治療中のつらかった思い出を、封印していたのかも
子どもってなんでこんなにかわいいんだろう…。 夫婦だけの生活がずっと続くと思っていたけど、 欲しいと思った瞬間から、大変な治療が始まりました。
排卵誘発剤の副作用と、それよりも大変だった妊娠中の倦怠感。
みんなに面白おかしく治療のエピソードを話していたのは、 思い返してみると、実はとてもつらかった裏返しなのかもしれない。
時間が経った今だからこそ、伝えたい思いがあります。
夫婦二人、充実した生活。 心境に変化が訪れたのは…
あとわずかで2017年が終 わろうとしている 12 月下旬。待 ち合わせ場所で会ったAkiさ ん( 44 歳)と息子のSoくん(7 歳)のほっこりとした雰囲気は、 慌ただしい年末のひとときを癒 してくれるよう。久しぶりのお 天気で、ぽかぽか陽気。せっか くだからと海辺まで足をのばし て治療や現在までのストーリー を聞かせてもらいました。
Akiさんが 11 歳年上のご主 人と結婚したのは2001年。 おいしい料理が大好きな二人は、 県外までグルメ旅行に出かける など、結婚当初から充実した日々 を過ごしていたそうです。
「主人はすでに自分の生活スタ イルが完成していて、そこに私を入れてもらったっていう 感じでした。特に子どもが欲 しいとか、そういうわけでも なく、二人で仲良く暮らして いくことが当たり前のような 気持ちに徐々になっていった ような気がします」とAki さんは振り返ります。
二人での生活を満喫していた 日々のなかで、Akiさんの心 境に変化が訪れたのは、私の 姪っ子が誕生したこと。
「それがとてもかわいくて。子 どもがいてもいいかな、楽し いかなっていう気持ちが芽生 えたんです。ただ、年齢的な ことを考えると、本気で子ど もを望むなら時間はあまりな いなって……」
ご主人に自分の気持ちを伝 えてみると「意外にもすんな りと受け入れてくれて」自治体主催の不妊相談の窓口に出 向いたAkiさん。担当して くれた大学病院のドクターに 若干ぽっちゃり体型だと指摘 され、まず 1 カ月間のダイエッ ト入院に挑戦。この時、結婚 から 6 年が経過していました。
乗り切るために書き続けた ダイエット入院の記録
1日目「いよいよ」 今日から入院。残された夫よ、 後をよろしく。お掃除頑張っ てね。
6日目「うわー少なーい」 朝食をとろうとして、驚きま した。2日目から1日摂取カ ロリーが1200 kcal に設定され ていたのですが、今日からは 1000 kcal に。
10日目「しみじみ体験中」 お腹すいてきたかも……。か といって、なにか食べたいっ てこともない。「食事も治療の 一環と認識してるんですねー」 と看護師さんは言うんだけど、 そんなこともない。たぶん、 いま、おもしろがってるんだ と思う。私自身にどのような 変化があるのか、興味あり。
26 日目「 2.5 倍の幸せ」 今日は食事のたびに、ニヤニヤ しっぱなし。朝は「食パンー! たまごの黄身だー!」と叫び、 昼は「さしみー!」と叫び、夜 は「からあげだー!」と叫ぶ。 心の中でね。今日からしばらく 1000 kcal 。米飯は倍の量にな り、全体の摂取カロリーは 2.5 倍 になりました。入院6日目に書 いた1000 kcal の印象と180度違うので、自分でも笑ってし まった。
28 日目「ひまでした」 昨日より 1.5kg も増えてた。これ が停滞期なんだな。食事では、 久々に牛肉が出ました。大げ さかもしれないけど、食べら れる幸せを、しみじみ感じて おります。
33 日目「ありがとうございま した」 午後になり、夫が迎えに来て くれました。病衣を脱ぎ、い つもの服を着たんだけど、やっ ぱりあんまり変わってないで す (^^;) 夕ご飯は夫が大分の郷 土料理「りゅうきゅう」と「筑 前煮」を作ってくれてました。 ありがたいなあ。 〜Akiさん入院日記より抜粋。
