【Q&A】胚盤胞3回移植でも陰性。原因は?~木下先生【医師監修】

平井さん(40歳)

今まで保険適用内で凍結融解胚移植(胚盤胞 )をSEET法、アシステッドハッチングをした上で3回しましたが全て着床しませんでした。着床しない原因は何が考えられるでしょうか?TRIO検査をしましたが異常はありませんでした。ビタミンD、亜鉛、葉酸のサプリは飲んでいます。
次回からは保険適用外の移植になりますが、移植前にした方がいいと思われる検査や体質改善法を教えてください。
また、鍼灸は効果があるでしょうか?
現在、胚移植をしていますが、また排卵をする可能性があります。
主人のことですが、毎日入浴の時、39°Cの湯船を20分つかると精子によくないでしょうか?

原因は胚側にある可能性があるということですが、4回目の移植前に胚を攻撃する菌がいるか、子宮筋腫があるか否かの検査もあると言われました。
胚を攻撃する菌がいるかというのはALICEと違う検査のようですが、わかりやすく教えてください。
また、子宮筋腫は通水検査をする時に見られなかったようですが、これもした方が良いでしょうか?

京都IVFクリニックの木下 孝一 先生にお話を伺いました

【医師監修】木下レディースクリニック/京都IVFクリニック木下 孝一 先生

藤田保健衛生大学、東京歯科大学市川総合病院を経て、浅田レディースクリニックの副院長として従事。2019年、故郷の滋賀で最新の不妊治療を提供するべく木下レディースクリニックを、2021年には京都IVFクリニックを開院。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

●これまでに3回の良好胚の胚盤胞移植を試みたものの、いずれも着床しなかった原因について、何が考えられますか?

最も可能性が高いのはやはり受精卵側の影響だと考えられます。
日本から報告された着床前検査結果で示すと、40歳で良好胚盤胞になった中で正常な染色体数を持つものは約20%です。
(Takeshi Iwasaら. Reproductive Medicine and Biology Volume 22,Aplil,2023)

今のご年齢、移植回数で考えるとすると、原因となる優先順位としてはまずは受精卵側の影響となるでしょう。もちろん100%が受精卵の影響となるわけではないので、それ以外の要因も調べられるといいと思います。

●鍼灸に効果はあるでしょうか?

当院では希望のある方には問題なく、不妊治療に併用して頂いております。
「効果がある?」という言葉を「高いエビデンスがあるのでしょうか?」という質問に置き換えるのであれば、鍼灸の先生を含めて女性年齢、胚グレード、PGT-A実施有無など背景を前向きにデザインして、鍼灸する群、鍼灸しない群を作りランダムに割り付け、評価していく必要があると思います。しかし、日本ではまだその様な鍼灸施設複数・IVF施設他複数での複数施設合同の前向き研究を私は認識しておりません。

●平井さんのご主人が毎日 39℃の湯船に20分間つかる習慣について、精子への影響はどの程度考えられますか?
また、精子の健康を考慮した場合、適切な入浴時間は何分が良いとされていますか?

論文ベースで言うと、結果をよく引用されているのは、週に30分のジャグジー、お風呂に浸かるという、体温が上がる行動をもつ男性においてお風呂に浸かることを控えると改善があったというものです。

まだまだ検討されている人数は少ないですし、何分が適正という検討などは今のところ不明です。

参考論文
2007 Mar-Apr;33(2):269-70.
Shefiら. Int Braz J Urol 2007
Andrea Garollaら. Hum Reprod, Vol.28, No.4 pp. 877–885, 2013

●胚を攻撃する可能性のある菌とはどのようなものですか?

EMMA/ALICEや免疫細胞での話ではないと言うことなので、この質問はどういった意味での会話だったのか背景がわからないと、なかなか的確なお話は難しいです。

ですがせっかくの相談の場なので現在のEMMA/ALICE後のトピックとして、EMMA/ALICE検査後に正常だったが、外因性の菌からのバリア機能が弱まるケースがありそう。という部分が話題なのでその話をしておきます。

L inersについて

腟で見つかる Lactobacillus は約20種存在し、同じLactobacillus属であっても種によって異なる特徴を有することが明らかになりつつあります。2016 年に Moreno らがIVF患者に対する研究で、子宮内のLactobacillus 属が優位な群(≧90%)は着床率および妊娠率が高くなると報告して以降、子宮内細菌叢と着床、妊娠との関係について注目が集まってきました。

現在では、子宮内に存在する Lactobacillusが着床に与える影響を菌種レベルで検討する時期となってきています。

その中でL inersでは多くの報告で明らかに着床率が下がった。
流産早産との関係性が出される様になリました。
Fettweis,J.Met al.Nat Med.225:1012-1012,2019.
Baud,A,et al.Sci Rep.13:12449,2023.

それを受けて、現在のEMMA検査においては菌種内容、比率が詳細に記載される様になっている会社もあります。

L.iners が優勢の場合に着床率が下がる原因は未だ不明です。
しかし、L.iners の特徴として、乳酸の産生量が低いこと。細胞障害性を有する毒素である inerolysinを生成すること。
L.iners はL.crispatusと異なり、D-乳酸を合成することができず、L-乳酸しか生産することしかできないと言われます。
D乳酸は外因性の細菌に対してL-乳酸よりも高い抗菌活性を有するとされます。
このような特徴が子宮環境に影響している可能性が考えられる様になりました。

●平井さんの状況を考慮に入れた上で、4回目の移植に向けて先生でしたらどのような検査や方法を推奨されますか?

保険か自費か、複数の胚盤胞が確保できる状況であるかどうかで選択肢が変わるのかと思います。もし自費診療が可能であるのであれば、着床前検査は選択肢のひとつになると思います。

受精方法、異常分裂の有無、グレード含め今までの詳細が分かりませんが、保険診療+先進医療での選択なのであれば、移植環境の選択肢としてホルモン補充周期、修正自然周期など環境を変えるのもひとつです。
移植内容としてSEET、二段階胚移植、胚盤胞2個移植は選択肢となります。

着床環境をすごく不安に思われている方の場合は、付加採血検査として、銅亜鉛検査、VitD、Th1/2検査、ネオセルフ抗体検査などを希望される方もおられます。

とても大切な時期だと思いますので、どこまで検査治療を選択するのかを含め、今までの受精卵の発育状況を再確認し、担当する医師としっかりと話し合うことが大切だと思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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