妊娠はするのに赤ちゃんが育ってくれず、出産にたどり着けない不育症。繰り返す流産を予防して、妊娠につなげていく検査と治療法について、レディースクリニック北浜の奥裕嗣先生に教えていただきました。
当院では流産1回の方も不育症検査の対象としています
妊娠した女性が2回以上の流産や死産を繰り返すことを不育症と呼んでいます。化学流産を流産に含めることについては意見が分かれますが、私は含めるべきだと考えています。流産を繰り返す原因には「子宮形態の異常」「血液の異常」「自己免疫疾患」「染色体の異常」などが挙げられます。不育症と着床障害は根本的な原因がつながっていると考えられ、検査と治療法が重なっているものもあります。
少し前回のおさらいになりますが、不育症の検査と治療法についてみていきましょう。
●子宮内膜の状態を調べる「子宮超音波検査」
子宮内膜が薄い方は子宮の血流が悪く、妊娠が継続しにくいことがあります。ビタミンEやラエンネックR、男性のED治療薬(バイアグラR、シアリスR)には血管を拡張する作用があり、子宮内膜の改善が期待できます。 また、自分の血小板を子宮内膜に注入する「PRP(多血小板血漿)療法」で、子宮内膜を活性化できる可能性もあります。
●子宮の形態を調べる「子宮鏡検査」
代表的な疾患には子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、子宮内腔癒着などがあり、これにより妊娠が妨げられることがあります。なかでも、多く見つかるのが子宮内膜ポリープです。当院では摘出手術を行うことにより、妊娠率が向上しています。
●血液の異常、免疫の異常、夫婦の染色体異常を調べる「血液検査」
血液中に見つかる代表的な原因は、抗リン脂質抗体と血液凝固系です。どちらも胎盤に血栓をつくったり、血管を詰まらせることで流産を引き起こします。この場合は、アスピリン・ヘパリン療法で血液が固まるのを防ぎます。
また、NK細胞活性、Th1/Th2 の異常など、自分の抗体が赤ちゃんを攻撃する免疫系に対しては、免疫の暴走を抑制するためのステロイドや漢方薬を使った治療が有効です。
赤ちゃんの染色体異常の多くは偶発的に起こりますが、約10%のご夫婦のどちらかに、ロバートソン転座などの染色体の「構造の異常」が見つかることがあります。染色体検査を希望される方は、結果の取り扱いなどについて、事前に十分な遺伝子カウンセリングが必要です。
流産を予防する治療にもなりうる流産胎児染色体検査(POC)
当院では1回流産をされた方に「流産胎児染色体検査(POC)」をおすすめしています。この検査では死産した胎児の絨毛組織から染色体の「数の異常」や「構造の異常」の有無を調べます。染色体異常のうち約90%は数の異常ですが、約10%に構造の異常が見つかります。一般的に染色体異常の確率は、女性の年齢が高くなるほど増加し、40歳以上になると80%以上になります。
まずは、POC 検査で流産の原因が、おもに母体側と胚(受精卵)側のどちらにあるのかを診断することが大切です。
【染色体が正常な場合】
母体側に問題がある可能性が高くなるため、次に不育症検査を行います。一般的に、不育症検査は流産を2回以上繰り返す方を対象にしていますが、当院は1回流産された方にもおすすめしています。流産の原因を究明して適切な治療を行えば、次の流産のリスクを予防することにもつながります。
【染色体が異常な場合】
胚側に問題がある可能性が高くなります。なかでも、ロバートソン転座などの構造の異常が見つかった場合は、さらに、ご夫婦の染色体検査を行います。そこで明らかな染色体異常と診断されれば、着床前診断(PGT -SR)の対象になります。良好な胚盤胞が多く育つ方は、この検査を用いて染色体が正常な胚を診断し、移植して妊娠の確率を高めることも一つの方法です。
また、染色体の数の異常が原因で、流産を2回以上繰り返している方も、着床前診断(PGT -A)が有効な検査になると思います。
流産を繰り返していても、検査で原因を究明し、それぞれに必要な治療を行うことで妊娠される方も多くおられます。一人で悩まずに早めに受診し、妊娠をめざしてください。