「いい卵」を育てるためには 夫婦そろって情報共有を
「いい卵を育てる」とよく言われますが「いい卵」とは、どんな状態でしょうか。
浅田 私の仕事は「いかにしていい卵をつくるか」ということに集約されます。
いかに残っているいい卵をいい成熟卵の状態で採卵し、負荷をかけずにいい受精卵にして子宮へ戻すか。
排卵誘発というのはドクターの実力が一番出るところだと思います。
卵巣予備能力が高いということは、もともと卵巣にいい卵が残っている状態。
この残っているものをいい状態の成熟卵で採卵しなければいけませんよね?
実はこれが排卵誘発なんですよ!
いい成熟卵を採卵するのが専門医の実力なら、その採卵した卵をいい状態の受精卵にするのがラボの実力です。
そのうえで、やっと本当に「いい卵」という言葉が出てくるのです。
だからこそ、医療者には安易に「あなたはいい卵が採れませんでした」と言ってほしくないですね。
なるほど、「いい卵」とはいろいろな意味で重みのある言葉だったのですね。
林 しかし 40 歳を超えると、どうしても卵巣予備能力などに限界があります。
そして、そういうことをまったく知らずに治療に来ている方が本当に多いのです。
治療法を選択するにも知識が必要で、その知識が共有されたところで選んでいただかないと意味がない。
「なんでもいいから選んで」とも「これしかない」とも言えません。
「ほかにもこういう方法もありますよ」という選択肢を提示しながら、なおかつドクターがどう思っているかの重みづけをしたうえで、選んでいただく環境が理想です。
当院では、初めての受診の際にお渡しする診療システムの説明書および同意書を作ってから、「聞いていません」というトラブルが減りました。
浅田 私は、初診前の説明会で、当院の基本的なステップアップの方針に同意するという趣旨の書類にサインしてもらっています。
ステップアップの話もそうですが、同意書というのは、少なくとも夫婦二人で答えるわけでしょう。
そこに会話や話し合いも生まれますから。
林 医師の診察だけでは時間も足りないので、看護師やカウンセラーを交えた説明補完も役に立つと思います。
そういった場で患者さん自身も自分で話すと、情報の整理がついて納得されることが多いのではないでしょうか。
将来の母親たちにも 卵の大切さを伝えたい
排卵誘発に限らず、不妊治療では患者さが治療について詳しく知ることがとても大切ですね。最後に、患者さんに診療前に知っておいてほしいことは、どのようなことでしょうか。
浅田 やはり、どうしても年齢のことになってしまいますね。
皆さん、年齢が高くなる妊娠が難しくなるのでは、ということはなんとなくはわかっているけれど、本質的な理由は知らないんです。
だから「できるだけ自然がいい」なんて言っている。
「問題は卵なんだよ!」と、ビシッと言われて初めてわかるんですね。
林 また、ご主人の基本的な知識が足りないことも多いですね。
女性の年齢や卵巣予備能力についてあまり理解していなくて、「将来子どもは欲しいけれど今はいい」という方も。
その将来って、一体いつなの?という話ですよね。
子どもができなくてもいいのであれば、そういうゆっくりした考え方でもいいでしょうが、たとえば奥さんの年齢が 30 代後半で、あと2~3年経ってからでいい……と考えているとしたら、それは間違っていると思いますよ。
浅田 今、不妊治療に訪れている 30 代の方というのは、世代的には就職氷河期を経験した人たちです。
不況の影響で就職も結婚遅れているケースがあり、出産の時期も遅れているという気がします。
一方、バブル崩壊前に就職している 40 代は、男女雇用均等法の世代。
結婚より仕事や遊びを優先してきて、やはり必然的に出産の時期が遅くなっているという方が多いです。
このように、不妊治療には社会状況が大きく反映されていると私は感じています。
これからも治療を受ける人の年齢は上がっていくでしょう。
林 私は今、地域の小学校や大学に依頼されて、性教育について話す機会が多いのですが、性のしくみや避妊についての説明と同じくらい、「妊娠教育」が必要だと思っています。
卵巣は、卵子を保存するところ。
卵子は今あなたが持っているものしかなくて、新しくつくることはできない。
そして加齢とともに、その数はどんどん減っていくんだよ、ということを知らせないと。
女性は、人生設計に卵のことをぜひ組み込んでおくべきです。
妊娠や出産には期限があるのだということを、ハッキリと認識しておいてほしいですね。
浅田 そうですよね。男性と女性は平等で人権は同じだけれど、生殖に関しては、男性には男性の、女性には女性の役割がある。
それをもっと社会全体で啓蒙していく必要があると思いますね。
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