は5.5㎜とさらに薄く、移植は しましたが着床には至りませんでした。回数を重ねるごとに子宮内膜が薄 くなっています。何か対処法はありますか?
子宮内膜の問題は、未だ闇の中
移植の回数を重ねるごとに子宮内膜が薄くなっているということですが、どのような原因が考えられるのでしょうか。
大島先生 子宮内膜が厚くならない原因、また、薄いとなぜ着床がうまくいかないかという理由は、まだはっきりとは解明されていません。
一般的な治療法としては、「子宮内の血液の流れが滞っていると子宮内膜が厚くならない」と考え、血流改善のための薬を使用することが多いようです。
ビタミンEのほか、バイアグラⓇの腟錠などを用いますが、すべての方に顕著な改善が見られるというわけではないようです。
ビタミンの取り過ぎは注意?
フェルドラさんもビタミン剤を処方されていたようです。
大島先生 服用しても厚くならなかったということは、この方にとって適した方法ではなかったのかもしれませんね。
子宮内の胚の環境としては酸素濃度が低いほうがいいのですが、ビタミン剤などで周囲にある血管の血流がよくなると、酸素濃度が高くなりすぎてしまうこともあります。
ケースによっては、かえって妊娠にマイナスの影響を及ぼしてしまうこともあるようです。
G―CSF(顆粒球コロニー刺激因子)
では、ほかに有効な治療法はありますか?
大島先生 当院が最近実施している方法にG―CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の注入があります。
G―CSFというのは、抗がん剤として使われている薬で、骨髄を刺激して白血球の数を増やす作用があるものなんですね。
学会では何例か改善の報告がされています。
なぜ子宮内膜に効果があるのかははっきりわかっていませんが、G―CSFはもともと着床の時にたくさん分泌される物質です。
流産した絨毛からはほとんど出ていませんから、何かしら着床に影響を与えることは間違いないと思います。
G―CSFのやり方
具体的には、どのように使うのでしょうか?
大島先生 移植の1週間前くらいに、人工授精の要領で薬剤を子宮内に注入します。
痛みはなく、今のところ副作用も報告されていません。
当院では 20 人に実施して、 12 人に妊娠反応が出ました。
興味深いことに、妊娠したのは年齢が高い方のほうが圧倒的に多く、子宮内膜の厚さも5㎜、6㎜という方も。
まだ多くのデータはありませんが、これまでの治療では条件が悪い方のほうがうまくいっているように思います。
G―CSFによる不妊治療はまだ一般的に普及していませんが、薬剤自体はすぐに入手することができます。
フェルドラさんも担当医の先生にご相談して、一度トライされてみてはいかがでしょうか。