田村秀子婦人科医院の田中紀子先生に教えていただきました。
れれれさん(43歳)
初期胚2回移植、新鮮胚2回移植、胚盤胞1回移植するも3回着床せず、2回(新・胚盤)5-6週目で流産しました。
先日、凍結していた胚盤胞4個をPGT-A検査に出すも3個は検査に出せず、1個は複数の異数性という結果。(残り3CCと3BBが1個ずつ)
残りの初期胚9個をPGT-A検査に出すか悩み中です。
予算の問題もありますが、全滅だった場合に移植できる胚がなくなるが検査すべきなのか、融解凍結融解のリスクを回避して数個は出さずに初期胚のまま移植して発育にかけてみるか……。
また、ずっと1つのクリニックに通っていますが、転院した場合、着床する可能性は上がるものなのでしょうか?
アドバイス頂けると幸いです。
・残りの初期胚をすべて検査するべきか、数個は初期胚のまま移植するか、悩んでいるそうです。先生ならどのような提案をされますか?
れれれさんは43才で、ARTでの2回の流産がある状況ですね。現在9個の初期胚を保管されているので、PGT-Aの希望があれば半分くらいPGT-A検査をやってみて、数個は初期胚のまま移植する方をお勧めします。
40代以上の方で卵巣機能がよく(採卵数が多い)比較的胚盤胞ができる方であれば、費用はかかりますが、PGT-A検査をしてから移植可能な胚を選択して移植も妊娠までの期間を短縮できるという報告もあります。ただこの年代の方の多くは、卵巣機能も低下(採卵数が少ない)し、胚盤胞になる率も低く、PGT-A検査で移植可能な胚の可能性も低くなります。PGT-Aの結果で移植可能胚がある場合はいいですが、移植可能胚がない場合は体外で長期培養するより、PGT-A検査をせずに初期胚で移植の方が向いていることもあります。
れれれさんの卵巣機能は年齢相応に少し低下されているようです。これまでの検査や治療の結果から、初期胚移植を中心にすることも選択肢の一つではないでしょうか。
・PGT-A検査に出せるかどうかは、どのような判断基準で選択しているのでしょうか?
現在のPGT-Aの検査は、採卵後2~3日目初期胚の割球を1個採取する方法よりも、5~6日目に胚盤胞となった胚の栄養外胚葉(TE:後に胎盤になる部分の細胞)を一部採取して検査に出すのが主流となっています。検査に出す胚の選択には、胚盤胞のグレードがとても重要です。胚盤胞のグレードは、見た目の発育具合と内細胞魂(ICM:後に胎児になる部分)とTEの細胞数で決まります(ガードナー分類)。以前よりグレードの高い胚は低い胚より着床率が高いため、胚移植の選択に用いられていました。PGT-A検査には、主にグレードのよい胚盤胞が選択されます。
PGT-A検査により胚は多少のダメージを受けます。さらにPGT-A検査の結果には2~3週間ほど必要なため、検査後の胚は一旦凍結され、胚移植の際に融解を行います。PGT-A検査だけでなく、凍結融解操作からも胚の着床への影響を受けると考えられ、グレードの悪い胚ではさらに影響が強いと考えられるため、PGT-A検査には選択されないことがあります。
またPGT-A検査のグレード別の結果報告をみますと、グレードの良い胚の方が低い胚よりも正数胚の割合が高くなっています。また年齢別の正数胚の割合の報告では、若い方ほど高く、42歳以上の方はグレードの良い良好胚でも2~3割程度、グレードが悪い胚ではさらに低下します。
れれれさんの年代の方であれば、受精してもグレードの良い胚盤胞にならず、PGT-A検査もできない、検査してもすべて移植不可能となる可能性も否定できません。そうなったとき、誰しも頭では理解しても、精神的にはとてもショックをうけてしまうと思います。
・転院を機に着床する可能性が上がることはありますか?
ART施設の方針や設備、医師の経験や考え方により、検査や治療の進め方・方法など、ART施設によって少しずつ違います。転院により着床の可能性が高まるということはわかりません。場合により環境を変えることで、精神的にもリフレッシュして、いい結果がもたらされることはあります。
・40代の不妊治療の進め方について、アドバイスをお願いします。
40代以上の方の不妊治療は、卵巣機能や卵子の質の低下などが一気に進む可能性があり、時間との戦いになります。早めに検査をすすめ、ご自身の状態をしっかり把握した上で、ARTを含めた適切な治療を迅速に進めることをお勧めします。
不妊治療は、結果や事実ばかりを追求するのではなく、精神的なケアも必要です。特に年齢が高くなると結果だけでは治療の継続が難しくケースもあります。まずはこれまで診てもらった医師と、治療や経過、今後の方針などのお話をして治療を進めていくことが重要だと思います。同じ年代でも、卵巣機能がよく胚盤胞が十分にできる方もいれば、卵巣機能が低下し卵子の数が少ない方もおられます。PGT-A検査により移植可能な胚を戻すという考え方も一つですが、すべての方が毎回うまくいく訳でもないため、経済的にも精神的にも追いつめられることもあります。
まずは主治医とこれまでの治療や経過などをまとめ、PGT-A検査だけにこだわらず、卵子の質の向上を目指した排卵誘発やサプリメント、受精方法、初期胚移植や着床環境の改善など、多方面からのアプローチで今後の治療を進めていくことが重要なことだと思います。