精液検査の結果があまりよくなかった場合、 人工授精をすれば精子の質はよくなるのでしょうか。 吉田レディースクリニックの吉田先生に伺いました。
【医師監修】吉田 仁秋 先生 獨協医科大学卒業。東北大学医学部産婦人科学教室入局、不妊・ 体外受精チーム研究室へ。米国マイアミ大学留学後、竹田総合 病院産婦人科部長、東北公済病院医長を経て、吉田レディースク リニック開設。2年前より産科・婦人科と施設を分け、不妊治療 専門の生殖医療IVFセンターを設立。「患者さんとともに喜びを わかち合っていきたい」というスタンスを常に大切にしている吉田 先生。その気持ちは、リラックスできるインテリアや、スタッフの 細やかな心遣いなど、院内の随所に表れている。O型・おとめ座。
ドクターアドバイス
人工授精は、 精子の質を上げるのではなく よい精子を抽出する方法です。
こずさん(会社員・30歳)からの投稿 Q. 精液検査をしたところ、正常範囲ぎりぎりでした。一番低い数値は 高速直進率で、25%が正常値といわれているのに結果は18.2%。 ※ ヒュナーテストでは多くの精子が元気よく泳いでいて 相性もいいと言われたのですが、やはり早く泳いでいく精子が 少ないかぎりダメなのでしょうか。人工授精は精子の質を上げると 聞きますが、トライすれば高速直進率も上がるのでしょうか?
精子検査、高速直進率
精液検査の結果、精子の高速直進率が 18 ・2%ということですが、先生はこの数値をどう思われますか?
吉田先生 確かに正常値よりは少し下回っていますが、極端に低いわけではないと思います。もしこれが初めての精液検査ということであれば、そのときのご主人の体調があまりよくなかったということも考えられます。1回でははっきりとした診断はできませんので、あと2、3回調べていただく必要があるかと思います。
高速直進率というのは、精子のよしあしを判断するために重要な要素なのでしょうか。
吉田先生 精子に異常がないかどうかは、高速直進率だけではなく、その他いくつかの要素を総合的にみて判断します。私のクリニックではSQAというコンピューターを使って、精子濃度や運動率、正常形態率、高速運動精子、精液量などの数値を調べています。
そのなかにはSMIといって、通常の精液検査ではなかなか判断できにくい精子の受精能力を調べる検査も。
卵子は顆粒膜や透明帯という膜に守られているのですが、精子はそれらを溶かして卵子の中に入り込んで受精をします。その能力があるかどうかということも、コンピューターのアナライザーで簡易的に調べることができるんですね。
精子保険を改善させる方法
高速直進率をはじめ、精子の状態が悪かった場合、それらをよくする治療法はありますか?
吉田先生 運動率を改善したり、精子の量を増やすために、薬やビタミン剤、漢方薬などを飲んでいただくこともありますが、あまり劇的な効果は望めないんですね。なかには多少改善が見られる方もいらっしゃるので、そこは試してみないとわからない部分があります。
ということはやはり、こずさんが考えているように人工授精に挑戦して、精子の質がよくなることを期待したほうがいいのでしょうか。
吉田先生 もしかしたらこずさんは誤解されているかもしれませんが、人工授精というのは精子の質を上げるためのものではありません。運動率や高速直進率が悪い精子が改善されるということではなく、いくつかの精子の中から元気のいい良好な精子だけを抽出するという方法なんです。
悪いものが取り除かれるわけですから、当然、高速直進率も上がりますよね。よって、受精できるチャンスも増えていくということです。
精子所見が良くない時の対処法
では、こずさんはこのまま人工授精にステップアップされるのがベストということですか?
吉田先生 今すぐということではなく、再度精液検査をされてみることをおすすめします。また、ヒュナーテストの結果が不良であれば、子宮の入口のところで精子がたまってしまいますので人工授精の適応を考えなければいけないのですが、こずさんの場合は良好とのことですから、精液検査を受けつつ、あと何回かタイミング法を続けて様子をみてもよいのではないでしょうか。
検査の結果が出ると、どうしてもその数字に振り回されて、心配してしまう方が多いようですが……。
吉田先生 そうですね。正常値がすべてと思われている方も多いようです。でも、それが絶対ではなく、数値はそのときの体調などによって変わってくることがありますし、たとえあまりよくなかったとしても、対処法はいろいろあると思います。
正しい知識を身につけよう
前向きに治療をしていくためには正しい知識が必要ですね。
吉田先生 私のクリニックでは、これから不妊治療を受けていく方に向けて、不妊学級という講座を実施しています。不妊症の原因や検査、一般不妊治療の流れ、日常生活で気をつけていただきたいことなどについて、詳しくお話ししています。
ご夫婦で参加できるのですか?
吉田先生はい。なるべくご夫婦で参加していただきたいと思っています。赤ちゃんは夫婦二人でないとできないもの。どちらが不妊の原因で、どちらが悪いというものではないと思うんですね。治療を順調に進めてよい結果を出すためには、二人で協力し合うことが大切。
私はまず、それを理解していただくことが重要だと考えています。