治療を続けるのか、もう諦めたほうがいいのか……。 長く不妊治療を続けている方の心の持ち方について 木場公園クリニックの吉田先生にお話を伺いました。
【医師監修】吉田 淳 先生 愛媛大学医学部卒業。産婦人科・泌尿器 科医。生殖医療指導医・臨床遺伝専門医。 東京警察病院産婦人科、池下レディース チャイルドクリニック、東邦大学第一泌尿 器科非常勤講師などを経て、1999 年木 場公園クリニックを開院。不妊症治療の 情報収集のため、アメリカや日本国内の 不妊症専門施設の見学・研修を数多く積 んでいる。患者さん一人ひとりが持つ流れ や〝気〞を掴み取れるドクターになるのが 理想。その根底には「この患者さんを絶 対に妊娠させたい」という強い思いがある。
ドクターアドバイス
◎ 残りの移植の前に不育症の検査を
◎ 夫婦の考え方を確認しておく
◎ 治療中は心にゆとりを
ティーさん(専業主婦・40歳)Q.34 歳から不妊治療を始め、男性不妊ということもあり顕微授精から スタート。2回の流産のあと、少し治療を休みましたが、39 歳でどう しても諦めきれない自分がいて、その後 2回転院して現在も治療中 です。これまで 8回の採卵に10 回の移植。まだ3回分の凍結卵が ありますが、これがなくなった時に治療をやめようと思います。年齢 と治療回数を考えたらもうこれ以上はできないし、金銭的にも限界 です。残りの凍結卵で運命の卵に会えるように願っています。10 回 以上の胚移植でも妊娠の可能性はあるのでしょうか?
えあみんさん のデータ
顕微授精、凍結胚盤胞移植で陽性が出たものの流産。
2回目も胚盤胞を移植したが、心拍 確認後に流産。
その後、少し治療をお休みし、 39歳で再開。転院し、顕微授精で陽性になるも流産。
その後も5回の顕微授精が陰性。
3 軒目に転院、1回目の採卵で初めて全凍結をしてホルモン周期での融解胚移植を行う。
前 月の移植でグレードも良かったので期待大だったが陰性。
残り3回分の凍結卵を最後の治 療にする予定。
辞め時をどう考えるか?
えあみんさんは治療を始めて7年、これまで 10 回移植をされているということですが。
吉田先生 当院で治療を受けた患者さんには、 30 代後半の年齢で治療8年目で、 10 回以上移植をして妊娠し、無事出産された方もいらっしゃいます。
もちろん可能性はゼロとは言えませんが、すでにこれだけ治療をされてきているので、楽な闘いではないのは事実です。
ご本人もそれは十分承知されていると思います。
あと3回分の凍結卵がなくなったら治療をやめようと思っているとのこと。
気持ちの面でもそろそろ限界を感じられているのではないでしょうか。
治療をどこまで続けるか、最初にある程度、目標の回数を決めておいたほうがいいですか?
吉田先生 年齢が高い方だけではなく、若い方も同じだと思うのですが、体外受精を3回しなくてはいけないとか 10 回しなくてはいけないと回数が決まっているわけではなく、1回1回の結果を見ながら決めていけばいいと思います。
医師からもその都度妊娠の可能性や問題点を提示していくので、それを受けて、どの時点で治療をやめるのか、それとも継続していくのか、最終的にご夫婦で決めていくことになると思います。
この時、ご夫婦の方向性が食い違わないように、日頃から二人でよく話し合っておくことが大切です。
どのような結論になっても納得できるか。
夫婦関係が悪くなってしまったら、何のために治療をしたのかわからなくなってしまいます。
一番重要なことは、お子さんができる、できないにかかわらず、ご夫婦がハッピーでいることだと思います。
厳しい時は伝える
医師側から治療のやめ時を示唆されることもあるのですか。
吉田先生 僕は、厳しい状況の時は厳しいと言うことがすごく重要だと思っています。
当院の場合では、患者さんもそれを望んでいますから。
先に申し上げたように、最終的に決めるのは患者さん自身なので「やめなさい」とは言いませんが、たとえば卵子の状態が厳しければ、若い方にも「だいぶ厳しいところまで来ていますよ」というお話はさせていただくようにしていますね。
検査の範囲を広げる
あと3回と期限を決めているようですが、厳しい状態なのでしょうか。
吉田先生 10 回目の移植では受精卵のグレードがよかったのに、陰性という結果になったということですね。
そうなると当然期待も大きくなりますが、いい卵子やいい胚ができたとしても、年齢が高くなってくると、外見がよくても中身がよくないというケースが増えてきます。
40 歳を過ぎるとどうしても、量にも質にも年齢の影響が出てきてしまうんですね。
これまでの治療については、決して間違った治療ではないと思います。
ただ少し気になるのが、2回流産をくり返している点。
もしかしたら、えあみんさんには流産を起こすような体質があるのかもしれません。
血が固まりやすいなど、不育症の可能性が高いのではないでしょうか。
僕からのアドバイスは、不育症の検査をしたうえで残りの移植に臨んでみては。
この検査をしない方針の施設もあると思いますが、当院ならすすめると思います。
不育症の要因が見つかり、ヘパリンやバファリン配合錠Ⓡなどの投与で結果が出ている方もいらっしゃいます。
残りの移植回数を決めているならなおさら、医療側、患者さん側、お互いの悔いが残らないような治療が必要だと思
います。
います。
心には少しゆとりを…
精神面のアドバイスはありますか?
吉田先生 僕はいつも患者さんに「過去には返るな」と言っています。
「あの時、もっと早くあの治療をしていれば……」と落ち込んでも、事態が好転するわけではありません。
年齢も卵巣の状態も過去には戻れない。
それなら後ろは振り向かないほうがいい。
「前を見ていきましょう」と伝えています。
僕たち医療側は過去の結果を見て、経緯を分析する必要がありますが、患者さんは過去を思うことがマイナスに作用してしまいます。
精神的なものも妊娠率に影響しますから、現実を見ながら治療していくことが大切だと思います。
それともう1つ、年齢が高くなると治療の時間的にはゆとりがなくなってきますが、心には少しゆとりを持っていただきたい。
資格試験なら頑張れば合格できますが、不妊治療は努力をしても報われない場合があります。
治療にすべてを捧げ、それが報われなかった時に何もなくなってしまうのではなく、自分たちの生活や人生を楽しむことも重要。
子どもを得ることは人生設計の一部ととらえ、仕事や趣味、ご主人とのコミュニケーションなども充実させながら治療に臨んでほしいですね。
もし治療をやめることになっても、それは負けでも逃げでもない。
不妊治療にトライできたこと、努力したことに喜びや幸せを感じていただきたいと思います。