「もしかして不妊症では!?」と思って婦人科を受診する場合、 どういった順序で検査や治療が進んでいくのでしょうか。 セントマザー産婦人科医院の田中温先生にお聞きしました。
【医師監修】田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医長時代、 診療後ならという条件付きで不妊治療の研究を許され る。度重なる研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985 年、ついに日本初のギフト法による男児が誕生。1990 年、セントマザー産婦人科医院開院。日本受精着床学 会副理事長。2009年度よりJISARTの理事長に就任。 毎日多忙ななかでも時間を見つけて、患者さんからのメー ルや手紙などの質問には必ずすべて答えているそう。全 国からセカンドオピニオンを求める方も多いそうです。
ドクターアドバイス
患者さんもしっかりと 不妊治療の知識をつけること。 知識のある人ほど 妊娠しやすいと思います。
さとこさん(主婦&パート・年齢秘密)からの投稿 Q.結婚2年が過ぎ、不妊症ではないかと思い、病院に通っています。 先生は「まず、精液検査、基礎体温、卵管の検査の三大検査をします。 そこで異常がなければ、2年くらい待ってもいいんじゃないかな」とおっしゃいますが、 本当にそうなのでしょうか? 2年後また違う検査をされて、治療が必要になったり しませんか? 30歳を過ぎてからでも遅くはないのでしょうが……。 先生に対しても少し不信感があります。転院したほうがいいでしょうか。
不妊症治療の三大検査
先生の病院では、初診時はどんな検査をしていますか? また、治療はどのようなステップで進んでいくのでしょうか。やはり、さとこさんの言われた三大検査からになりますか?
田中先生 まず、女性に関しては、きちんと月経があるかどうか。これは問診するか、基礎体温を見て判断します。
基礎体温は必要ないという病院もありますが、女性が自分の体やその変調を管理するという意味でも、基礎体温はつけたほうがいいと思います。
月経がいつだったかなど、意外と覚えていないものなんですよ。思ったより、自分の体に対して無頓着な人が多い。
ですから、自分の体のことを知って管理するためにもつけたほうがいい。
次に、卵管が通っているかどうか。
これは、とても重要なことですので、〝 ※ 子宮卵管造影検査〞は必ず受けたほうがいいでしょう。
卵管に関しては、 ※通気検査や通水検査、超音波検査がありますが、レントゲンの検査が一番正確な情報が得られるので、卵管造影検査というのを受けることをおすすめします。
ただし、この検査はレントゲンの設備がある所でしかできないので、その設備がない所では卵管造影検査のみ他院で、という可能性もあります。
そして、男性の〝精液検査〞。
これは、できれば病院で採取して検査するほうがいいですね。
家から持ってきたもので検査する場合もありますが、精子は 30 分ほど経つと動きが悪くなるので、もともと悪かったのか時間が経ったからなのかがわからない。
ですから、なるべく病院で採ることをおすすめします。
以上の3つは必ず行うので、三大検査と呼んでもいいでしょうね。
検査は、いつ受ける?
この他にも、早い段階でしておいたほうがいい検査はありますか?
田中先生 超音波で、子宮の大きさ、子宮の内膜、卵巣の中の胞状卵胞などをみてもらうことも大切ですね。
逆に言うと、それができる病院に行くことが大切です。
さとこさんのように、医師からあまり詳しい説明がなく、信頼できないと思われるのなら、転院を考えられてもいいと思いますよ。
さとこさんは 30 歳になられていないので、2年ほど待ってみたらと言われたようです。若い人でも早めに検査を受けたほうがいいですか?
田中先生 結婚して子どもが欲しいと思うのは自然なことですから、検査だけでも受けたらいいんじゃないかな。
確かに、 30 歳未満なら焦らなくてもいいかもしれないけど、 30 歳を過ぎたらなるべく早く検査を受けたほうがいいでしょうね。
30 歳未満で、基礎体温も規則正しく、卵管も通っていて、子宮の形もよく、精子の数もよければ、2年ぐらい待って
もいいのでは、ということにはなるかもしれませんね。
もいいのでは、ということにはなるかもしれませんね。
三大検査の後は?
この三大検査をしてはじめて、次にどんなステップに進むかを考えていくのですか?
田中先生 そうですね。まず、この3つの検査は必ずします。当院では、初診ですべての検査を受けてもらうようにしています。早いうちにいろいろなことがわかったほうがいいですからね。
腹腔鏡検査というのは、卵管の外側の癒着を調べる検査です。たとえば、最初の三大検査で問題がなく、半年くらいタイミング療法や人工授精をしても妊娠しない場合も、この検査をするようにしています。
しっかりと原因を知って、治療に進むほうがいいですから。
なかには、いろいろな検査をしないまま体外受精をすすめる病院もあります。
病院によって方針はさまざまですからね。
ただ私としては、三大検査もせずに体外受精をすすめるような病院は疑問に思います。
病院の選び方
ジネコにも、どう病院選びをしたらいいのか? という質問がよくあります。
田中先生 診察していて時々思うのは、患者さんももう少し勉強したほうがいいんじゃないかな、ということ。
もちろん個人差はありますが、情報をたくさん持っている人のほうが早く妊娠するようです。
当院では、最初に患者さんに不妊治療のDVDを渡しますが、ちゃんと見て理解している方は、治療もしやすい。
意識の高い人のほうが妊娠しやすいのは、納得できます。
ですから、もっと患者さんも知識を身につけて、医師にたくさん質問してほしいですね。
よく「質問すると怒られるのがイヤで」などと言われますが、質問して怒るような医師なら転院を考えたほうがいい。
医師が怒るのは、きっと答えられないからなんじゃないかな。いい医師なら、「今はわからないけど次回までに調
べておきます」と答えるはず。
べておきます」と答えるはず。
患者さんから質問されて怒る医師というのは、ちょっと考えものだと思います。
こういったことも病院選びの一つの基準になるのではないでしょうか。
※子宮卵管造影検査:造影剤と呼ばれる検査薬を子宮腔から卵管へと注入し、造影剤の流れをレントゲンで観察・撮影して、卵管と子宮 の異常がないかを調べる検査。
※通気検査・通水検査:子宮卵管造影検査では造影剤を使用するが、通気検査では造影剤の代わりに炭 酸ガス(二酸化炭素)、通水検査では生理食塩水を注入し、卵管の通過性をみる検査。
※子宮内膜症:子宮内膜に類似した組織が骨盤内の臓器、たとえば卵巣や卵管、ダグラス窩などで増殖し、出血したり炎症を起こしたりするもの。
※腹膜炎: 腹膜の炎症。細菌感染やがんなどの他の疾患によるものがある。女性では子宮内膜炎や卵管炎、また流産や分娩などをきっかけに発症する骨盤腹膜炎がある。