今の年齢が40歳。10個前後採卵できるものの、受精して育つ卵が1~2個の場合、治療を続けても妊娠する望みはあるのでしょうか。花みずきウィメンズクリニック吉祥寺の矢野直美先生に聞いてみました。
このまま治療を続けて妊娠するのか
東京大学医学部、東京大学大学院医学系研究科博士課程卒業。東京大学医学部附属病院、武蔵野赤十字病院、池下レディースクリニック広小路副院長を経て、2009年、 池下レディースクリニック吉祥寺院長に就任。不妊治療はすべて院長が担当。一人ひとり丁寧に診ることを心掛けている。産婦人科専門医、生殖医療専門医、女性医学学会専門医2022年7月より名称を「花みずきウィメンズクリニック吉祥寺」に改称。
40歳でPGT-Aで正倍数性胚を得るにはおよそ何個の胚盤胞が必要ですか?
相談者のまりかさんが行ったPGT-Aとは、着床前診断のことで、胚盤胞まで育てた受精卵を、子宮に戻す前に染色体の数が正常化どうかを調べる検査のことです。また、正倍数性胚とは、染色体の数が正常な胚のことを指します。
一般的に高齢になるにつれて受精卵の染色体異常が増える傾向にあります。まりかさんの年齢(40歳)ですと、5~6個胚盤胞を検査して、1~2個正倍数性胚が見つかるのが目安となります。ただ、個人差がとても大きいため、同じ40歳でも受精卵を20個検査してすべてが異数性(染色体異常)の場合もあります。また、正倍数性胚を移植しても着床率は65%といわれています。
一方で、採卵数2~3個で妊娠される方もいらっしゃるので、年齢はあくまでも一つの目安になりますが、個々の体の状態によって大きく異なると考えてください。
また、PGT-Aは、胚盤胞がたくさんできるのに移植しても妊娠しない、あるいは初期流産をくり返すような人にとっては時間的なロスを軽減するのに効果的な検査ですが、まりかさんのように胚盤胞までなかなか育たない方にとってはメリットが少ないかもしれません。よく言われることですが、採卵周期あたりの妊娠率を上げる検査ではないからです。
ただ、PGT-Aの結果によってご自身がなかなか妊娠できない理由が受精卵の染色体異常と分かった場合、着床障害の追求へのこだわりが軽減されますし、結果によっては治療の継続について話し合う際の判断材料になるのではないでしょうか。
まりかさんは、採卵数や受精率に比べて胚盤胞到達率が低い理由としてどんなことが考えられますか。
閉経が近い場合は別として、年齢による受精率の差はさほどないのですが、高齢になると胚盤胞に到達する率は低くなる傾向にあります。また、実年齢とは別にその方の「卵巣年齢」に因るところも大きいと思います。
良好胚を育てるための医療者側の工夫として、排卵誘発方法を変更する、施設内で使用している複数の培養液があれば別のものに変更してみることなどが挙げられます。精子のダメージを軽減するために遠心をしない精子調整方法をとったり、顕微授精の場合、先進医療に登録されているPICSIという方法を採用することもあります。PICSIとは、成熟した精子はヒアルロン酸にくっつきやすいという性質を活かし、ヒアルロン酸を添加した膜を利用して成熟した精子を選別する方法になります。
ただ現時点では「これをすると劇的に胚盤胞到達率がアップする!」というものは、ありません。基本にたちかえりますと、妊娠するためには健康な体でいることが前提となります。栄養状態を見直すことに加えて、日頃運動をしていないようであれば、パートナーとともに日常生活で適度な運動を取り入れてみてください。治療に伴うストレスの軽減にも役立つかもしれません。
30代後半から月経量や期間がともに減っているようですが、どのようなことが原因でしょうか。
加齢によりホルモンの分泌量が変わることで着床期の子宮内膜の状態が変容してきている可能性があります。しかし、閉経にむかって誰もがだんだん月経量が減っていくとは限りません。閉経間近になって黄体機能不全や無排卵月経により一時的に月経量が増えるという方もいます。
不妊治療は妊娠できるかという不安や経済的な負担などを伴うと思いますが、悩める患者さんにアドバイスをお願いします。
保険適用にはなりましたが、不妊治療は、治療期間が長くなるほど経済的負担が大きくなります。また、年齢という壁があるため、なかなか妊娠できないとストレスを感じてしまいますよね。いつまで治療を続けるか、どういった治療を選択するか、悩みはつきないことと思います。パートナーと2人だけで話をしていると、煮詰まってしまうこともあると思います。そういった場合は、ぜひかかりつけの医師や看護師などに相談をしてみてください。他人に話すことで、自分の進みたい方向に気づくかもしれません。