職場の上司が不妊治療への理解がなく、相談できないまま仕事と治療を両立させる日々に限界を感じているえどさん。仕事を続けながら治療に専念するための工夫と心のもち方について、秀子先生に聞きました。
採卵と再診の予期せぬ受診のため、「体調不良」を理由に午前休をとりました。仕事が忙しくストレスを感じていますが、上司は不妊治療に理解がなく相談できません。通院のため時差出勤をしていますが、それを続けるのにも限界を感じています。仕事を続ける理由は育休の給付金ですが、転職しても受給までに時間がかかります。無給になることへの不安もあり、不妊治療を諦めた場合、現在の環境を手放したことを後悔するかもしれないとも感じます。40 歳を迎える今年、不妊治療に専念したい気持ちが大きいですが、夫は「好きにしたらいい」と放任主義で毎日モヤモヤしています。
京都府立医科大学卒業。同大学院修了後、京都第一赤十字病院に勤務。1991 年、自ら不妊治療をして双子を出産したことを機に、義父の経営する田村産婦人科医院に勤め、1995 年に不妊治療部門の現クリニックを開設。
上司との認識の違いも理解し、素直に話しましょう
「上司は不妊治療に理解がなく相談できません」とありますが、上司に理解がないかどうかは、話してみないとわかりません。まずは相談してみてはどうでしょう。それでダメなら、上司と距離の近い人に協力してもらったり、厚生労働省が発行している「不妊治療連絡カード」を使ったりするのもいいかもしれません。ただ、両立支援を受けることは「当然の権利です」と言ってしまうと、人とのコミュニケーションなので、上司もあまりいい気はしないでしょう。組織の上に立つ人が男性、女性、治療の理解があるなしにかかわらず、「職場の誰かが欠けると困る」というのは当然の心理です。妊娠すれば欠員の補充も考えなければいけません。
不妊症は死に直結する病気ではありません。また、子どもをもたない人もいる中で、子どもを望むことは、仕事と二兎を追う「わがまま」ととらえる人もいます。ご主人でさえなかなか理解できないものを、上司に簡単に理解してもらおうというのはなかなか至難の業かも、です。
ですから、上司に対して下手に出る必要はありませんが、「仕事も続けたいし、子どもも欲しいので、仕事と治療を両立するために、職場にご迷惑をおかけすることになりますが…」と前置きして素直に話すことが一番だと思います。
上司や周りの協力を得てストレスを減らす努力をする
今の職場で自分が心地よく仕事と治療を両立するためには、自分ができる努力をすることも大切です。たとえば「通院先は夜診がないので、早く帰らせていただくことになりますが、その分どこかで埋め合わせをします」というふうに、時差出勤や早朝出勤もしながら、自分が折れるところは折れる必要はあるでしょう。
また、不妊治療は卵巣、子宮まかせのことも多く、歯科治療のようにはいきません。「どうして毎日通院する必要があるの?」と聞かれた時は「そんなことも知らないの?」と、上司と一対一で感情的にやり合うのではなく、「そうなんです。私も診察日を減らしたいのですが、担当医に毎日通院するように言われているので」と、上手くかわしておけばよいのです。1〜10まで理解してもらう必要はありません。ストレスを感じても、3〜4年後の自分の未来を想像し、「そのうち出産・育児休暇をしっかりとって、のんびり子育てするぞ」くらいの広い気持ちでいましょう。
診察で仕事をお休みした翌日は「昨日はありがとうございました」と言って、時々は上司や協力してくれる職場の仲間に差し入れをするなどして、お互いが笑顔で話し合える雰囲気をつくるのが一番だと思います。担当の先生にも仕事の予定を早めに伝えて相談しておけば、採卵日など治療の内容によって2〜3日は調整してもらえるでしょう。
私の患者さんでも、職場に話していない人は仕事と治療の両立に苦労されているようです。周りに知られないように一人で頑張っていると、ストレスを溜め込みやすく、コミュニケーションもうまくいかなくなるケースが多いと感じます。一方で、治療のことを周りにカミングアウトした人は「本当に楽になりました」とおっしゃいます。自分の希望とストレスを解決するためなら、ここは自分から一歩引いてもよいのではないでしょうか。上司との認識の違いも理解し、職場に対して「よろしくお願いします」という気持ちが伝われば、すべてがうまくいくはずです。
秀子の格言
上司に素直に相談し自分が心地よく両立できる環境をつくる努力をしましょう