妊娠を叶えるためにはまず、赤ちゃんが育つ土台になる健康なカラダづくりが重要ということをご存じですか?
今日からできるプレコンセプションケアについて、津田沼IVFクリニックの髙木亜由美先生にポイントを教えていただきました。
千葉大学医学部附属病院、千葉市立青葉病院、千葉市立海浜病院、千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター特任助教、川鉄千葉病院、医療法人社団誠馨会 千葉メディカルセンター、表参道ARTクリニック副院長などを経て、令和5年9月より津田沼IVFクリニックの院長に就任。当クリニックのスタッフは全員経験豊富なスペシャリストで、患者さんの状態を把握することを大事にしており、説明や指導が手厚いことが特色。患者さまに良い結果が得られるよう、全力でサポートしています。
婦人科疾患、肥満・やせなどは妊娠を妨げる要素に
「プレコンセプションケア」とは女性やカップルに将来の妊娠のための健康管理を提供すること。自分の体の状態を知ることでより健全な妊娠・出産のチャンスを増やし、ママだけでなく、次世代の子どもたちをより健康にすることを目指しています。
妊娠の観点からすると、子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣嚢腫などの婦人科疾患は妊娠にとってやはり不利な要素で、赤ちゃんを望んでいる方は早めの介入が必要です。妊娠前から自分の状態を知り、管理をしていくことが大事といえるでしょう。長年生理不順やひどい生理痛があっても婦人科を受診されることなく、いざ不妊治療を始めようという時に初めてそれらの悩みを打ち明ける方も少なくありません。「この状態でずっと我慢していたの?」とびっくりすることも。
子宮筋腫や子宮内膜症を放っておいて病変が大きくなってから「妊娠したい」と思っても、まずは手術から入らなければならないなど、不妊治療が遅れてしまうこともあります。医療側としてもそれは避けたいことですね。妊娠を叶えるためにまずは土台を整えておくことが大切。日頃、「生理痛がひどい」「月経量が多い」などの症状があれば特に注意が必要で、迷わず婦人科を受診してほしいと思います。
婦人科疾患のほかに、肥満ややせなども妊娠に良くない影響を及ぼすことがあります。体重過多だと女性ホルモンの分泌量は増えますが、体重に対してホルモンの量が追いつかないため、ホルモンバランスが乱れて排卵障害を起こすことがあります。妊娠しにくくなるほか、妊娠後も高血圧や糖尿病など妊娠合併症を起こすリスクが高まってしまう。早産5.7%、低出生体重児9.4%、周産期胎児死亡の34.6%が母体の病態や妊娠合併症による影響が原因だといわれています。
また、やせすぎも良くありません。やせは自分では深刻に考えていない方も多いようですが、女性ホルモンの分泌量が減って生理が来なくなったり不順になる、極端な貧血や栄養不足を起こしていることもあるので、妊娠にとって良い状態とはいえないと思います。妊娠に適したBMIは20~24。妊活を考え始めたら、治療に入る前に適正体重にコントロールしておくこともプレコンセプションケアの1つといえるでしょう。
無理なく継続できるケア法を見つけることがポイント
では、妊娠を目指す上で今日から自分でできるプレコンセプションケアのポイントをご紹介したいと思います。
●食生活を見直して無理のないダイエットを
体重を早く減らしたいからといって「食べないダイエット」は良くありません。過度な食事制限は逆に視床下部からのホルモン分泌を障害して、難治性の排卵障害の原因になってしまうことも。
1日3食バランス良く食べるということをベースに、甘い飲み物を飲まない、食事はまず野菜から食べる、お菓子や間食を食べたければヘルシーなものを選ぶなど、食事習慣を少し工夫するだけでも違ってくると思います。無理なく、続けられるダイエットが望ましいですね。
●適度な運動で筋肉量を増やす
適度な運動をして血液の循環を良くすると生殖器官の働きが良くなるといわれています。やせの人は食べる量を増やすだけではなかなか太れないので、運動で筋肉量を増やしていくのも有効でしょう。
