治療以外に今すぐできる! 妊娠に必要な栄養を見直し 赤ちゃんを迎える体に整えよう

妊娠には、お母さんと赤ちゃん二人の栄養が必要です。毎日の食事だけでは不足しがちな栄養素を上手に補う方法は?英ウィメンズクリニックの苔口先生に聞きました。

英ウィメンズクリニック院長●苔口 昭次 先生 1984 年、宮崎医科大学卒業と同時に岡山大学医学部産婦人科学教室に入局。1992 年医学博士(岡山大学)。高知県立中央病院産婦人科勤務を経て、神戸掖済会病院産婦人科部長に。2004 年より英ウィメンズクリニック勤務、2013 年同院長に就任。

栄養バランスの良い食事、できていますか?

妊活中は、女性も、男性も栄養バランスの良い食事、適切な体重、適度な運動、禁煙はもちろん、アルコールやカフェイン摂取をできるだけ控え、妊娠しやすい体に整えることが基本です。

近年、若い女性の摂取カロリーは、食糧難の時代といわれた戦後直後と同等、またはそれよりも低いというデータが出ています。この結果から、飽食の時代でお腹は満たせても、たんぱく質不足など、栄養バランスに欠けた食事をしている人が多いことがわかります。特に妊活中のカップルにとって、栄養バランスの良い食事を心がけることは、健康な卵子・精子の形成や胚の発育、妊娠後の赤ちゃんの発育に欠かせません。

まずは、塩分や糖分の摂りすぎに気をつけましょう。特に糖分過多は不妊のリスクになる体重増加や血糖値の上昇などにつながります。

次にトランス脂肪酸が多く含まれる加工食品の代わりに、魚やナッツ、豆類などのオメガ脂肪酸を意識して摂るようにしましょう。良質な脂肪は、卵巣機能や卵子の成熟に必要な女性ホルモン(エストロゲン)を正常に整えてくれます。

多くの人が不足している妊娠に必要な3つの栄養素

妊活には欠かせない栄養素がいくつかあります。その一つが「葉酸」です。妊娠初期の赤ちゃんの神経管形成をサポートします。この時期に葉酸が不足すると、神経管閉鎖障害のリスクが高まるとされています。厚生労働省は妊活中の女性に1日400μgの葉酸を摂取することを推奨しています。しかし、最近は葉酸の摂取量が多いほど良いとされ、食事で摂る場合は上限がありません。

サプリメントでは400μg以上、800μg未満の摂取をすすめる医療機関が増えています。その理由は二つあります。一つは、妊娠に向けて葉酸を初めて摂る場合、1~2カ月の短期間で必要な有効量を満たすことができます。もう一つは、海外の研究で葉酸400μgを摂取した人と、800μgを摂取した人を比較した場合、800μgの人のほうが体外受精の成功率が高く、葉酸の摂取量に比例して、出生率が上がることがわかってきたからです。上限が800μgであれば、複数のサプリメントを併用している人が、基準範囲を超える心配も少なくなります。

もう一つの栄養素は「鉄分」です。卵子の発育などに必要な酸素を運ぶ、ヘモグロビンをつくる働きがあります。女性は月経期に失われやすい栄養素でもあるため、ふだんから鉄分の補給を意識することが大切です。

また、最近注目しているのが、「ビタミンD」です。体の免疫機能をサポートし、着床にかかわる子宮内膜にも影響を与える栄養素とされています。鮭、いわし、卵黄、キクラゲなどの食材に含まれ、日光浴で増やすこともできますが、1日の必要量を満たしている方はほとんどいません。

毎日手軽に摂れるマルチビタミンで不足を補う

こういった栄養素を食材から摂り入れるのが理想ですが、毎日の食事では限りがあります。そこで不足する栄養素をサプリメントで補っていくのも一つです。おすすめは、「マルチビタミン」です。葉酸800μgをはじめ、妊娠に必要な栄養素がバランス良く配合されています。

ちなみに妊活のサプリメントには、他にも卵子の質を高めるPQQ 、DHEA、メラトニンや、抗酸化作用のあるレスベラトロール、リコピン、アスタキサンチンなどがあります。これらのタイプは用量、用法が決められ、医師の助言が必要になります。

一方、マルチビタミンは手軽に取り入れることができます。アルコールを飲む人やストレスが多い人は、特に体内でビタミンが消費されやすくなります。1日1〜2回を目安に、毎日のルーティンにして欠かさず摂るのがポイントです。

鉄分やビタミンDが不足している人は、さらに単体で必要量を補っていくと良いでしょう。鉄分不足は、疲労の原因になる隠れ貧血や、甲状腺機能低下症と関連し、流産のリスクが高くなるとされています。実際に流産を繰り返す人を調べると、内臓に蓄えられている貯蔵鉄(フェリチン)の値が低い傾向にあります。特に妊娠初期は鉄分の需要が増えます。フェリチンが低値の人は1日12mg程度、通常の目安よりも多い鉄分の摂取をおすすめします。甲状腺機能低下症でチラーヂンRを服用している人の場合も同じです。

妊娠と毎日の食事は切っても切り離せない関係にあります。最近では、栄養指導を受けて、食事改善を行った人の妊娠率が上昇したという報告もあります。これから当院でも、妊活中の人が治療以外にできることとして、初診時に看護師が栄養指導を行っていく予定です。この取り組みが、皆さんが食事と向き合うきっかけになり、赤ちゃんを早く迎えられることを期待しています。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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