将来に向けて計画的に受精卵を凍結したい。 それって医学的には難しいことなの? 英ウィメンズクリニックの塩谷先生にお話を伺いました。
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【医師監修】塩谷 雅英 先生 島根医科大学卒業。卒業と同時に京都大学産婦人科に入局。 体外受精チームに所属し、不妊症治療の臨床に取り組みなが ら研究を継続する。1994~2000 年、神戸市立中央市民病 院に勤務し、顕微授精による赤ちゃん誕生に貢献。2000 年 3月、不妊専門クリニック、英ウィメンズクリニックを開院する。 A 型・しし座。今年1月、クリニックが増床によって2 倍の規 模に。電子カルテや自動精算機の導入で、診療がスピーディー になり、待ち時間が大幅に短縮されたことが患者さんにも好評。
ドクターアドバイス
若い時に余裕を持って 妊娠に備えるというのは賢い選択。 当院の体外受精教室でも そうお話ししています
エミさん(会社員・30歳)からの投稿 Q.卵管水腫があり、腹腔鏡下手術で卵管采再建術を受けましたが 再発し、しばらくタイミングで様子をみてから 体外受精へと進む予定です。 子どもは3人欲しいと思っています。そのため、 凍結した受精卵のストックを今後の2 人目、3人目のために 残しておきたいと思うのですが、 これは医学的に問題があるでしょうか。 今の年齢での受精卵のほうが、将来また採卵して妊娠するより 妊娠の確率が高いのではないかと単純に考えての発想です。 とてもバカなお願いかもしれなくて、 主治医の先生にも聞けません……。
先生からアドバイス !
●若い時に余裕を持って妊娠に備えるのは賢い選択
●卵管水腫は卵管病変の最終地点
●体外受精の前の卵管鏡下卵管形成術も選択肢に
受精卵の凍結は有効
将来の妊娠のために受精卵を凍結しておきたいということですが、先生のお考えはいかがですか。
塩谷先生 初回の体外受精で受精卵を多めに凍結しておいて、2人目、3人目を望むことはとてもよいことだと思います。
若い時に余裕を持って妊娠に備えるというのは賢い選択ですよ。
当院の体外受精教室でも、患者さんにまさにこのお話をしています。
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エミさんは現在 30 歳ですよね。
すると、すぐに妊娠したとしても出産は 31 歳。
たとえばですが、 32 歳は授乳や育児に追われ、2人目は早くて 35 歳、3人目の出産は 36 歳くらいになっているかもしれません。
35 歳を過ぎると、胎児の異常のリスクも徐々に高まりますので、 30 歳の時の受精卵があるとそのリスクも減少します。
もちろん、 30 歳の時のほうが、35 歳を過ぎてからの受精卵より妊娠率も高まります。
これは、ここ数年で受精卵を凍結する技術が非常に高まっていることが大きな背景としてありますね。
凍結受精卵は胎児に影響を与えないこともわかっていますし、 13 年間凍結しておいた受精卵で健康児を出産したという報告もあります。
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当院でも凍結して7年後の受精卵で出産された患者さんの例があります。
状況に応じた治療方針
なるほど。むしろ子どもが3人欲しいのであれば、計画的な治療に取り組むべきということでしょうか。
塩谷先生 はい。少し気になるとすれば、この方は身長173㎝、体重80 ㎏でBMIが 26 ・7という点です。
BMIは 20 ~ 24 が正常値で、 25 ~ 29は過体重。
BMIが 25 以上の方は、妊娠するまでの期間が 1.5 ~2倍にな るという報告もありますので、今の体重から8㎏ほど減量しておくのが将来的には理想ですね。
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しかし、エミさんの最大の問題点はやはり卵管水腫です。
子宮卵管造影検査で両側の卵管は閉塞はしていないものの、先端が蕾状となっているとのこと。
これは確かに卵管水腫に特徴的な所見です。
手術で治療されていますが、残念ながら再発しておられます。
右の卵管は水腫になっていないとのこと。
もう少しタイミングをみてはどうかという主治医のご意見はもっともだと思います。
しかし、ここで考えておかねばならない大切なことがあります。
左右の卵管は、たとえるなら"双子の姉妹"のようなものだということです。
左の卵管が残念ながら卵管水腫、すなわち非常に卵管の病変が進んでしまっている状態ならば、右の卵管は水腫にはなっていないものの、やはり左の卵管のように傷んでいると考えねばなりません。
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主治医の先生が「3カ月くらいはタイミングをみて頑張ってみてはどうか」とおっしゃられたと、エミさんの相談内容にありますが、その治療方針の根拠はそこにあると思います。
次は体外受精に進む予定ということですが、先生が「あと2年くらい頑張りましょう」と言われなかったのはそういうことでしょう。
卵管の問題は、簡単ではない
今後の治療法としては、やはり体外受精がベストな選択でしょうか。
塩谷先生 もし体外受精ではなく、自然妊娠を強くお望みの方なら、まだ水腫になっていない右卵管に対しては卵管鏡下卵管形成術も選択肢として有効です。
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近年、卵管病変の治療に有効な方法として注目を集めている治療法です。
これは腹腔鏡ではなく、卵管の根元から細いファイバースコープ(卵管鏡)とバルーンを卵管の中に挿入し、進めていき、卵管膨大部あたりまでを中から広げる治療です。
水腫となっている左卵管に対しては、その治療効果は限定的ですが、右卵管で試みる価値はあるでしょう。
卵管の病変は通常、根元、すなわち卵管間質部から始まり、少しずつ進行して、やがては卵管膨大部、卵管采へと広がります。
卵管采の病変が進むと卵管水腫に。
先ほど言ったように、卵管水腫は卵管病変の最終地点と考えねばなりません。
この場合、卵管采だけを治療しても大きな効果を期待できない場合があります。
通常、左卵管が水腫だと、卵管だけを手術したわけですよね。
そうするのが一般的でしょうが、私はその手術に大変疑問を感じます。
根元から詰まってきているのに、最後の病変だけ治しても、治療したことにはなりません。
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これは実際によくあることなのですが、子宮卵管造影検査で、こちらは正常、こちらは詰まっているという方の場合、卵管鏡のカメラで内側から見ると、実は正常なほうが傷んでいることが多い。
不思議ですよね。
人の体にはもともと細菌やウィルスの侵入を防ぐ力があります。
卵管の入口も同じで、それらが入ってくると門を閉じて、これ以上入らないようにするんです。
だから、詰まりを取り除いてやれば卵管の中はきれいというケースは結構多い。
保険適用があり、日帰り可能な手術なので、体外受精の前の治療法として検討してみてもよいと思います。
※卵管水腫:腟から侵入したクラミジア、淋菌、大腸菌などを原因とする卵管の炎症により、いくつかの場所で卵管が閉塞してその間に液体がたまった状態。 卵管采がふさがると、排卵した卵子をキャッチできなくなる。卵管形成術による治療が行われる。