「下肢の筋肉量が多い人は卵巣機能が高い」という研究結果があります。太ももを鍛えるためにはウォーキングやジョギング、階段の昇り降りなどが効果的。しかし、そうはいっても毎日運動を継続するのは難しいですよね。通勤の際に一駅手前で電車やバスを降りて歩く、家事のちょっとした合間にストレッチするなど、日常生活に無理なく取り入れられる形で継続を。
わざわざジムに通わなくても、今はインスタグラムやYouTubeなどに手軽にできる運動も多く紹介されています。そのようなインターネット動画から自分ができそうな運動を探してみてもいいでしょう。
●体を温めて冷えを解消
冷え性は妊娠しやすい体づくりの大敵です。全身の血行が悪いと卵巣に酸素や栄養が十分に届かず、卵巣機能の低下を招くことも。
冬だけでなく、夏も冷房により体が冷えてしまうことがあります。お風呂にゆっくり浸かる、温野菜など温かい食べ物や温かい飲み物を摂る。黒ごまや山芋、しょうがなど体を温める食材を意識的に摂取するのも良いでしょう。冷え性がひどい方は医師や薬剤師に相談して、漢方薬を利用するのも手だと思います。
●睡眠時間をしっかり確保する
8時間の睡眠に比べ、6時間未満の睡眠ではわずかな妊よう性の低下が確認されました。
寝不足の状態は避け、できれば毎日7~8時間の睡眠を確保するようにしましょう
●ストレスをためないようにする
ストレスは女性ホルモンの天敵で、脳の視床下部や脳下垂体はストレスに非常に弱いといわれています。また、男性も疲労やストレスが精子を造る能力に大きく影響。妊娠するためにはストレスをためない、ストレスがたまっても上手に発散することが大切です。妊活をしていると1人で悩みを抱え込んでしまい、それが大きなストレスになってしまう人も多いようです。妊活はもちろん、悩みを何でも話せる仲間がいるといいですね。たとえばヨガのサークルに入るなど、家庭や仕事から離れて自分を解放できる場所を作っておくのも1つの方法なのでは。体を動かすと心も健康になるのでおすすめです。
ストレス解消のためにお酒を飲むという人もいるかと思いますが、私は無理して禁酒する必要はないと思っています。妊娠中はアルコールを摂ると胎盤を通して赤ちゃんに行ってしまうので禁酒は必須ですが、その時にやめられるようにコントロールできる程度の量なら妊活中も飲んでいいと思います。週に1~2回、アルコール1~2単位、ビールや缶チューハイなら500ml程度の量を目安にしてください。
また嗜好品といえば、コーヒー好きの方もいると思いますが、カフェインの過剰な摂取は妊娠力を低下させるといわれているので、妊活中はコーヒー1日2杯程度にすることが望ましいかと思います。
●がん検診が婦人科を受診するきっかけに
生理不順や生理痛など体の不調を感じていても「婦人科を受診するのはちょっと……」とためらっている方も多いのでは? いきなり相談をしに行くのはハードルが高いという場合は、子宮がん検診などをきっかけに来院されてはどうでしょうか。会社や自治体の健康診断のオプションとして受けられることもあるかと思います。
検診をする際は、プレコンセプションシートのようなものに自分の体調を書き込む機会があります。そこで自分の体の状態を知ってもらい、悩みを相談することもできるでしょう。検診をきっかけにわかることはたくさんあるので、ぜひうまく利用していただきたいですね。
妊娠前に自分の体と向き合いましょう
これまで私は不妊治療と並行して産科や婦人科の手術も多く行ってきました。救急外来や緊急手術では「なぜそこまで我慢していたのか」「今まで気づかなかったのか」という場面があり、不妊に関しても「もっと早く受診してくれれば良かったのに」と思うことを多く経験しました。患者さんが自分の体の状況を知らなかったために治療が遅れた例に遭遇するのは、医療側としてもとてもつらくて残念なこと。
産婦人科のハードルを下げたい、自分の体を知って健康に自己実現してほしいと思って当クリニックを継承しました。みなさんもぜひ一度、妊娠前に自分の体に向き合ってみるつもりで受診してください。