治療と仕事の両立と助成金拡大を目指して、積極的に職場と自治体への働きかけに取り組んだEさん。転院4回、採卵20回、移植9回、そして二度の流産を乗り越えて、今春、待望の第1子がお腹に宿ってくれました。
40歳直前で始めた不妊治療。最初は現実を受け入れられず…
出会いから約1年後の2018年8月にゴールインしたEさん(43歳)とご主人のMさん(43歳)。「価値観が似ていて一緒にいて落ち着く人。ほとんど喧嘩をしたこともないんですよ」とEさんは笑顔で語ってくれました。
挙式の翌年、新婚旅行を終えてから妊活をスタート。最初は病院で排卵日を診てもらいながらタイミングをとり、40歳の誕生日を迎える直前、不妊治療専門のクリ ニックを受診しました。
「AMH(卵巣予備能)が少し低かったけど、そのほかは特に問題はなかったんです。でも、当時の私は不妊治療をしなければいけないという現実が受け入れられず、先生との相性もあまり良くなかったから、すぐに2軒目のクリニックに転院しました」 転院先では計5回の人工授精のうち一度だけは妊娠できたものの、8週目で流産を経験。その後、体外受精へステップアップしたのですが、採卵と移植の回数を重ねてもなかなか結果は出ませんでした。
最初の頃は10個ほど採卵できていたのに、だんだんと採れなくなり、 採卵できても受精せずに終わることも多くなっていきました。3カ月間の連続採卵も2回実施しまし たが、毎日注射を打っても一つも採卵できない、むくみなどの副作用がひどいなど、身体的、精神的な苦痛に悩まされたそうです。
治療に集中しすぎないように相撲観戦やガーデニングなどの夫婦二人の趣味の時間を充実させたり、「一度でも妊娠できた」ことを励みに治療に取り組んでいるはずでしたが、気持ちの落ち込みが激しく、夜中に突然涙が出ることも多々あったそう。そんな時、Mさんの存在の大きさに改めて気づいたEさん。ほとんど愚痴を言わず弱音を吐かないMさんに「なぜ?」と聞くと、「Eのほうがつらいから」と即答してくれたことも、治療中の忘れられない一言だったそうです。
環境を改善するために、 職場に「前例」をつくった
体外受精となると通院回数が増えることが予想されることから、 職場に不妊治療連絡カードを提出してカミングアウト。「入社20年以上になるけど、今まで不妊治療中を公言する人はいなかったし、治療していても何も言わず辞めていった人も多かったようです。私は治療と仕事を両立させたかったから、何か制度をつくってほしいと掛け合いました」
ところが、会社から最初に提案された内容は「治療に専念するために積立有給を使って約1カ月休職」というもので、当然Eさんの納得のいく答えではありません。
最終的には休職期間を1年とする制度ができたそうですが、「子ども の看護休暇と同じような制度をお願いしたけど許可されませんでした。選択せざるを得なかったけど、この制度は復職後2年間は有給無 しが条件でした」。
1年後に復職し、有給が取れない状況で治療を続けていたEさんは鬱状態に陥ります。産業医から会社へ提案してもらい、月2〜3回、不妊治療の通院のための遅刻や早退が認められ、ご主人と過ごす時間のなかで精神的な落ち着きも取り戻すことができました。
「子育て中ならフレックスタイム制や育児時短勤務制度があるけど、私達はフルタイムで働くしかなかったんです。会社に訴えたのは私が初めてで、前例がないことを理由に認めてもらえないと感じたし、両立させたいという自分の本意とは違う形の制度ができてしまって、そこは悔しい思いもあります」
Eさんの顔が少し曇りましたが、 行動したからこそ新しい制度ができたのは紛れもない事実です。
また、「助成金拡大」をテーマに したジネコオンラインセミナーに参加後、地元の議員さんに働きかけた結果、Eさんの地元では「保険適用に限り」助成金の条件が体外受精まで拡大されることに。
「行動したのは私だけど、年齢的に保険適用外だから助成金が出ないもどかしさはありました。でも、動いたことで変わったし、自分の行動にも自信がもてました」
幸せを掴むためには、 自ら行動することが大切
会社の制度づくりと助成金拡大の活動を行いながら、同時進行で体外受精を進めていたEさんは、移植して二度妊娠するも8週で流産し、ほかは陰性の連続でした。
その間も転院を繰り返していま したが、4軒目のクリニックで初めてPRP療法と前核期凍結した受精卵の2個移植を行い、1個が着床。初めて「8週の壁」を越え ることができ、今まさに出産へのカウントダウンが始まっています。過去の流産の経験から、妊娠がわかっても嬉しさより不安のほうが大きかったEさんとMさんでしたが、母子手帳を手にした日、「ようやくここまで来られた」と初めて喜びを噛みしめることができました。そして、44歳で妊娠できたという事実をもとに、保険適用外 の体外受精への助成金拡大の働きかけも継続中なのだそうです。
出産まで残り1カ月。今はただ元気に生まれてきてくれることを願い、少し大きくなったら「一緒に家庭菜園をしたい」「お相撲さんに抱っこしてもらいたい」と笑顔で語るEさん。最後に、不妊治療中の皆さんに向けて、力強いメッセージを送ってくれました。
「後悔したくなかったから、私は自分の希望を先生や会社に伝えることを意識してきました。皆さんも受け身にならず、積極的に治療に参加し、行動してほしいと思っています。そして、不妊治療に関するいろんな情報は溢れているけど、それに惑わされず、一番新しい生の情報が得られるジネコを読んでいればきっと大丈夫です!」
* E さんより、10月初旬に無事に女の子を出産されたと、嬉しいご報告をいただきました。