▶︎奇形精子による顕微授精の可能性と子への影響
精液検査、AZF 検査を受けて無精子症と診断され、精巣内精子採取術（TESE）を実施。TESE 手術で採れた５個の精子がすべて奇形精子でした。まだ病院を受診していないので今のところわかりませんが、奇形精子と聞いて不安があります。顕微授精までいけるのでしょうか。奇形精子でも妊娠・出産できるのでしょうか。また、子どもができたとしても、やはり障害をもって生まれるのでしょうか？
慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。日本生殖医学会生殖医療専門医。男性不妊症・一般泌尿器科を専門とし、東京歯科大学市川総合病院、国立成育医療センターなどでの勤務を経て、現在、荻窪病院で泌尿器科男性不妊診療担当医として勤務。
クロミさんのご主人はどのようなタイプの無精子症なのでしょうか。
大橋先生●無精子症には大きく分けて閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症の２つがあります。前者は精巣で精子はつくられているけれど精子を運ぶ輸送路が詰まっているというもの。造精機能もホルモンの値も正常なので、睾丸を少し切って採取すれば、ほぼ９割方精子が、それも量的に多く採れることが多いですね。
一方、非閉塞性無精子症は精巣内で精子がほとんどつくられていません。造精機能が非常に悪く、ホルモンのバランスも崩れています。外見の特徴として睾丸のサイズが非常に小さく、触るとハリがなくブヨブヨした感じの方が多いようです。
クロミさんのご主人はＴＥＳＥをしても５個だけ、それも正常ではない形の精子しか採れなかったということから、非閉塞性無精子症だと考えられます。もともと精巣内にわずかの精子しか存在していないのではないでしょうか。
もう片方の睾丸からも採取することは可能ですか？
大橋先生●片方の睾丸から採れなくて、同日にもう片方も切開するということを患者さんにオファーすることもあります。その場合、精子が採れる確率は７％前後といわれています。13例に１例くらいの割合ですね。そもそもＴＥＳＥは睾丸を開き、顕微鏡を使って精子がいそうな細胞を探して採取する施術。その際、男性ホルモンをつくる細胞も一緒に採ってしまうので、術後、男性ホルモンの値が低くなってＥＤなどの弊害が出ることも。切除する部分が多くなれば痛みも増大する。ですから、医療側は最低限の組織を採って最大限の効果が得られるように治療をしています。
奇形精子しかない場合、顕微授精をすることは可能でしょうか。また、妊娠した場合、精子が奇形だと赤ちゃんにも影響が出ますか？
大橋先生●施設によると思いますが、胚培養士ができると判断したら可能だと思います。受精卵になる確率は低いと思いますが、やってみるしかないですね。
子どもに障害が出るかどうかですが、これについては何ともいえません。前提として、遺伝子的に劣悪な精子を卵子に入れても受精卵にならないのではないかと思われます。妊娠前の過程で自然淘汰される可能性が高いでしょう。妊娠・出産した場合の子どもの奇形率と奇形精子の因果関係については、まだはっきりわかっていません。
