【医師監修】内田 昭弘 先生 島根医科大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員として、1987 年、 島根県での体外受精による初めての赤ちゃん誕生に携わる。1997 年に内田 クリニック開業。1 階は奥様が副院長を務める内科・胃腸科、2 階が婦人科。 地域の産婦人科医と連携を取り、専門性の高い不妊治療に積極的に取り組む。 ご家族でジャニーズの嵐の大ファンだという内田先生。最近、妊娠した患者さ んから、「嵐のファンに悪い人はいない」と言われ、とても嬉しかったとか。
きのさん(32歳)からの投稿 Q.生理不順と妊娠希望で昨年 9月から通院。高プロラクチン(35.2ng/mL)と 診断され、プラノバールⓇと温経湯を服用。今年2月にはクロミッドⓇを服用 しタイミングをとりましたが、3月に化学流産。その後、生理が始まり、1カ月 は温経湯とプラノバールⓇの服用はやめて、先生に「1カ月後にまた来て」と言 われました。その後、低温期25日、高温期が15日あり、4月28日から生理 開始。自然にまかせたい気持ちと多忙のため、病院に行けませんでした。そし て今、低温期が3週間続いています。自然妊娠を望む気持ちと、早く授かりたくて 人工授精に進みたい気持ちで悩んでいます。ステップアップするべきでしょうか?
良い排卵が妊娠のベース
まずは、きのさんの治療の状況をみて、いかがですか?
内田先生 月経周期において低温期が3週間も続くのは、卵子の発育が遅い状態だと思います。
基礎体温上、正常な月経周期でないということは、1カ月に1回のペースで排卵ができていないということなので、やはり排卵障害ですね。
これは男性側に置き換えれば、射精しても精子がないのと同じとも考えられます。
まずは、1カ月に1回、確実に排卵を促す治療をすすめます。
排卵されていることは、妊娠においてやはり大切な条件ですね。
内田先生 いい卵子が育って、いい排卵をすることが妊娠のベースになりますから。
もちろん、人工授精や体外受精でも同じことが言えます。
きのさんの場合は、排卵誘発剤を使った治療が必要だと思います。
自然に妊娠したい…
現在は、クロミッドⓇを服用していないということですが、自然にまかせても妊娠する可能性はありますか?
内田先生 通常は2週間で卵子が生育し排卵します。
きのさんの場合は3週間かかっていて、正常の周期ではないけれど排卵はしています。
ですからタイミングが合えば、自然妊娠がまったくないとは言えません。
しかし、高プロラクチンでもあるので、排卵誘発剤を使用してタイミングをとる方法を選ばれたのでしょう。
きのさんも悩んでいますが、患者さんの「自然にまかせたい」という気持ちの裏側には、治療への抵抗感や薬への不安があるのでしょうか。
内田先生 誰しも、できれば自然に妊娠したいと願っています。
当院の患者さんも、自然な排卵での妊娠を希望する人がほとんどです。
それは、排卵誘発剤や人工授精という医療の手が加わることへの不安や心配から来ていると思います。
しかし、月経不順は1つの病気ですから、病気を治すと考えた時に、その延長として排卵が改善され、妊娠につながるのだと考えれば、治療に臨みやすくなるのではないでしょうか。
検査と夫婦間の意思の疎通
きのさんの次のステップは、人工授精になるのでしょうか?
内田先生 ここに至るまでに、治療をしても同じ状態で2年ほど経っている場合は、次のステップを考えてもいいと思います。
ただし、人工授精と決める前に、しっかり検討することが大切です。
排卵誘発剤を注射に変える方法もありますし、ヒューナーテストを行ったり、AMH検査で卵子がどれくらい残っているか調べたり、また、ご主人の精液検査はしていないということですから、それも必要になると思います。
生理が始まってから次回の受診までの間に、これまでの過ごし方を振り返り、ご夫婦でこれから先の治療をどうしていきたいのかをよく話し合って医師に相談されることが大切だと思います。
※高プロラクチン(血症):脳下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモン(乳腺刺激ホルモン)が過剰に分泌されている状態。プロラクチンが高くなることで、内分泌のバランスが乱れ、排卵障害や着床 不全を引き起こす場合がある。
※ヒューナーテスト:性交後、子宮頸管粘液を採取して、精子と頸管粘液の適合を調べる検査。