子宮筋腫の手術前と 手術後、貯卵するなら いつがいいですか?

相談者 :とかとかさん(40歳)
▶︎子宮筋腫の手術予定。手術のタイミングは?
現在40 歳。治療を始めて半年ほど。これから子宮筋腫の手術を予定しています。今まで採卵は2回。1回目は39歳の時で、3個卵子が採れ、胚盤胞を1個凍結しました。2回目は40 歳の時で、7個卵子が採れたのですが、胚盤胞になったものが1つもなく凍結できませんでした。なので、手術前か後で採卵して貯卵をしたいと考えていますが、どちらのタイミングがいいでしょうか。手術前の2カ月間と手術当月は採卵NG ですが、それ以外の期間であれば、可能のようです。
【医師監修】高崎ARTクリニック 吉田 敬三 先生
日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医学会生殖専門医。母体保護法指定医。東京大学経済学部卒業後、食品メーカーに勤務。「もっとみんなに喜んでもらえる仕事をしたい」と考え、45 歳の時に信州大学医学部入学。卒業後、高崎ART クリニック、操レディスホスピタルなどを経て、2024 年、再び高崎ART クリニックに戻り院長に就任。ソムリエの資格も持つ。

子宮筋腫の手術の前と後で貯卵の時期を悩んでいるそうです。

吉田先生●とかとかさんの今までの採卵の経過を見てみると、刺激法は不明ですが、39歳の時に行った1回目の採卵では卵子が3個採れ1個が胚盤胞になっています。そして40歳の時の2回目の採卵では卵子が7個採れましたが、残念ながら胚盤胞には1個もなりませんでした。ご自身では「受精卵がなかなか育たない…」と、不安に思っているかもしれませんが、とかとかさんの年齢であればよくあるケースで、深刻にならなくても大丈夫です。ただ、一般的に年齢が若い時に採った卵子のほうが質は良く、妊娠しやすい傾向にあるので、手術前の採卵のほうが手術後の採卵よりも少なくとも3~4カ月は若い卵子が採れるので、手術前に採卵するのが望ましいと考えます。

手術後に採卵したほうがいいケースもあるのでしょうか?

吉田先生●筋腫のある位置や大きさによっては、手術後に採卵したほうがいい場合もあります。子宮筋腫は発生する場所によって、子宮の筋肉内にできて大きくなる筋層内筋腫、子宮の外側に向かって大きくなる漿膜下筋腫、子宮の内腔に向かって大きくなる粘膜下筋腫の3つに分類されます。このうち筋層内筋腫や漿膜下筋腫は、その大きさや位置によっては、卵巣に行く血液が流れる血管を圧迫して卵巣への血行を悪化させます。すると、卵巣に栄養や卵子の成長、成熟をうながすホルモンが十分に届かず卵子の成長や質が悪くなることがあります。また採卵は通常、腟から細い針を卵胞に刺して行いますが、筋腫の圧迫により卵巣が正常位置からはずれると、卵胞全部が採卵できないことや、お腹から採卵するといったことがあります。こういったケースでは、手術で筋腫をとってから採卵するほうがいいと考えられます。

自分の筋腫がどの部位にできているかはどうやってわかりますか?

吉田先生●エコー検査でどの部位にできているかを確認できます。
一般に筋腫は、「採卵」よりも、「移植」をする時に問題となるケースが多く見られます。漿膜下筋腫が着床・妊娠の妨げになることは、あまりありませんが、筋層内筋腫や粘膜下筋腫の圧迫で子宮内の胚が着床する部位が変形すると、着床・妊娠の妨げになることがあります。また、筋腫の存在が子宮の蠕動運動を障害することや、子宮筋層内の血管を圧迫し子宮内膜への血流が悪くなることなどで、着床・妊娠を妨げることがあります。このような場合は、手術をすることによって着床・妊娠が改善する可能性があります。
子宮筋腫の手術は、漿膜下筋腫と筋層内筋腫の場合は、お腹に小さな穴をあけて行う腹腔鏡下手術が行われることが多いです。一方、粘膜下筋腫は、子宮の入口から内視鏡を入れて行う子宮鏡下手術になります。いずれも1~4日程度の入院が必要です。採卵は手術後1カ月程度経てば可能に、移植は手術後3~6カ月程度経てば可能となります。

筋腫があったら必ず手術したほうがいいのでしょうか。

吉田先生●「子宮筋腫がある=必ず手術をしなければいけない」というわけではありません。子宮筋腫は20~30%程度の方に見られる良性腫瘍で、手術をしないで妊娠、出産される方がほとんどです。ただ、上記のような、採卵の妨げになる、移植に悪影響を与える可能性が高いと考えられる場合は、手術をしたほうが妊娠する可能性は高くなります。

とかとかさんは1回目に採卵した際の凍結胚盤胞を1個もっています。通常だと前回までの凍結胚を使いきらないと保険診療での採卵はできないので、今回のようなケースで貯卵する場合は自費になりますか?

吉田先生●一般的に、保険診療では、貯卵はできませんが、子宮筋腫の手術は術前のホルモン療法から術後の避妊期間まで入れると期間が長く、卵巣機能が低下するおそれがあり、症例によっては、医師の判断で術前の採卵が可能と考えます。とかとかさんの場合も主治医の方との相談になるかと思います。

とかとかさんに今後のアドバイスをお願いします。

吉田先生●とかとかさんは40歳ですがAMHの数値が2ng/mlと卵巣予備能が高く、まだまだ妊娠できるチャンスは大いにあると思います
それでも採卵は、1カ月でも早く採卵したほうが、質の良い卵子を得られる可能性が高いので、手術前の採卵をおすすめします。また、2回目の採卵では、7個の卵子が採卵できましたが、胚盤胞には到達しなかったとのことですので、採卵の刺激方法を変えてみてもいいかと思います。また採卵だけではなく受精方法や精子の選別方法等についても検討の余地があると考えますので、主治医に相談しながら、採卵計画を立ててみてくださいね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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