【Q&A】体外受精の妊娠率はどの病院でも同じですか?~林先生【医師監修】

あったんさん(36歳)

現在、人工授精で2人目希望の不妊治療をしています。
多嚢胞性卵巣症候群と診断され、2020年12月に卵巣多孔術をし、2021年7月に第一子を出産しました。
2人目を希望しており2023年1月から再度不妊治療を開始、人工授精からスタートをしましたが5回失敗。体調不良でできなかったりした周期もありました。
主治医の先生から「この症状の人は卵の質が良くないから、なかなか簡単には授からない。人工授精もまあ6回までで次を考えた方がいい」と言われており、今年最後に6回目の人工授精をする予定です。
主治医の先生はとてもサバサバした感じの女医さんで、もう少し話をゆっくり聞いてほしいなと思うのですが、いつもカルテに目をやっており、私が目の前にいるのに他の患者さんのカルテを見て指示を出している時もあり、あまりゆっくり相談にのってもらえない感じもします。転院した方がいいのかもしれませんが、また新しい病院で1から説明して検査してとなると年齢的にも猶予がないのかなと思い踏み切れていません。
このまま6回目の人工授精も失敗に終わってしまった場合、この病院で体外受精をするのがいいのか、もっと親身に寄り添ってくれる病院に転院した方がいいのか悩んでいます。
体外受精のやり方はどの病院でも同じなのでしょうか?
大きく変わらないのであれば、今の病院は2歳の息子を連れて月に何度も通院することになっても苦ではない距離なのでそのまま通いたいのですが、先生があまり親身になってくれないのがメンタル的に弱っている時には少し厳しいです。主人も一人目の時のように寄り添ってくれず、1人だけ頑張っている気がしてしまうこともあります。
人工授精の日以外に仲良しをしていないのも気になってはいないのですが、子供と一緒に主人が寝落ちしていると無理に誘って機嫌が良くないままやっても意味ないのかなと諦めモードに入ってしまっています。
年齢的にも時間がなくかなり焦っているので、どのような方法をとるのが今の私に一番いいのかアドバイスいただけたらなと思います。もし転院する場合はどんなポイントで病院選びをしたらいいかも知りたいです。

林先生に聞いてきました。

【医師監修】ウィメンズクリニックふじみ野 林 直樹 先生
1983年、東京大学医学部卒業。埼玉医科大学総合医療 センター(川越市)などを経て、現職。「体外受精、顕微授精も高いクオリティで対応していますが、できる限り自然に近い不妊治療をご提供したいと考えています。 患者さんはそれぞれお悩みも違いますから、どんなこと でもまずご相談を。時にはご要望に沿えず、厳しいこと を申し上げるかもしれませんが、常に患者さんにとって ベストな治療法をご一緒に見出したいと思っています」。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください
体外受精を希望する場合のクリニックの選び方について何を基準に判断すればよいでしょうか?
後で述べるように開示しているデータは解釈がむずかしいです。人口の少ない地方のクリニックを除いて年間採卵周期数が300周期以上(新規開設まもないクリニックは別として)かどうかを抑えた方がよいです。ある程度の質を担保するためにはそれくらいの治療数が必要です。保険診療で体外受精を受けるのであればコストはほぼ全国共通です
生殖医療専門医が常勤している施設かどうか、どのような先進医療が可能かどうかで判断される方もおられます。体外受精施設では胚培養士の技術が極めて大切で、医師が車の運転手ならば、培養室はいわばエンジンです。
PGT-Aを行っている施設であれば、学会から診療成績がある程度認められている施設、胚培養士の技術が一定以上であることの証となっているので選ぶ基準の一つかもしれません。

また通院の便だけでなくどのくらい待ち時間があるのかも判断材料です。

●クリニックが開示しているデータの見方について

施設が公表している体外受精治療の妊娠率を正しく評価し、その診療の質を見抜くのは意外に難しいです。本来は初回採卵周期あたりの累積生児出産率を年齢別に表記することが推奨されていますが、採卵から出産に至るまで2年以上要することも普通にありうるため、集計がむずかしく、HP上でこの統計を目にすることはほとんどありません。またどんな不妊症の背景でもタイミング療法や人工授精治療は一切行わず、いきなり体外受精のみを行う施設もあります。この場合には、当然成績は上方に偏ります。
胚移植あたりの妊娠率を表にしている施設が多いですが、ただしこの評価も注意が必要です。胚の移植戦略は施設により異なっています。初期胚移植を行わず全て胚盤胞とする、また胚(形態学的、形態動態的)移植基準を厳しくし、着床率がやや低い胚を廃棄すれば、当然胚移植あたりの成績は良くなります。
また年齢も採卵時の年齢か胚移植時の年齢かに注意が必要です(当たり前ですが後者はとくに体外受精での第2子以降の凍結胚移植により歪が生じ、著しく成績が良いように偏ります)。40歳以上の成績が非常に良い成績を公表している場合(PGT-A胚を除き)は採卵時ではなく移植時年齢で計算している可能性は無いでしょうか
●ステップアップについて
6回の人工授精を行って不成功であれば体外受精にステップアップした方が良いです。どうしても、もう少し人工授精を望むならクロミッドに替えてフェマーラを使用してみてもよいかもしれません。卵巣多孔術を2回行うことは例がありません。

体外受精を実施する前に受けた方がよい検査について教えてください。

子宮鏡検査などを行う施設もありますが、全患者さんにルチーンにおこなうとよいというエビデンスはありません。エコーでポリープや卵管水腫が疑われる場合には、胚移植前に手術処置をしておいたほうがよいです。多嚢胞性卵巣症候群ですのでインスリン抵抗性検査、適度な運動、ビタミンD補充(葉酸はもちろんのこと)が必要かもしれません。

●ご主人との治療に対する温度差や、主治医の先生の対応など気になる点があるそうです。今後の治療の進め方や向き合い方についてのアドバイスをお願いします。

ご担当の先生はお忙しそうですね。カルテ記載、間違いがないように、また他の患者さんの診療の進行も気にかけながらの診療を進めることに一所懸命な姿が目に浮かびます。説明にいつも時間をかけて患者さんと向き合っている医師が必ずしも腕が良いとは限りません(いつも空いている飲食店を想像してみてください)。
しかしクリニック全体としては患者さんに丁寧な説明や対応が必要と考えます。そのためには看護師やカウンセラー、コーディネーター、胚培養士を含めた多職種連携の体制が大切です。もしかしたらそういった連携体制が十分構築されていないために医師に過剰な負担がかかっているのかもしれません。
担当の先生の診療の進め方は間違っていないと思います。あとは相性の問題ですので、どうしても合わないと感じるのなら転院もありかと思います。体外受精を始めるにあたっては、必ずご主人が同席しての説明があります。その前に、主治医に治療への向き合い方について夫へメッセージをしていただけるようお願いしてみてはいかがですか。
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