ストレス フリーな 不妊治療
通院、待ち時間のタイムロス……大変だからこそ
排卵誘発の方法によっては8~10日間、注射だけのために毎日病院に 通わなくてはならないケースも……。そうした時間のロスや、 患者さんの精神的負担を在宅自己注射で軽減しているという 池下レディースクリニック吉祥寺の矢野直美先生にお話を伺いました。
通院回数を 3分の1程度に減らせます
不妊治療でかかる負担といえば、〝時間〞もその一つではないでしょうか。
家の近くに不妊治療を受けられる施設がない場合は遠くまで通院しなければならないし、フルタイムで仕事をしている場合は、治療のために早退やお休みをしなければならないことも……。
それがストレスになって、不妊治療自体がつらくなってしまうという方もいらっしゃいます。
東京・武蔵野市にある池下レディースクリニック吉祥寺では、そんな通院に関するストレスを少しでも軽減できるよう、不妊治療を受ける患者さんに在宅自己注射をすすめています。
院長の矢野先生に詳しくお聞きしました。
排卵誘発の際にしなければならない注射は、特に患者さんの時間的な負担になっていると思うのですが……。
「誘発方法によっても異なってくると思いますが、生理開始3日目から毎日注射をするような方法の場合だと8〜 10 回になるので、その回数分、通院していただくことになります。
この注射を在宅自己注射にすると、採卵まで3回ほどの診察で済むことも。
通院回数が3分の1程度になりますので、患者さんの負担をかなり軽減できると思います。」
同クリニックではもちろん通院での注射も行っていますが、全体の9割近くの患者さんが在宅自己注射を選択しています。
「待合室に在宅自己注射に関するポスターを貼ったり、パンフレットを置いているので、それを見て興味を持たれる方が多いようです。
当院ではパートを含め、仕事をしている患者さんが多いので、毎日通院となるとやはり時間的なやりくりが難しいと思います。
また、自宅の周辺に不妊治療専門のクリニックがなく、遠方から通っている方もいらっしゃいます。
そういった方が注射のためだけに通院するとなると、交通費も時間も多く費やすことになり、通院回数が増えるほど大きな負担になってしまいますよね。」
仕事を辞めるのではなく 治療方法の工夫を
どのような形で自己注射を患者さんにおすすめしているのですか?
「排卵誘発をする時には必ず、在宅自己注射という選択肢があることをお話ししています。
注射が始まる前の周期にご説明して検討していただき、次の生理が始まって来院された時に、在宅自己注射を選択するなら、その日から開始するという流れですね。」
初回の在宅自己注射は必ず、看護師が正しい手順を説明しながら、患者さんと一緒に行っていきます。
「以前は、自己注射の仕方や注意点をまとめたDVDを事前に患者さんに見ていただいていたのですが、最初にそれを見てしまうと構えすぎてしまう患者さんもいたので、現在は看護師がいて安心できる状況で、まずはご自分で注射していただいています。」
1回経験すれば、ほぼ全員の患者さんが使い方を理解され、途中でギブアップしてしまう方もいないそうです。
「〝思っていたよりずっと簡単〞というご意見のほか、〝病院でする筋肉注射よりずっと痛みが少ない〞とおっしゃる方も多いですね。
これまで1人だけ、ご自分で注射することにどうしても抵抗がある方がいらっしゃいましたが、その方も代わりにご主人に注射の仕方をマスターしていただいて、無事に妊娠されました。」
実際に患者さん自身が在宅自己注射をスタートしてから、不安を訴えるケースはないのでしょうか。
「注射によって起こるかもしれないこと、たとえば、注射した後の微量の出血や、注射針を抜いた後に薬液が1滴漏れたように見えることなどを事前に説明していますので、急に慌ててしまうという方はいないようです。
休診日も、当院もグループである池下グループ内のクリニックを介して連絡をとるシステムがありますが、これまで在宅自己注射に関するお問い合わせが来たことはありませんね。
皆さん、問題なく続けられています。」
誰でも簡単にできて、通院のストレスを減らせるなら、ぜひ取り入れたいですね。
「特に、仕事をされている方にはおすすめしたいと思います。
時々、患者さんに〝仕事を辞めたほうがいいですか?〞と聞かれることがあるのですが、私は〝その必要はありません〞とお答えしています。
今まで大切にキャリアを積んでこられたお仕事ですし、治療のほかに集中できることをいくつか持っていたほうが、かえってストレスにならず、バランスがとれると思います。
仕事と不妊治療の両立は大変なこともあると思いますが、在宅自己注射などの便利な方法を取り入れて、少しでも自分をラクにしてあげながら、治療を続けていただきたいですね。」