【医師監修】塩谷 雅英 先生 島根医科大学卒業。卒業と同時に京都大学産婦人科に入局。体外受精 チームに所属し、不妊症治療の臨床に取り組みながら研究を継続する。 1994~2000年、神戸市立中央市民病院に勤務し、顕微授精による赤 ちゃん誕生に貢献。2000年3月、不妊専門クリニック、英ウィメンズク リニックを開院する。A型・しし座。今春より、心と体の両面から治療を サポートする統合医療のコーディネート部門がスタート。鍼灸、アロマテ ラピー、心理カウンセリング、ヨガ、スマイルビクスなど、患者さん一人ひ とりに合わせたカウンセリングやエクササイズメニューを提案している。
ウッドベッカーさん(28歳)からの投稿 Q.無精子症の男性不妊です。精巣精子採取手術で精子は見つかり ませんでしたが、後期精子細胞が見つかり、凍結保存。日本で は後期精子細胞を使った顕微授精は、倫理的な問題上、禁止 されていると担当医から聞かされましたが、後期精子細胞が見 つかってしまった以上、このまま治療を諦めきれません。実際 のところ、安全性はどの程度まで確立されているのでしょうか。 産婦人科ではセカンドオピニオンをすすめられました。
無精子症の際の選択肢
後期精子細胞が見つかったので、治療を諦めきれないとのこと。
塩谷先生 悩み深い状況ですが、この方には4つの選択肢があると思います。
1つ目は子どもを得ることを断念する。2つ目は何らかの方法で養子を得ることを考える。3つ目は ※AID、つまり非配偶者間の人工授精により妊娠する。
そして、4つ目の選択肢として、今回、ご相談にあるように、精子はいないけれど、精子になる一歩手前の精子細胞を用いた顕微授精を行う治療があります。
学会の見解
3つ目と4つ目に関しては、日本ではまだ一般的に行われている治療ではありませんね。
塩谷先生 特に4つ目ですね。後期精子細胞は、授精そのものは精子と変わりがないと考えられます。
しかし、平成9年には、日本産科婦人科学会が会告として、「精子細胞を用いた顕微授精治療は、その安全性および確実性の点からも現時点での臨床応用は時期尚早と考えられる」としています。
また平成7年には、日本生殖医学会が倫理委員会報告で、「ヒト円形精子細胞の臨床応用には基礎的な研究が不足していることから、我が国における臨床応用に慎重であることを希望する」としています。
主治医の先生が倫理的問題から禁止されているとおっしゃったのは、この会告や倫理委員会の報告を踏まえてのことと思われます。
ただ、いずれも 10 年以上前のもので、はっきり「禁止」と書いてあるわけではありません。
特に日本生殖医学会の倫理委員会報告は、円形精子細胞についてのコメントであり、後期精子細胞については言及していない。
この 10 年の間には、動物実験での安全性が確かめられつつあり、実際に日本国内でも後期精子細胞を使用した顕微授精で、100名以上の赤ちゃんの妊娠・出産が報告されています。
現時点では特別な危険性は認知されていません。
実績のある施設を探そう
すでに国内のクリニックで多くの実績があるということなのですね。
塩谷先生 そうです。実際、後期精子細胞が見つかったこの方はラッキーです。
それが見つからないという方もいらっしゃいますから。
これらを考慮すると、後期精子細胞を使用した治療法を選択肢に入れる余地は大いにあると思います。
ただし、まだ確立した治療法ではないことを十分に理解し、そのリスクについても納得したうえで治療を受けなければなりません。
特に治療を受ける際には、実績のある施設を慎重に選択する必要があるでしょう。