【Q&A】40歳、自己卵IVFか卵子提供か~小川先生【医師監修】

Michiさん(40歳)

今年40歳になり、自分の卵子で再度IVFするのか、卵子提供を選択するのか悩んでいます。
自分の卵子にどれぐらい望みがあるのかわかりません。

小川誠司先生に教えていただきました。

藤田医科大学 羽田クリニック 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月から准教授に就任。自費で最新の医療を受けられるという併設の羽田クリニックで患者さん一人ひとりの思いをかなえるべく診療も行っている。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

Michiさんの年齢と現在の卵巣の状態、心理的な負担等を考慮に入れて、先生でしたら自身の卵子を用いた IVFと卵子提供のどちらを推奨されますか?

Michiさんはサプリメントも積極的に摂取されており、自ら卵巣機能・卵質の改善に積極的に取り組まれていることが推察され、その姿勢は非常に良いと思います。確かに40歳を超えられた方では染色体正常胚の割合は10%程度と言われており、正常胚を得ることに苦労されている方は少なくありません。単純に言えば正常胚が得られるのは10個に1個という計算になります。

Michiさんのこれまでの治療経過を拝見すると、胚盤胞がなかなかできない方も多いなかで、複数の受精卵が胚盤胞にまで至っており、さらに採卵を続ければ正常胚に巡り会える可能性は決して少なくないと思います。

卵子提供は言わば、最終手段です。提供卵子か自己卵子かは、ご夫婦だけの問題ではなく、生まれてくるお子さんにとっても非常に大きな選択になります。まだ日本では提供卵子による治療は積極的には行われていませんが、提供精子による治療はすでに約70年前から行われています。

そこで現在、問題になっているのが生まれてきたお子さんの「出自を知る権利」です。出自を知る権利とは、「自分がどのようにして生まれたのか」そして「自分の遺伝的ルーツはどこにあるのか」を知る権利のことを指します。提供配偶子(精子・卵子)で生まれたお子さんにとって、これは提供者がまず身元を開示し、親が提供配偶子で生まれた事実をお子さんに告知することではじめて成り立つ権利です。提供精子をめぐっては、この権利をいかに保証するかが問題となっており、卵子提供にも全く同じ問題が生じます。卵子提供に踏み切る場合には単に妊娠の確率だけではなく、こういった生まれてくるお子さんについてもあらかじめご夫婦でしっかりと話し合う必要があります。

Michiさんの年齢を考慮に入れた場合、自身の卵子を用いた IVFによる妊娠確率はどの程度と予想されますか?

日本産科婦人科学会の最新の統計(2022年)では40歳の移植あたりの妊娠率は約30%、実際にお子さんを抱くことのできる、いわゆる生産率は約10%程度です。ただ、移植を複数回繰り返せば、妊娠率(累積妊娠率)は若年層と同様に、40歳以上でも上昇します。

Michiさんが自身の卵子でIVFを再度行う場合、その際の治療プロセスや期間について教えてください。

排卵誘発の方法により受精卵の質が変わる場合がありますので、まずはこれまでとは異なった誘発方法(アンタゴニスト法以外)での採卵をお勧めします。

また最近では再生医療が不妊治療でも応用され、PRP(多血小板血漿)の卵巣投与が行われています。PRPとはPlatelet Rich Plasmaの略で、血液に含まれる血小板から、多くの成長因子を抽出し、活性化したものです。私たちが本来持っている治癒能力、再生能力をさらに高めるための治療で、PRPを卵巣に投与することにより卵巣機能の改善が期待されています。

さらに、PRPの卵巣投与が無効な方に、ご自身の脂肪や月経血由来の間葉系幹細胞を用いた治療も始まりつつあります。卵子提供による治療は、あと数年先でも高い確率で妊娠することが可能ですが、40歳のMichiさんにとって、自己卵で妊娠できるかどうかはここ1~2年で決まります。後悔なさらないよう、ご夫婦でよく相談された上で、PRPをはじめとする今できる治療を最大限やられた上で、それでも妊娠が難しいようでしたら、卵子提供に踏み切ることが良いように思います。

卵子提供を選択する場合、そのプロセスや期間、また法的な制約などについて詳細を教えてください。

卵子提供を規制する法律はありませんが、学会も積極的に勧めてはおらず、国内ではJISART(日本生殖補助医療標準化機関)以外ではあまり公には行われていないのが現状です。台湾や米国など海外の医療機関で実施している方がほとんどで、国内にも海外での卵子提供を斡旋する企業が複数ありますので、まずは斡旋業者に相談していただくことが良いと思います。

費用は数百万円単位でかかり、期間は卵子提供者を決めて採卵から始める必要がありますので、数ヶ月は要します。まずは今かかりつけの主治医の先生にもご相談されるのが良いと思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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