中村先生に聞いてみよう!不妊治療の最前線
反復着床不全の原因の一つとされる子宮内膜の「着床の窓」のずれ。「ERA検査(子宮内膜着床能検査)」では、個々の人の着床の窓を調べ、着床に適した時期に移植することで妊娠率の向上が期待できます。ERA検査の特徴と注意点について、中村先生に解説していただきました。
着床不全の原因の多くは胚側にあり。その次が子宮内膜の「着床の窓」のずれ
良好胚を2回以上移植しても着床しない反復着床不全には、さまざまな原因があります。おもに受精卵( 胚) 側の因子が大きいのですが、なかには胚が着床する土壌となる子宮側に原因がある場合があります。その一つに挙げられるのが「着床の窓(インプランテーションウィンドウ)」のずれです。「着床の窓」とは着床可能な時期を指します。着床可能な時期は限られていて、通常排卵後5日目前後です。
ただ、妊娠しにくい方はこの着床の時期がずれていることがあります。たとえば、胚盤胞は排卵後約5日目の受精卵ですので、胚盤胞の段階で子宮内膜が排卵後5日目の状態になると一般的には一番着床しやすいとされています。そのため、凍結融解胚盤胞移植では、子宮内膜を排卵後5日目の状態に調整して、融解した胚盤胞を移植します。
しかし、着床の窓がずれていると、たとえ良好胚を移植しても妊娠が成立しません。つまり着床不全の原因となるのです。
着床しやすい時期を調べて移植。妊娠率を高めるための遺伝子検査
「E R A 検査( 子宮内膜着床能検査)」は、その人個人の着床に適した時期を調べる検査です。検査は胚移植をする時とまったく同じ条件で行います。ホルモン補充周期と自然周期のどちらでも可能です。
ホルモン補充周期での凍結融解胚移植の場合は、胚移植の時と同じ薬(エストロゲン・プロゲステロン製剤)を使い、通常の胚移植日とされる排卵後5日目の子宮内膜の状態に調整します。そして、その子宮内膜の一部を採取し、アイジェノミクス社に送ります。そして、その検体からRNAを抽出して、着床に関係する248の遺伝子がどのように発現しているかを解析します。解析結果を膨大なデータから作成したアルゴリズムにあてはめ、着床に適した時期かどうかを判定します。
検査の結果は「5.5日目が着床に適しています」「6日目が着床に適しています」というように示されます。その指示にそって、お薬の使用を開始する時期を調整したり、移植日を遅らせたりします。着床の時期が5.5日目なら、お薬の投与を12時間早め、子宮内膜が5.5日目になるように調整して胚移植を行います。6日目であれば、1日ずらして胚移植します。
子宮内膜の改善が見込める検査EMMA、ALICEも同時に可能
検査のメリットの一つは、その人個人の着床に適した時期がわかること。もう一つは先進医療A(保険診療と併用して行うことのできる検査、治療)に含まれているので、お薬代などが保険適用になることです。また、ERA検査とあわせて子宮内膜細菌叢を調べる「EMMA検査」、慢性子宮内膜炎の原因になる細菌を調べる「ALICE検査」を同時に行うことができます。3つの検査を一緒に行い、結果にそった治療を行うことで子宮内膜の着床環境の改善が見込めます。
デメリットとしては、検査自体は自費になりますので、それなりの費用がかかります。また、検査結果が出るまでに3週間ほど必要になり、約1カ月は検査に当てなければならないため、その周期は治療を行えなくなります。
当院はERA検査後に約35%の妊娠率が得られています
当院は良好胚を2回移植しても妊娠が成立しない方、また年齢が高い方で移植できる胚が限られている方を対象に移植前のERA検査をおすすめしています。反復着床不全の方では、半分以上の方で着床の時期がずれているという結果が出ています。ERA検査の結果にそって胚移植を行うと、約35%の妊娠率が得られます。これは平均年齢やこれまで着床しなかったことを考えると、すごく高い数字だと言えます。当院では非常に大きな効果を発揮している検査ですので、着床がうまくいかない場合は、まずはERA検査を最初に検討してみてください。
次回は、子宮内膜を活性化し、着床効果を高める「PRP(多血小板血漿)療法」についてお話しします。