子宮卵管造影検査の後は妊娠しやすいって本当? 久保みずきレディースクリニックの石原先生に 卵管の検査や治療についてお聞きしました。
石原 尚徳 先生 高知医科大学卒業。神戸大学医学部大学院修了。兵 庫県立成人病センター、兵庫県立こども病院の勤務を 経て、2008 年より久保みずきレディースクリニック美 賀多台診療所副院長。不妊治療から周産期・小児医療 まで、地域に根ざした総合的なサポート態勢が整う同 クリニックで、副院長として精力的に活動する。A 型・ さそり座。サッカーが好きな石原先生。最近、日本代 表 DF、インテル •ミラノの長友佑都選手に影響されて、 体幹トレーニングに目覚めたとか。「ほとんど自己満足 (笑)。自宅など人に見えないところで鍛えています」。
とっこさん(事務職・31歳)からの投稿 Q.先日、子宮卵管造影検査を受け、両卵管とも狭窄と診断されました。 まだ検査を始めたばかりで、次回はヒューナーテストです。先生は期待させ すぎないようにか、自然妊娠については何も言ってくださいません。 無理なら無理でステップアップしたいと思うのですが、 「まだ若いからね~」とのんびりした回答で、どっちつかず。 ほかに悪いところがなかった場合、タイミング療法で頑張りたいのですが、 卵管狭窄と診断されて自然妊娠された方はいらっしゃいますか?
卵管狭窄について
子宮卵管造影検査で卵管狭窄と診断されたそうですが、自然妊娠を期待できそうでしょうか?
石原先生 子宮卵管造影検査で卵管狭窄と診断されていても、「狭窄」だけであれば、妊娠の可能性は十分にあると思います。
なぜ、そのような診断結果になるのでしょうか?
石原先生 1つは、緊張によるものというか、体の反応によって卵管の入り口のところで収縮が起こるからでしょうね。
卵管は筋肉でできた細い管ですから、精神的な影響も繊細に受けやすいのです。
「狭窄」という診断の範囲はとても広いものです。
医師が今まで見てきた造影の状態や感覚といった主観的な要素も入っていて、「通常より細い」という時に「狭窄」という言葉を使います。
画像で見ると通っているが狭そうだとか、造影剤を流し込んだ時に抵抗がかなり強いとか、圧が上がっているとか、患者さんの痛みの強さとか、そういったことで判断します。
子宮卵管造影検査
子宮卵管造影検査について、先生はどのようにお考えですか?
石原先生 そうですね。
卵管は 10 ㎝程度の細い管状の生殖器官で、妊娠するためには最も重要な器官です。
まず、卵子をピックアップして取り込むという働きがあります。
次に、卵管を通ってくる精子が通過する間に、卵子に受精できる受精能を獲得する場所となります。
さらに、受精の場を提供し、受精後は受精卵を栄養し子宮まで運びます。
このような妊娠の一連の重要な部分が、すべて卵管の中で行われるのです。
卵管造影検査は、その重要な生殖器官である卵管にダメージがあるかどうかを調べる一番大切な検査です。
基本検査のなかでも最も重要な検査であることは、昔も今も変わりないのではないかと思います。
検査後の妊娠率UP
「検査後は妊娠率が上がる」といわれることについてはいかがですか?
石原先生 これは、検査に使用する造影剤が卵管の詰まりをきれいに取る、免疫の働きを調整するなど、諸説ありますが、検査後1年くらいは、妊娠率が 30 ~ 40 %ほどアップします。
検査に使用する造影剤は、水溶性と脂溶性の2種類があり、どちらを選ぶかは施設や患者さんの選択によりますが、いずれも同じような効果があります。
よく「子宮卵管造影検査って痛いんでしょ?」と皆さんおっしゃいますが、実際は「思っていたより痛くなかった」という方が多いです。
当院では不妊治療を希望される患者さんには、ほぼ100%の方に受けていただいています。
とっこさんは担当の先生に、検査後の自然妊娠については「わからない」と言われたとのことです。
石原先生 当院でも「卵管が通ってさえいれば、妊娠しやすくなるから頑張って」というような話はします。
しかし、自然妊娠できるかどうかは、複合的な問題がなければという大前提があってのことです。
もし卵管狭窄以外に、精子のデータやヒューナーテストの結果など、妊娠しにくい要因がほかにもあれば、早期にステップアップしたほうがいいでしょう。
まだ検査を始めたばかりということですし、担当の先生も一通りの検査をしてからでないと、何とも言えないと思っているのかもしれません。
FT・腹腔鏡・AMH
今後はどのように治療を進めたらよいでしょうか。
石原先生 担当の先生がおっしゃるように、とっこさんは年齢が 31 歳ですからね。
私もまだそれほど焦ることはないと思います。
4~5回はかかると思いますが、1周期かけて、できる検査から進めていくとよいでしょう。
そして、卵管狭窄だけでほかに不妊の原因が見つからないのであれば、このままタイミング療法を続けるのもいいと思います。
FTを行うと、妊娠率は 30 %くらいアップしますので。
ただ、FTにしても腹腔鏡にしても、35 歳くらいまでに行うほうがいいと思います。年齢やAMHの値なども参考にしながら行いましょう。
検査結果を踏まえて
すでに体外受精という選択肢も視野に入れているようです。
石原先生 それでいいと思います。
卵管が狭いだけならいいのですが、卵管回りの癒着やピックアップ障害によって、卵子を卵管の中へ取り入れることができなければ、妊娠することはできません。
その場合はどうしても体外受精となりますからね。
また、FTを行うかどうかも方針によると思います。
つまり、卵管に問題があるということは、受精卵を運ぶ能力が落ちているということですから、受精卵が子宮ではなく、卵管に着床してしまう子宮外妊娠のリスクが増える傾向にあります。
卵管狭窄、卵管閉塞と診断されてなかなか妊娠できない場合は、FTに進んでタイミング指導や人工授精で様子をみる、FTをせずにすぐに体外受精へステップアップする、このどちらかの選択肢になると思います。
ほかに不妊の要因がないか、今後の検査結果を待ってから決めるのがいいでしょう。
おしえて!
★FT(卵管鏡下 卵管形成術)って?
狭くなっていたり、詰まっている状態の卵管にカテーテルと呼ばれる細い管を通し、内視鏡で卵管内を観察しながら、癒着している部分を剥離するなどして卵管の働きを回復させる。
開腹せずに、腟から子宮、卵管へとカテーテルを挿入するので、体の負担が少なく、局所麻酔や静脈麻酔下で行われる。
日帰り手術で、医療保険の適用となる。
FTを受けてから効果が持続するのは6カ月程度。
卵管采のピックアップ障害のケースなどには必ずしも有効ではない。
※AMH(抗ミュラー管ホルモン):発育卵胞、前胞状卵胞から分泌されるホルモンで、卵巣の予備能を知ることができる。血液検査で調べられる。ミュラー管抑制因子ともいう。