もーさん(32歳)
卵管切除後は卵巣への血流が悪くなり卵巣機能低下があると聞きます。主治医からは「左卵管の水腫がある部分のみ切除し、なるべく血流が下がらないようにする」と言われました。また、AMHもそこまで低くないとのことでした。
しかし卵管切除後に体外受精が始まっていざ採卵するときに全然卵が採れない、などということにならないか不安です。
採卵してから手術の方が良いか、先に左卵管切除し、チョコ嚢胞の吸い取りもして子宮の様子も見てもらい落ち着いてから体外受精をスタートさせる方がいいか、迷っています。
【医師監修】さっぽろARTクリニックn24 藤本 尚先生
日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医、臨床細胞学会細胞診専門医。札幌医科大学産婦人科、神谷レディースクリニック 副院長を経て、医療法人社団 さっぽろARTクリニック開院し理事長に就任。2019年5月 医療法人社団 さっぽろARTクリニックn24開院。
卵管水腫の取り扱いですが、なかなか決まった1本道の治療ではありませんということになります。卵管水腫があるからと言って必ず手術をしないと絶対妊娠出来ないわけではないからです。年齢や、片側/両側の卵管水腫か?AMHやご本人の希望によっても方向性は変わってきます。そうなると方針は先生によっても異なるといえます。
卵管切除や卵巣の手術は、現在は腹腔鏡下手術が多くなりましたが、それでも体に対する侵襲は大きいのでしないで済むのならできればしたくないものです。なので、仮に卵管水腫があっても、片側/軽度のものであれば、すぐに手術はしないでそのまま治療に向かう場合もあります。
一方で両側の卵管水腫であったり、片側でも高度の卵管水腫の場合には手術を行う場合もあります。さらに、片側の卵管水腫でも、すでに色々治療を行ったものの妊娠に至らない場合に妊娠率低下の原因になる可能性がある、という判断で手術をする場合もあります。また手術についても水腫のある卵管を切除する方法と、卵管起始部(卵管の子宮に一番近いところ)を結紮する(クリッピング)ことで卵管自体は切除しないという方法もあります。卵管切除をした場合には卵巣に流れる血流に影響を及ぼし卵巣機能が低下する可能性があるという論文報告もありますが、何%低下するといった具体的なものではありません。
一方でクリッピングは卵管水腫自体が残っているので、時に水腫が感染を起こして卵管炎などを起こす原因となることもあります。それぞれに一長一短があるので、一律でどちらが優れているというものではないので患者さん個々人の状態によって、手術をするのか?しないのか?手術をするのなら卵管切除をするのか?卵管のクリッピングをするのか?を検討することになります。
もーさんの状況を正確に把握できないこと、前述のように先生によって判断のわかれる部分でもあるので、一概には言えませんが、手術を先にするのが心配ということであれば、手術をしないで治療を開始するという選択肢について主治医の先生の意見を改めて聞かせてもらうことを勧めます。もーさんの状況を一番理解しているのは主治医の先生になるからです。また、卵巣機能の低下を危惧しているようですので、卵管切除ではなく、クリッピングするのはどうかについても主治医の先生と相談してみるといいかもしれません。一般的にはクリッピングの方が卵巣機能への影響は少ないと考えられています。
それから手術をした場合には、片側卵管が残っていて卵管通過がある場合には保険での体外受精の適応にはならないので、一般不妊治療(タイミング治療/人工授精)を行い妊娠しない場合に体外受精に進むか?両側の卵管に水腫があり、両側卵管切除/クリッピングを行った場合には体外受精の適応となるので、すぐに体外受精に進むことが出来ると思います。
不妊治療は“こうすれば絶対!”というものがない中で、いろいろ判断を下して治療を進めていかないといけません。難しい判断となりますが、実はこういった判断/決断は日々の生活の中でも行っているものになります。ここで、大局的にもーさんの状況を見てみると、年齢とAMHを踏まえればちゃんと妊娠ができる可能性の高い方といえます。そこまで続く道も一本ではありません。手術→人工授精→体外受精や、人工授精→手術→体外受精かもしれません。人工授精→体外受精(手術はしない)というのもあるかもしれません。どれを選んだから正解/不正解というものではありません。決めた道に自信を持って進めてください。大局的にみると、僕はもーさんは妊娠できる方だと思いますよ。
頑張ってくださいね。