胚移植10回で死産と流産が続いています

相談者:まろんさん(35歳)

2~3年の間に胚移植を10回行い、14週死産1回、8週心拍確認後流産、9週心拍確認後の流産と、死産流産が続いている状況です。3回目の流産では絨毛染色体検査をお願いして結果待ちです。

主治医には毎回「染色体に異常があったのでしょう」と言われます。凍結胚が1つあるのですが、このまま移植に進んでいいのかと不安に思い、主治医に尋ねたところ「希望なら不育症の検査もできます」とのことでした。一人目も体外受精での妊娠、出産でしたが、特に問題はありませんでした。二人目でも不育症の検査を受けてから次に進んだほうがよいのでしょうか?

藤沢IVFクリニックの佐藤卓先生にお話を伺いました。

藤沢IVFクリニック 佐藤 卓 先生
2002年岩手医科大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部産婦人科学教室入局。同医学部産婦人科学教室助教、医療法人財団荻窪病院虹クリニック院長等を経て、2024年8月に藤沢IVFクリニック開院。国内のPGT-Mの第一人者であり、細胞1つからの遺伝子解析の研究は今日のPGT-Mの検査方法の確立につながっている。日本産科婦人科学会産婦人科専門医・指導医。日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医。日本生殖医学会 生殖医療専門医。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

死産と流産が続いていますが、絨毛染色体検査を受けることを推奨されますか?

現在の不育症関連検査で、原因が特定されることはそれほど多くありません。原因が明確でなければ、治療の選択肢も少なくなります。「不育症」は今なお発展途上の分野です。

絨毛染色体検査は、流産手術を実施施設であれば受けることができ、結果は4週程度で得られます。最近は次世代シークエンサー (NGS)という解析法に基づく検査提案が可能となり、こちらはより迅速に検査結果が得られます。NGS法は染色体モノソミーやトリソミーの他、転座による不均衡型転座の検出が可能ですが、従来法で検出可能であった均衡型転座や逆位は通常検出しません。費用が高額となりやすく、本来は実施可能な詳細な遺伝子解析も現時点では普及していません。一方、手術ではなく自然排出された絨毛でも検査が可能です。どちらにもメリットとデメリットがあります。

主治医の言う通り、ヒトの胚は染色体異常がとても多いので受精後の胚の7割は流産に至るか、あるいは着床すらしないと考えられています。まろんさんの3回目の流産における検査で染色体異常が検出される可能性は半々であり何も検出されない可能性も同様です。また、不育症の患者様においても35歳以下の女性であれば染色体異常による流産が起こりやすいという事実もありません。染色体異常のない妊娠がなぜ流産に至るのかは不明な点も多いですが、検査で検出しきれないだけで、やはり遺伝的原因が多いと考えられています。遺伝的原因といっても、多くは偶然の突然変異で、次回も繰り返しやすいわけではなさそうです。

検査の結果、もし上で述べた不均衡型転座が見つかれば、次回も流産や染色体異常の子どもが生まれるリスクは例外的に高くなりそうですが、この不均衡型転座の原因となる均衡型転座が片親のいずれかに見つかる可能性は2-5%程度です。つまり現在利用可能な染色体検査では原因を正確に突き止められない事も多く、まろんさんのような比較的若い不育症の患者さんに染色体異常が見つかり、それをきっかけに新しい検査や治療の提案につながることも多くありません。

したがって流産後の染色体検査は高額な割には情報量が少ない検査とみなす医師もいますし、流産の原因を明らかにするには重要と考える医師もいます。今は提出した絨毛染色体検査の結果をお待ち頂ければ良いと思います。もし 染色体異常が検出されれば、提案された不育症検査は省略して良いと思います。

まろんさんは一人目を出産されていますが、二人目で不妊治療が必要になるのはなぜですか?

時間の経過や年齢の上昇が妊娠しづらさに影響していそうな患者様はしばしばいらっしゃいます。まろんさんはまだ若く、第2子出産の可能性は決して低くありません。あまり悲観的になり過ぎないことも大事です。不育症は、心身医学の観点からその原因を説明しようとする研究者も多い分野です。不確かな検査の結果や根拠のない情報に振り回されないようにしましょう。

まろんさんはPGT-Aを受けることによって妊娠の可能性を上げることができますか?

流産した胚と同じ採卵周期の受精卵胚が、同様に染色体異常症や流産のリスクが高いかと言うとそうではありません。保険診療のメリットを活かして、保存してある凍結胚の移植を優先することは妥当な判断だと思います。
PGT-A (着床前遺伝子異数性検査)は胚移植あたりの妊娠率を上昇させる効果はありますが、より多くの女性に妊娠と出産をもたらすかは不明のままです。今なお、PGT-A有効性は証明されておりません。一方、流産を減らせるという報告は増えています。原因を問わず、不安を軽減したいならば、PGT-Aの実施提案は妥当です。 一方、高額な費用の問題があり、一部の施設を除いては先進医療としての実施が行き届いていません。

通院中のクリニックでもPGT-Aが先進医療として提供される時期を待ちつつ、その間は保険診療の体外受精で経済的負担を減らす考え方もあります。ただし、待っていれば先進医療が実施できるとは限りませんし、その間にも年齢は上昇します。高額な費用と引き換えにしても、人生設計として妊娠を早く叶えたいという強い希望があるのなら、自費診療としてのPGT-Aも選択肢となります。

説明を詳細に聞き、何を優先するのかを良く話し合い、妊活を進めていただきたいと思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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