取材をきっかけに思い返す。 私、実はつらかったんだな…
マイナス5 kg のダイエットを 終えたAkiさんは、とにかく 時間を有効に使うために最初か ら人工授精もしくは体外受精を したいと担当のドクターに依 頼。大学病院での治療は、第一 に料金が安いというメリットが ありましたが、最新の治療が受 けられるプライベートクリニッ クとは違い、どうしても治療内 容にもその差が出てしまいま す。インターネットなどで常に 最新の情報をチェックし、毎日 の通院の大変さを訴えて自己注 射を取り入れてもらうなど、自 身の治療に対して積極的に向き 合ったAkiさん。
「自己注射は、どこが一番痛く ないかなって自分なりに研究し たんです。お腹やお尻、ほかに もいろいろな場所に刺してみ て、お腹が一番痛くないなって わかりました。針は太くも細く もないサイズがベスト。あまり 細すぎると折れそうな気がする でしょ?」
「臨月で入院した時に健康サン ダルを履いていたんですよね。 そのツボ押しのあまりにもひ どい痛みが陣痛よりも勝った 瞬間は、自分のことながら苦 笑でした」
当時のエピソードを笑顔で あっけらかんと語ってくれたA kiさんですが、治療中のメン タルや体調など、実はとてもつ らい状態だったようです。
「家族や友人に、ネタっぽく楽 しく喋っていたんだけど、今 思い返してみれば、起き上が れないほどの体のだるさがあ り仕事にも行けなかったり、 確実に早く結果が出る治療法 でお願いしているつもりなの に生理がきて落ち込んだりも していたなって……」
高度な治療を受ければ、すぐ に子どもができるはず。最初の 想像とは違い、なかなか結果が 出ない日々。排卵誘発剤の副作 用による倦怠感に悩まされなが らも3カ月ごとにトライした人 工授精は4回、5回と回数ばか りが増え続けるだけで着床して くれる様子はまったくありませ ん。思いつめないようにしてい たとはいっても、趣味の時間を つくる気力もなくなり、体は正 直に不調を訴えてきます。頭の 中も治療のことが大半を占める ようになって、治療の意味さえ もわからなくなりかけたAki さんは、半年間、治療をお休み することに決めました。
家族が増えたからこそ、 夫婦の絆もより深まった
体と心を整える充電期間を 経て、これを最後にしようと 決めた体外受精。半分は諦め かけていたAkiさんは、結 果を聞きに行く時も自分なり に覚悟を決めて医師のもとへ 出向きました。
「無事に妊娠できたと言われて もなかなか実感が湧かず、しばらくぼーっとしていました。 主人への連絡も、大喜びする というよりもお互いが静かに 噛み締めたという感じでした ね」とAkiさん。時間が経 つにつれて、お腹の中に自分 たちの子どもが宿っているこ と、そして順調に育っている 幸せを感じるようになってき たそうですが、同時に妊娠中 の体を絶不調が襲います。
排卵誘発剤の副作用よりも さらにひどい倦怠感、頭がぐる ぐると回って起き上がること もできず、一日中布団から出ら れないことも多々ありました。 さらに、 40 週を超えて、 41 周目 に入って陣痛も消えてしまっ たため、急遽、帝王切開での出 産を余儀なくされました。
それでも、無事に誕生してく れたSoくん。夫婦二人での充 実した生活に満足していたは ずなのに、今、三人になったか らこそ何倍にも幸せに満ちた かけがえのない毎日をAki さんとご主人は過ごしていま す。結婚後も続けていたグルメ 旅行のパートナーが、お互いか ら家族へと変わり、時にはご主 人とSoくんが男二人旅にも 出かけているのだとか。
「Soを産んでから、夫婦の絆 も深まったような気がします。 私は 40 代なかばに差しかかっ てきたけど、まだまだ主人に は女性として見てもらいたい と思うようになったし、その ための努力を自分でもするよ うになったかな!」