痛い検査の一つとして、挙げられるのが子宮卵管造影検査。 同時に、検査後は妊娠率がアップすることもよく知られています。 醍醐渡辺クリニックの渡辺先生、実際はどうなのでしょうか?
【医師監修】渡辺 浩彦 先生 滋賀医科大学卒業後、京都大学医学部附属病院産婦人科、大津赤 十字病院、済生会茨木病院などを経て、1971年から不妊治療を行っ ている父の病院を継承。不妊治療から分娩まで手がけ、365日24 時間の診療体制をとる。O型・おとめ座。体力を維持するため、今 夏はゴルフに通ったという。「でも、熱中症で死にそうになりました」 。 学生時代にテニスで鍛えた体も、今年の猛暑にはさすがに音を上げ たよう。
ドクターアドバイス
人の噂をあまりうのみにせず、 リラックスして受けましょう。 どうしても不安な時は 静脈麻酔がありますよ。
にぢさん(会社員・26歳)からの投稿 Q.結婚2年目、通院歴半年です。最近、転院しました。 来週、子宮卵管造影の検査を受けます。 どなたかアドバイスいただけますでしょうか。 不安です。やはり痛いですか? 私は2日間通います。 そして、検査後の妊娠率はアップするのでしょうか?
子宮卵管造影にもコツがある
子宮卵管造影検査について「怖い、痛い」という気持ちを持つ人が多いですが、先生が気をつけていらっしゃることはなんでしょう。
渡辺先生 まず、子宮を膨張させないというのが一番。
造影剤の入った注射器の抵抗を指先に感じながら、ゆっくりと注入していくことが重要です。
言葉で言うのは簡単ですが、この微妙な加減が最も難しい。
医師の熟練にも大きく左右される検査だと思います。
それでも卵管に詰まりがあると、やっぱり痛い。
当院の場合は、詰まっていて痛くなるようだったら、途中で中断して〝眠り薬〞で眠ってもらいます。
プロポフォールという静脈麻酔薬を使います。
日帰り手術用で採卵する際にも使うもので、 10 〜 20秒で効いてきます。
眠っている間に圧力をかけて通してみると、軽い詰まりなら取れますよ。
僕は、大学病院に勤務していた駆け出しの頃、不妊治療で子宮卵管造影検査の担当をしていました。
その頃はやはり「痛くて当たり前」と思っていたので、「痛いけど辛抱してくださいよ!」といつも患者さんを励ましていましたが、クリニックを開業して年間500例くらい検査をするようになってからは、コツがわかるようになってきました。
治療と痛みの関係
先生は「痛み」について、日々の診療のなかでどのように考えていらっしゃいますか。
渡辺先生 患者さんにとって、どんな治療も痛みは少ないほうがいいですよね。
少し余談になりますが、当院は産科も併設していますので、早くから麻酔薬を使う無痛分娩に取り組んできました。
10 年以上前、無痛分娩が全国に広がった当時は、まだまだ否定的な意見も多かったです。
「痛みに耐えてこそ母親」なんて、何の根拠もないことを言う人もいたりして。
でも、今では痛みを抑制してリラックスした状態で臨むことができる、楽で安全なお産として日本でも浸透してきています。
ですから、卵管造影の検査も同じ ように、痛さを我慢できない人は麻酔を使うことでリラックスして受けていただいたほうがいい場合がありますね。
緊張と痛みがあると、検査結果にも大きく影響してくるんですよ。
緊張は、検査結果を左右する
痛いだけでなく、検査の結果にも影響が出てしまうのですか?
渡辺先生 はい。痛みと緊張のせいで、誤った結果が出てしまうことがあります。
卵管は細くて繊細な器官なので、実際は通っているのに、緊張によって細くなったり詰まったような状態になったりするのです。
右のレントゲン写真は、当院の同じ患者さんのものですが、あまりにも痛みと緊張が強かったため、検査を中断して次の日にも来てもらい、静脈麻酔で眠ってもらって撮影し直したものです。
白いのが造影剤で、上の前日に撮影したものは卵管に造影剤が流れていませんが、下の翌日撮影したものは卵管を通って造影剤が骨盤内に広がっている。
実はちゃんと両方とも通っていたのです。
同じ患者さんでもこれくらい違うということなんですよ。
熟練ドクターなら痛みを察知
よくわかります。患者さんが痛くなる前に、先生が痛くなりそうとわかるのですか?
渡辺先生 これ以上、圧を加えると痛くなるというのはわかりますね。
当院では油性の造影剤を使っていて、造影剤が卵管から出てくる様子をモニターで見ながら行っているため、モニターと指先の感覚でだいたいわかります。
当院には転院されてくる方も多い のですが、以前に子宮卵管造影検査をしたことのある患者さんにも、年数が経過している場合は特に「もう1回やりましょう」とおすすめしています。
ところが「怖いから嫌だ」とおっしゃる方が非常に多い。
前に受けた時によっぽど痛かったのでしょうね。
ですから、恐怖心が強い人は最初から麻酔を使用します。
手術ではなく、検査時の麻酔は保険適用外ですので、実費で三千円ほどかかりますが、こちらが必要だと判断したらすすめています。
痛いという先入観
痛みと緊張や恐怖心というのは密接に関係しているのですね。
渡辺先生 そう。それに情報をいろいろなところで見たり聞いたりすると、倍くらいの痛みを感じてしまうことがあると思いますよ。
死ぬほど痛かったとか、転げまわったとか、息が止まりそうになったとか……。
そういうコメントを見て来られる場合はもうダメですね。
ほら、お化け屋敷がいい例です。
怖い怖いという先入観を与えられたら、上からコンニャクが落ちてきただけでも怖くなってしまうじゃないですか。
熟練した医師が行えば、本来はそれほど痛い検査ではないはずですし、患者さんは頑張って痛みに耐える必要もありません。
でも卵管が詰まっていて痛い時は、麻酔を使って行ってもらうといいでしょうね。
子宮卵管造影検査を受けた後の数ヶ月は、妊娠率がアップすることもよく知られています。
軽い詰まりが治って、そのまますぐに妊娠できるケースが多いのです。
重要な検査ですので、あまり先入観を持たずにリラックスして受けてもらえると嬉しいですね。